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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
160/270

フェーズ2 移行開始

『作戦の第二段階目は、住民保護完了後と、術式設置完了後の合図をもって開始としよう』


 ヒカリは、不安そうな顔の加藤を筆頭に、それぞれの顔を見渡す。


『まずハーディさんは、加藤と合流して、彼を拠点まで転移してください』


『了解よ』


『アサ―――真道は、連れてきた住民の容態をみて、治療が必要なら頼む。茶羽は、拠点に刻んだ術式を使って、援護を頼む』


『わかったわ』『了解!』


『俺、タイガ、シルバー、アザーは拠点外で分身体の殲滅を頼む。―――俺とタイガが南門正面を守る。シルバーとアザーは、外壁上から来る奴らを頼む』


『へいへい』『………わかった』


『ハーディさんは拠点に到着次第、ヴェールと一緒に魔法の準備を』


『うん………!』


『緊張しなくていいわよヴェールちゃん』


『加藤は、拠点に到着後は、南門を街の外から防衛してくれ。―――街中よりいくらか敵の数は少なくなると思うから、無理はしないでくれ』


『………おう』


 自分の役割の重さに、加藤の返事に生気が無くなる。


 そんな中、ヒカリは最後にヨミヤへ視線を向けた。


『千間。お前は―――』


『―――わかってる』


 ヒカリは、強く頷くヨミヤを見て、少しだけ笑みを浮かべた。


『なら大丈夫だな』



 ※ ※ ※



 最初に、拠点である南門の方角から、魔法による光の柱が立ち上った。


 光の下級魔法だ。


 ヨミヤは、それを確認すると、近づいてきた分身体の額に剣を突き刺した。


「保護が終わった………あとは術式設置だけ………!!」


 続いて、レーザーを雑に迫る分身体に放ち、四、五体まとめて始末するヨミヤは、何となく()()予感がしていた。


―――『ヘイト集め』も完璧じゃない。そんな中、危険な街中を駆け回って術式の設置なんて、誰がやっても失敗のリスクは大きい………


 頭の裏側をチリチリと焼く焦燥感が気持ち悪い。


「………クソ!」


 ヨミヤは今日何度目か知らない爆炎の花を豪快に周囲に発動すると、自身は結界を足場に大きく跳躍。


 風を使い、術式設置地点まで一気に加速する。


―――あくまで遠くから様子を伺うだけだ。近づきすぎれば敵を連れて行きかねない。


 鉄則を自分の中で作りながら、加速するヨミヤは―――


「………加藤君!!」


 設置地点である行政府の屋上で、分身体に囲まれ、懸命に戦い続けている加藤を発見した。


「加藤君の邪魔を………するなァ!!」


 術式設置の遅れは、すなわち、シュケリ救出が遠のくことを意味する。


 ヨミヤは怒りの咆哮と共に、上空から無数の熱線を分身体共に向けて放つ。


 すると、加藤を囲んでいた。分身体があっという間に息の根を止めていく。


「せ、千間!?」


「加藤君! 術式の設置を!!」


「お、おう!!」


 思わぬ援軍に、深く息をついた加藤は、今度こそ術式を設置する。


「これで最後だ!!」


「了解!! 今すぐハーディさんと―――」


 上空で分身体を蹴散らしながら加藤と言葉を交わしていると、ヨミヤの視界の端にハーディがスゴイ勢いで加藤に向かっているのが確認できた。


―――そうか、保護が終わったから先んじて加藤君と………!


 そうと決まれば、『時短である』とヨミヤは結論付ける。


「よし、加藤君。舌、噛まないでね」


「えっ!? はっ!? 千間!? い、いつの間に―――」


 瞬間移動のように加藤の所に急降下してきたヨミヤは、加藤の腕を握り―――


「行くよ!!」


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」


 超高速で上空に飛び上がる。


「ハーディ―さーん!!!!!!!!」


 そして、上空を見上げるエルフに向かって、


「加藤君をお願いしますっ!!!」


 加藤を()()()()()


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 叫び声をあげる加藤。


 その先には慌てふためくハーディの姿がある。


「加藤君!! 帝都でのこと―――時間があるときに謝りたい!!」


 叫ぶヨミヤに、加藤は親指を立てながら飛んで行った。



「ちょちょちょちょ―――!!?」


 ヨミヤにぞんざいに投げられた少年を、ハーディは自らも上空でキャッチすることで何とか取り落とさずに済む。


「あ、あうぃわおうおはいまふ………」


 おそらく『ありがとうございます』だろう。紐なしバンジージャンプと、超高速のジェットコースターを同時に味わった気分の加藤は目を回しながらハーディに礼を告げている。


「………どういたしまして」


 冷や汗を隠せないハーディは、加藤に言葉を返し、光の下級魔法を上空に打ち上げた。


「ハーディさん!! 俺、このまま次の()()()()に行くよ!!」


 ハーディは、上空からのヨミヤの声に顔を上げる。


「分かったわ!! ―――死なないでね」


「それは、ハーディさん次第ですよ!」


 言葉を交わしヨミヤは、その場から飛び去る。


 それを見送ったハーディは、横から迫る分身体を確認して、


「『転移(テレポート)』」


 転移を使い、拠点である南門まで戻ってきた。


「きゃっ!?」


「おわっ!?」


 転移すると、すぐ目の前に茶羽がおり、態勢を崩した加藤が茶羽の胸の中に突っ込む。


「ちょっ………フミヤ君!?」


「すみふぁふぇんふふぁふぉいりょふ」


 『すみません不可抗力』といっているのだろう。加藤は避難民が終結する拠点にて、堂々と茶羽の胸の中に顔をうずめてしまった。


「早かったですねハーディさん」


 一方、ハーディに声をかけるのはアサヒだ。


「ええ。ヨミヤ君がカトウ君のフォローしてくれてね。予定より早く到着したわ」


「………じゃあ、ヨミは」


「えぇ………一目散に待機場所に向かったわ」


「そうですか………」


 ハーディにも分かるほど、アサヒの顔は不安に支配されていた。


 シューリと同じ年ぐらいの女の子の不安そうな顔に、自然と心配が募るハーディではあったが………


「へ、変なことしてないで早くタイガ君達のフォロー行って!!」


「りょっ、了解っす!!」


 変な言葉づかいで急いで外へ出ていく加藤を見て、ハーディは意識を切り替える。


―――まずは事態の収拾………シュケリちゃんを助けないと………!


 ハーディは茶羽に顔を向け、


「サバネちゃん。準備は!?」


「はい! 下の階に出来ています!! ヴェールちゃんがもう待機してます!!」


「オッケー!!」


 外壁は五階建てだ。現在ハーディが居るのは住民たちの避難している五階部分。現在は五〇人ほどの住民が避難している。


 ハーディが、加藤に術式設置を依頼した魔法は、そのすぐ下の四階に残りの術式を用意してあるとのことだ。


「さぁて………待ってなさいシュケリちゃん………!」



「あんのヨミヤ(くそがき)一人でどっか行きやがってェ………! おかげでオレに化け物集中して拠点に行きずれぇじゃねぇか!!」


 打って変わってシルバー。


 彼は現在、南門が先に見える大通りを分身体を引きつれ爆走していた。


「クソが!!」


 シルバーは、このまま拠点に突っ込むわけには行かないと判断したのか、振り向きざまに『飛ぶ斬撃』をいくつもバケモノの群れに放ち、その数を大きく減らす。


「おいガキんちょ!! そのまま上に行く!! 手を貸せェ!!」


 南門の前で分身体と戦うヒカリへシルバーは声を張り上げる。


 それに気が付いたヒカリは、


「偉そうなオッサンだなぁ!!」


 飛び上がるシルバーの靴底を支え―――能力(ギフト)で超強化されたパワーで、シルバーを遥か上空に投げ飛ばした。


「ハハッー!! 助かったぜガキんちょ!!」


「しっかりやれよッ!!」


 ヒカリ言葉を背に、シルバーはそのまま壁に足をかけて、外壁を駆けのぼり―――


「し、シルバー!?」


 分身体に囲まれるアザーを、外壁屋上で発見した。


「伏せろアザー!!」


 シルバーは頭を下げるアザーを確認すると、そのままの勢いで長剣を振り回し、敵を粉々にしてしまった。


「しっかりしろよ獣人!!」


「うるさい人間!!」



 ※ ※ ※



「………………」


 分身体すらもやってこない遥か上空。


 ヨミヤは一人、眼下の汚泥を―――『ウーズ・ブレイク』へと変貌したシュケリを見下ろした。


「こちらヨミヤ。―――待機場所に着いた。そっちは?」


『こちら茶羽!! ハーディさんも定位置についた!!』


「了解。―――じゃあ始めよう」


 ヒカリから預かった通信用のクリスタル。


 それを懐にしまい―――ヨミヤは無造作に()()()()()

閲覧いただきありがとうございます。

ちなみに、メフェリトの人口は帝都に次ぐほどの多さなので、被害規模が尋常ではないことがわかります。

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