フェーズ2 汚泥潜水
『いい? ヨミヤ君。―――君には、一番危険で………大事なことをお願いするわ』
遥か上空から自由落下中のヨミヤは、頭部から落ち続けながら、脳裏にハーディの言葉を思い出していた。
『この魔廻石には、防護魔法、身体強化魔法………色んな魔法が仕込まれてるわ。それらの魔法を駆使して―――』
ヨミヤの落下は丸三分間続き―――真下に『ウーズ・ブレイク』が見えてくる。
「清水纏いし魔保護、岩山傾きし身体」
防御に比重を置く魔法を、クリスタル型の魔廻石を駆使して発動し―――ヨミヤは静かに目を瞑った。
そして、再びヨミヤは思考の中で、ハーディの言葉を反芻した。
『『ウーズ・ブレイク』に潜って欲しいの』
刹那―――
ボチャン………!!
と、まるで腐りきった地下水へ落ちるような音とともに、ヨミヤは水飛沫も上げず、『ウーズ・ブレイク』の中へ潜行する。
―――………………………痛い。
その瞬間、防護魔法も身体強化魔法も掛けているはずのヨミヤの皮膚が、ほんの少しづつ溶かされ始めた。
―――いや、問題ない………!!
しかし、それでも構わないと少年はさらなる潜行を試みる。
目標は一つ。
『潜る理由はただ一つ。―――シュケリちゃんの中にあるハズの術式を………発動してほしいの』
ハーディの言葉を思い出しながら、徐々に溶かされる身体を使いながら周囲を探るヨミヤ。
ハーディ曰く、形態移行の初期の方で、核となるシュケリの近くに忍ばせてきたため、おそらく中心部近くまで潜らなければならないそうだ。
『もし術式を見つけることが出来たら、その魔廻石の術式も使って魔法を発動するの。―――魔法の発動の時は、シュケリちゃん、ヨミヤ君、ヴェールちゃん、私………全員が手を繋ぐイメージを作って』
―――………あった!!
『ウーズ・ブレイク』に潜行すること二分。ヨミヤは、暗闇の中で光る紙片を見つける。
少年は、持ってきた魔廻石を取り出し、紙片と魔廻石を両方握る。
『私たちの記憶を繋ぐ魔法。―――その名は』
「『無窮の記憶』」
そして、魔法が発動する。
※ ※ ※
まず最初に、加藤の設置した術式が輝き出し―――光の柱を街の至る所に打ち上げた。
そして―――
『ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??』
『ウーズ・ブレイク』がより一層甲高い声を上げて、静止した。
「これは………!」
迫る分身体を十体ほど、まとめて吹き飛ばしながら、ヒカリは周囲の状況に視線を向けた。
「おいヒカリ………!」
「あぁ………」
次々と迫っていた分身体は、まるでスイッチを切られた機械のように、突如として動きを止めていた。
「ヨミ………! 成功したんだ………!」
ケガした住民の治療に当たっていたアサヒは、静かになった外を確認して下の階に居るエルフへ声をかける。
「ハーディさん!! ヨミが―――!!」
「大丈夫。見えてるわよ!!」
ハーディは、アサヒの声に応じると、円形の形に描いた術式の真ん中に座り込み、瞑目する。
―――『近くの魔法に反応する術式』なんて組んだことなかったけど………大丈夫かしらね。
今、ハーディが組んだ術式は、ヨミヤが発動させた魔法に、ハーディとヴェールの意識を繋ぐ魔法。
『ウーズ・ブレイク』への潜行が難しいヴェールの記憶を遠方から繋ぐためだけに組んだ術式だ。
「………まぁ、やるしかないわね」
年長のエルフは、『ぶっつけ本番なんていつものこと』と、長年の経験から導き出した思考の切り替え術を発揮し、後方に控えるヴェールへ顔を向ける。
「ヴェールちゃん」
「うん………!!」
ハーディがヴェールへ声を掛ければ、ヴェールは多くを語らず、その小さな唇を固く引き結んで術式の中央に………ハーディの膝の上に座る。
「あら可愛い」
「もう! ふざけないでよハーディ!!」
「アハハー! ごめんごめん!! ヴェールちゃん、基本的にアタシに近づいてくれないから!」
「だってお酒の匂いがきついんだもん!!」
旅のはじめ―――馬車の中での会話のようなやり取りを繰り広げる二人。
しばらくして、ヴェールは『ふぅ………』とため息をついた。
「もぅ………やろうよハーディ」
「そうね。―――シュケリちゃんがいないとつまんないし」
ハーディとヴェールは、そういうと、同時にゆっくりと瞼を閉じる。
そして、エルフの魔法使いは、異世界の魔法使いから教わったイメージの喚起方法を試みる。
―――汝探る者、汝繋ぐ者。我と小さな輩を連れ、夜の者へ………桜の元へ誘いたまえ。
エルフの魔法使いの集中力が極限まで高まる。
彼女自身から放出される魔力により、大気が震えだす。
「『記憶への道標』」
閲覧いただきありがとうございます。
章のタイトル回収ですね。実は当初、この話は長くても20万文字(ライトノベル二冊程度)の分量で収める気だったのですが、気がついたらここまで膨れ上がってました。
…というか、20万文字なら、とっくに次の章行ってましたね。反省点ばかりです。
余談ですが、この度、シロノクマ様より、素敵なレビューを頂きました。
本当に嬉しい限りです。反省もいいですが、絶対に完結させようと今一度頑張っていきます。
 




