想いを飲み込んで ニ
『ウーズ・ブレイク』降臨直後―――
「ヨミヤ君、ごめんなさい………シュケリちゃんを………守り抜けなかったわ」
ヨミヤは、合流したハーディやヴェールと共に、『ウーズ・ブレイク』を見上げながら、事の経緯をハーディから聞いていた。
「………やめましょう。ハーディさんは何も悪くない。―――今は、どうにかしてシュケリを元に戻す方法を考えましょう」
謝罪を述べるハーディに向けて首を振るヨミヤ。
「それで、『ウーズ化』の直接的な原因はわからないんですよね?」
「えぇ………少なくとも、直前まで私とヴェールちゃんと喋ってたくらいだから、『擬態』が解けることはあっても、ここまで肥大化する様子はなかったわ」
ヨミヤやハーディには知る由もないが、シュケリの『ウーズ・ブレイク』への変異は、『フォーラム』の科学者セラドンが、死の間際に『起動スイッチ』にて、魔獣の記憶を大量にシュケリへ送ったことが原因だ。
その事実を知らない彼らには、シュケリの『ウーズ・ブレイク』への変異の謎が解けないままだ。
「………………切り替えましょう。こうなった以上、先のことを考えないと」
「…………ねぇヨミヤ」
そんなとき、ヨミヤの袖をヴェールがそっと、引っ張った。
「………どうしたヴェール?」
ヨミヤは、自分を見上げるヴェールの顔に曇りがあることを察し(原因などわかりきっているが)、ヴェールの目線まで腰を落とし、まっすぐに彼女に向き合った。
「お姉ちゃん………助けたい………わたし、わたし………こんなお別れ………したくないよぉ………」
ヴェールの瞳から雫がこぼれる。―――ヨミヤは、静かに涙を流すヴェールの涙を親指でしっかりと拭ってやった。
「分かる。―――オレもシュケリを助けたい」
「ヨミヤ………」
ヴェールへ共感の意志を伝えるヨミヤは、自分とヴェールの目があったことを確認すると、力強くうなずいた。
「だから、全力で、全身全霊をかけて助けに行く。ヴェールも手伝ってくれるか?」
「………うん!」
少年の己を賭した誓いに、ヴェールは自分の手で涙をぬぐい、今にも溢れそうな雫を堪えて大きく頷いた。
その時だった。
『ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
シュケリの―――『ウーズ・ブレイク』の叫喚が、魔法都市に木霊した。
「「「!!!??」」」
鼓膜が破れかねない程の音圧に、咄嗟に耳を塞ぐ一行。
「―――あれは………!!」
そんな中、ハーディがあることに気が付き―――声を張り上げた。
「ヨミヤ君ッ!! 捕まって!!!」
「―――わかりました!!」
何が起こるか分からないヨミヤであったが、ハーディの一言にとりあえず従い、ヴェールを抱いて、その場を離れようとするハーディの杖に捕まる。
「あれは………っ!?」
そして、次の瞬間、『ウーズ・ブレイク』より空を覆うほど大量の『分身体』が出現し、ヨミヤはすぐにハーディが動き出した理由を悟る。
「『前にも』見てるから………詳しいのよ」
ヨミヤの驚いた様子を見たハーディは、そんな補足を付け加え、迫る分身達から逃亡を始める。
「でも、どこに逃げるのハーディ!?」
「そりゃ、屋内ね。―――逃げ込んだ先でまた作戦を練りましょう!」
ヴェールとハーディの会話。
ヨミヤは、二人の会話を聞き、自分も周囲の様子を観察する。
「―――………………あれは」
そんなヨミヤの視界に、一棟のビルが映る。
全面がガラス張りのごく一般的なビル。―――一つ不自然な点は、最上階のガラスだけ氷の壁で補強されていること。
どうやら、『ウーズ・ブレイク』が動いたことにいち早く気が付いた集団が居たらしい。今はガラスの補強作業の途中なのだろう。残り一枚を補強すれば作業が終わるところだ。
「………」
ヨミヤは、そんな最後のガラスの向こう側にいる集団を見て、口を噤む。
「一杯建物あるけどそこじゃダメなのハーディ!?」
「いいけど、人数一杯いるせいで制御が難しいの! 下手に操作しようものなら事故るわよぉ!!?」
―――………頼りたくはない。
『せめて同じ高さの建物ないのぉ!!?』と、必死に操縦魔法を操るハーディ。ヴェールは、そんなハーディに気を使い、必死に周りの建物を見渡している。
―――でも………
後方から、『ウーズ・ブレイク』の分身体が迫る。杖に人数分の重さが乗っている以上、スピードが出ないのだろう。
ヨミヤは状況と、自分の現状―――何より、目的を考え、見据え………決断する。
「ハーディさん! オレが風で補助します!! 十一時の方向の氷でガラス補強してるビルに突っ込んでください!!」
「え? ええ!?」
『操作が難しい』と伝えたばかりなのに、カーブを描くように飛ぶことを要求されたハーディは、困惑の声を上げる。が―――
「行きますよ!!」
「ちょっ―――」
次の瞬間には、ヨミヤの風による加速と操作補助が始まり、ハーディは舵を切ることを余儀なくされた。
「死んだら恨むんだからー!!」
心配の声を叫ぶハーディとは裏腹に、スピードを上げた一行はドンドン加速していく。
そして―――
「着地はオレがやります!! ハーディさんは氷で壊した壁の補強を!!」
「分かったわ!!」
数十メートルまでビルのガラスを補強する氷まで迫り、ヨミヤは自身の能力―――『領域』を強く意識した。
―――人の配置………問題なし!!
探知魔法にて中の人間の位置関係を把握したヨミヤは、氷の壁を破壊すべく無数の火球を生成。容赦なくガラス一枚分の氷に火球をぶつけ―――
「突破します!!」
―――派手に氷の壁を破壊しながら、ビルの中へ侵入を果たした。
「風を………ッ!!」
ヴェールを庇うヨミヤは、真正面に迫った壁から強烈な風を生成。自身とハーディの衝撃を全て無効かする。
一方、杖を放り出してヨミヤに全てを預けていたハーディはすぐに―――
「氷壁!!」
分厚い氷の壁を生成し、すぐに周囲は壁にぶつかる分身の音だけが響き渡った。
閲覧いただきありがとうございます。
何故彼らの元にヨミヤが現れたのかを書いてたら文字数多くなっちゃいました。
セラドンが起動スイッチを押した事実は、きっとシルバーとアザーなら察しがついてるでしょうね。その事実をヨミヤ達に話すかは分かりませんが。




