フェーズ1 ニ
「『探知』」
ハーディは、ヨミヤとは比べ物にならない程の魔法熟練度をもって、彼より広大な範囲を魔法で探る。
「ヒカリ君、あのビルに五人取り残されてるわ。―――タイガ君はあっちのビルの中にいる三人連れて来て!」
「「了解」」
ヒカリ達が立案した作戦の第一フェーズは、いくつかのグループに分かれて役目を全うするものだった。
特に、ハーディの居るグループは『住民保護』を担当するチームだ。
手法としては、ハーディが探知の魔法を使い、生き残った住民を片っ端から保護するものだ。
―――当初は、見つけた住民を歩きで拠点である、魔獣除けの外壁の南門まで連れて行く予定であったが、茶羽が使命感から、
『私が転移魔法で保護した人運ぼうか?』
なんて言ってしまったが最後、ハーディが茶羽から『転移魔法』のことについて根ほり葉ほり聞きだされ―――結果として、あっさり転移魔法を習得してしまったハーディが、保護した住民を拠点へ運ぶ役割を担ってしまった。
―――全く、私のバカ弟子共は………本当に優秀なんだから。
『転移魔法』という規格外の魔法の割に、消費魔力の少なさに驚きながら、ハーディは口端を少しだけ吊り上げた。
「………にしても、あのサバネって子―――すごいわねぇ」
転移魔法を改良した茶羽に、素直に関心の言葉を漏らしながら、ハーディは杖に跨り、街を駆け抜ける。
「『氷壁』!!」
南門・外壁内の最上階。外壁屋上に繋がる階段を氷の壁で塞ぐ茶羽。
「セーカ! 火球の術式刻んだよ!!」
「こっちもだ!!」
石畳の飾り気のない部屋。
中には、剣や槍などの武器や、鎧や鎖帷子などの防具が置いてある。―――もとは武具などを保管する倉庫だったのは想像に難くない。
そんな部屋には、外の様子を伺うことのできる小さな窓が点在している。
その窓の足元にアサヒとアザーは下級魔法の術式を刻んで回っていた。
「なら、他の属性の基本魔法も刻んでおいて!! 私が後から見て回って術式改良しとく!!」
茶羽たちのグループが担うのは『拠点設営』。この外壁・南門のすぐ上の部屋を住民を保護した後の避難区域とし、迫りくる分身体を迎撃できる拠点を築くのだ。
今アサヒ達が行っているのは、すぐに誰でも魔法を使えるように術式を刻む過程だ。
街側の壁と、街の外側の壁に刻む予定らしく、街の外側の壁には、一生懸命術式を掘るヴェールが居た。
「さ、サバネさん………こ、これでどう………?」
「んー、どれどれ………」
茶羽は作業前にヴェールへ、水属性の基本魔法『水尖』の術式の刻み方を軽くレクチャーしておいた。
ヴェールが茶羽に声をかけたのは、その術式が正確であるかどうかの確認といったところだ。
「ん、完璧! そのままドンドンお願いしていい?」
「わ、わかった!」
本来なら、知らない人間に警戒心が高いヴェール。
しかし、状況が状況なだけに彼女は自分のできることを精一杯やっていた。
―――私はなにもできない………っ! なら、お姉ちゃんを助けるために頑張らないと………!
シュケリのことを思い出して、涙がにじむヴェールは、力強く目元を拭うと、一生懸命術式を刻み始めた。
「うひゃァ!?」
加藤は一人、街の中を駆けずりまわっていた。
ヨミヤとシルバーのヘイト稼ぎから漏れた分身体が高頻度で襲い掛かってくる中、ひたすら走り回っていた。
『加藤君………君に最重要事項を任せるわ』
―――漫画とかでしか見ないエルフの頼み事だからって………安請け合いしすぎたかも………っ!!
知り合ってから数分のエルフのお姉さんに押し付けられた加藤の役割。それは―――
「ウーズの子を元に戻すための術式設置なんて………荷が重すぎるぅ!!」
そう、簡単に言ってしまうなら、『事態を収束させるための魔法』の土台の準備だ。
加藤が今、この役割ミスれば、もれなく全滅のリスクが爆増する。―――それだけ重要な役割だ。
―――エルフの人にデレデレしてたと思われてセーちゃんには睨まれるし、プレッシャー酷すぎて胃が痛いし………最悪だ!!
ビルの間を壁ジャンプを駆使しながら高速で駆け上る加藤は、屋上にたどり着くと、懐から一枚の小さな紙を取り出し、地面に叩きつけた。
「『模倣』ッ!!」
そして、ハーディから教わった模倣の魔法で、ビルに術式を刻む。
ちなみに、具体的に何をしているのかというと、ハーディが『ウーズ・ブレイク』に掛ける魔法に必要な術式を十二箇所、指定された街の至る所に設置しなければならない。
さらにさらに、足の速くて、防御力の高い加藤が一番適任だと判断された役割だ。
「あと十一箇所!!」
加藤が設置が必要な術式の数を叫ぶと、まるで呼応したように空から複数の分身体が加藤へ殺到する。
「―――こぉんのォォォォッ!!」
身体を回転させながら立ち位置を微妙にズラし、加藤は前方からやってくる分身体をまとめて蹴り飛ばし、後方から迫った分身体は、立ち位置をずらされたせいで、攻撃を空振る。
「だりゃァァァァッ!!」
そうして、空中で身を捻りながら、加藤は分身体の頭上からつま先を叩きこみ、そのまま分身体を踏み台に駆け出した。
「くっそォォォォォォォォォォォ!! やってやんよォォォォォォォォォッ!!」
ヤケクソ気味に叫びながら、加藤はビルの屋上から勢いよく飛び降りた。
閲覧いただきありがとうございます。
ちなみに、『フォーラム』は関係ない人間を巻き込むのは極力避けたい集団です。故に、『ウーズ・ブレイク』のコントロールを失敗し、被害を大量に出した現状は『負け』らしいです。




