汚泥深層決戦 サン
振るわれた拳を、紙一重で回避し、後退。―――ついでに熱線で相手に風穴を開ける。
アルドワーズの分身体は、そんなことお構いなしに突貫してくる。
今度は両手を持ち上げ、真上からオレを叩きつける気らしい。
「っ!!」
顔面にもらったダメージのせいで視界が定まらぬ中、オレは必死に攻撃を見切り、降ってくる両腕を切り飛ばす。
そして、返す刃で腰を一刀両断。
しかし、分身体は止まることなく、今度は腕を再生しながら攻撃を仕掛けてくる。
オレは咄嗟に『岩傾きし身体』の魔法を再現。
この魔法は、移動速度の大幅低下させる代わりに、防御力を跳ね上げる強化魔法だ。
オレは、その防御力の上がった腕で分身体の拳を受け止め、魔法を解除。そのまま跳躍して分身体の顔面に蹴りを見舞う。
アルドワーズの分身体は、思わぬ反撃に体勢を崩す。オレはその隙をみて、ステップを踏んで後方上空に陣取った。
「スォル・イサ・ベルカナ・エワズ―――」
そして、アルドワーズに対して、オレは再び魔法を向ける。
―――二重魔法。
賢者の柱にて、オレがアルドワーズに向けた熱戦を、再び撃ち込もうとした。
アルドワーズの分身体が、オレの思惑に気がついたのか、すぐに突貫してくるが………遅い。
「―――火球」
次の瞬間、魔力を極限まで込めた熱線が重なる。
上空から放たれる極光は、突貫してきたアルドワーズの分身体を包み―――跡形もなく消し飛ばした。
「………」
後に残るのは、焼けこげた地面に周囲の水が入り込んでいく光景だけだった。
「あーあ………自主的に出てきたから、もっと頑張ると思ってたんだけどなぁ………」
「もう終わりだ。―――シュケリを返せ」
水飛沫をあげながら着地するオレを尻目に、黒髪の女の子はそっぽを向く。
「シュケリシュケリシュケリシュケリ………本当、うるさい」
女の子の顔はオレからは見えない。しかし、その声色には僅かに怒気が籠っている気がした。
「みんな、あのニセモノのことばっかり」
「………何が言いたいんだ」
少女から漏れた呟きの真意を問いただそうとして次の瞬間―――
「なっ………!?」
風の刃がオレの目の前に飛来し、慌てて距離を置く。
「まぁ、私のことなんていいじゃん。―――君はここで死ぬんだからさ」
※ ※ ※
ヨミヤは見た。
天を衝くウーズ・ブレイクより、五つの影が生まれ落ちるのを。
一つは血みどろの仮面―――ガージナル・ヴェルミヨン。
一つは鉄巨人の操縦者―――セラドン・グラス。
一つは魔族の共謀者―――アザー・ホリゾン。
一つは因縁の剣神―――シルバー・パール。
そして最後に出てきたのは、元凶―――アルドワーズ・ネーロ。
倒したはずのアルドワーズも含め、『フォーラム』の主要幹部五人の分身体が同時にヨミヤの前に立ち塞がった。
「こ………れ、は………!」
かつて自分を苦しめた敵が一度に出現し、言葉を失うヨミヤ。
「ウーズ・ブレイクが飲み込んだおじさんとか、不躾にここに入ろうとする人達とか―――君の記憶とか覗いて、あのニセモノから私を解放してくれた人達を再現してみたの」
少女は悪辣に微笑む。
「君のことは嫌い。―――だから死んでよ」
絶望の時間が幕を開けた。
閲覧いただきありがとうございます。
長くお休み頂いて申し訳ありません。なんとかメンタルも体力も持ち直したので、また投稿を続けていきます。仕事って大変だね。




