バレンタイン特別編 2025
「ごめんねフミくん………あんまりうまく作れなかった………」
とあるマンガ喫茶。
そのペアシートの中で、茶羽は加藤の膝の中で小さくなりながら、加藤へ謝罪の言葉を繰り返していた。
―――というのも、世はバレンタイン。
オタクの茶羽も、彼氏持ちの女の子。世間の女性たちと同じように初めて手作りチョコに挑戦してみたはいいものの、お菓子作りはおろか、料理さえまともにやってこなかったオタク女子。うまくいくわけもない。
連日の練習も虚しく、当日に用意できたのは大小様々なココアパウダーが大量にかかったトリュフチョコのみである。
でも、ここまで練習してあげないのも嫌だし、『バレンタインも用意できないオタク』と幻滅されるのも嫌だし、かといって出来上がったの渡すのも恥ずかしいし―――
と、様々な感情と協議を重ねた結果、思い切って渡した茶羽は、やっぱり下手くそなチョコに申し訳なくなって、加藤の膝の中で謝罪を繰り返している………というわけだ。
「………」
加藤は、そんなトリュフチョコを見つめ―――おもむろに一つ摘まんで食べる。
「え、いやいや………めちゃくちゃ美味くね?」
そして、『人生初めての彼女から貰ったチョコ』というフィルターマシマシに掛かった男子高校生は、茶羽のチョコはパクパクと食べ始める。
「ホント? ホントにおいしい? 無理して食べなくてもいいからね?」
「何言ってんの? むしろセーちゃんにもあげないからね!」
こうして、砂糖でも直接食わされてんのかと錯覚するほどの、高校生たちのバレンタインは過ぎて行った。
閲覧いただきありがとうございます。
ちなみに、この加藤は、マンガ好きの茶羽に連れられ初めてマンガ喫茶に来て以来、二人のデートの定番はマンガ喫茶になりました。
………書いてて虚しくなる今日この頃です。




