想いを飲み込んで サン
「ヨミ………!」
誰もが、ヨミヤの突然の乱入に反応できない中、アサヒは一人、シルバーの治療をやめて少年に駆け寄った。
「大丈夫!? 今治療を―――」
「大丈夫だよ」
ヨミヤはすぐに魔法を使おうとするアサヒを優しく静止し、ゆっくりと立ち上がった。
「ヒカリ」
そして、因縁の少年―――剣崎ヒカリへと声をかけた。
事情を知るアサヒや加藤、茶羽は、全員の脳裏に帝都での一戦が蘇り、緊張が高まる。
一方、ヨミヤの事情を知るものの、当事者ではなかったハーディは、事の成り行きを静かに見つめ、何も知らぬヴェールは、ヨミヤが見たことのない顔をしているものだから、不安そうにハーディの袖を握っている。
「………なんだ」
ヨミヤを真正面に捉えるヒカリは、目を逸らすことなく、短くヨミヤの言葉に答えた。
「―――………………力を………貸して………欲しい」
それは、未だに勇者を許すことのできない復讐者が―――少年が、自分の想いに蓋をして、絞り出した一言だった。
煮え湯を飲み、復讐心という業火の中に自分自身を放り込む決断。
―――すべては一人の少女のために。
「うまくは言えないけど………オレは、あのウーズの中に居る女の子を助けたい。―――ここまで一緒に旅した仲間を………救いたいんだ」
周囲の人間からすれば意外な一言。
全員が口をはさむことが出来ずヨミヤの言葉を聞いている。
「………安心しろよ」
そんな中、ヨミヤの正面に立つヒカリはゆっくりと息を吐きだした。
「俺は、千間―――お前のことを蔑ろにできる立場じゃない」
呆れたように吐き捨てる言葉は、ヨミヤへ向けられたものか、または自分自身に向けられたものか。それはきっと本人にもわからない。
ヒカリは、『でも』と言葉を付け加えた。
「俺達は『生き残った住民を助ける』っていう目的がある。―――協力できることにも限度がある」
「あぁ………それでいい」
ヨミヤは息を吐き出し、肩の荷が下りたように、ゆっくりと視線を下げた。
「それで、なんでアンタが居るんだ………」
そして、外から中を確認したときからずっと疑問に思ってたことを口にする。
「お前こそ、発生源の『柱』に居て良く助かったなクソガキ」
ヨミヤの視線が自分に向いていることに気が付いたシルバーは、薄く笑みを作り、ヨミヤを挑発する。
「やめろ。―――この状況はコイツらにとっても想定外らしい。一時的に手を組んでる。悪いがいがみ合いはやめてくれ」
すぐにヨミヤの視線を遮るように間に入るヒカリ。
「………まぁいいや」
ヨミヤも、時間が惜しいと感じたのか、睨みつけていたシルバーから視線を外す。
「―――よし、時間も惜しい。『作戦』について、手短に練っていこう」
ヨミヤ、ヒカリ、シルバー、ハーディ、アザー、タイガ、加藤、茶羽、アサヒ、ヴェール。
計十人の、人間、エルフ、魔族、異世界人が一堂に会した。
※ ※ ※
『メフェリト』郊外。
「なんだアレは………」
昏い空、泥で作られたような魔獣モドキ―――『ウーズ・ブレイク』の分身体。その全てに驚愕の表情を見せる人物がいた。
「アネゴ………ヤバいの居るっす………!!」
娘を探す女魔族は、遠目に見える膨れ上がった『ウーズ・ブレイク』を見つめた。
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ちなみに、ヨミヤが女の子と旅をしている事実を知って明確に傷ついてる子が一人います。
誰だろね?




