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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
153/270

夜黒 ゴ

 その日、賢者の住まう『柱』は()()()()


 真っ白な塔は、至る所から『黒き泥』を吐き続ける穢れの象徴となり、


 『賢者』達は、無辜の民を蹂躙する怪物を作った者達として、『愚者』の烙印を刻まれる。


 その日の空は、陽光すら染め上げる『夜黒』へと翻った。



 ※ ※ ※



「なんだアレは………」


 ヒカリは、周囲の空が暗くなったのと同時に、『賢者の柱』から滝のように流れ続ける『泥』を目撃して、肩の痛みすら忘れて起き上がる。


 現在、柱より『泥』が流れ続ける。―――賢者の塔の足元は既に『泥』で埋め尽くされており、ヒカリはその中で、逃げまどう人々を見つけた。


「ッ!? ―――おい!! こっちだ!!」


 泥の進行スピードに追い付かれそうな人たちに、屋上から必死に声をかけるヒカリだが―――


「おい、逃げ―――!!」


 次の瞬間、逃げていた人々全員が泥に呑まれて、もがき始める。


 そして、泥はあっという間に人々を飲み込んで―――溶かしてしまった。


「―――ッ!!?」


 『溶かされ、死ぬ』。そんな凄惨な光景を前にして、驚愕と衝撃で息を飲むヒカリ。


 だが、目の前の『死』を嘆いている暇などなかった。


「やだっ………やだ、やだやだやだやだ死にたく―――」


「お母さん助けっ―――」


「キャァァァァァァァっ―――」


「痛いッ!! 痛い嫌だ死にたくないィィィィィィィ!!」


 街の至る所で、『泥』に飲み込まれ()()()()()()の悲鳴が響き始めたのだから。


「こ、れ………は………―――」


 目を閉じ、耳を塞ぎ、目の前のすべてから逃げ出したくなった。


 まともに思考すれば、喉の奥から吐しゃ物をまき散らしかねない。―――鮮烈で衝撃的な………それでいて、今までに感じたことのない生々しい『死に際』が街中に広がっていた。


 だが―――


「………………………アサヒは?」


 現実逃避を推奨する思考の裏側では、闇に差す『朝日』のような少女が笑っていた。


「………!!」


 ヒカリが『賢者の柱』前の広場にて、大きく吹き飛ばされてしまい、はぐれた少女。


 ポケットから通信用の水晶を取り出すヒカリは、タイガに繋がったかどうかも確認せず叫んだ。


「タイガッ!!!!」


『うおッ!? うるせぇ!?』


 奇跡的にすぐに応答したタイガは、水晶の向こう側で軽い悲鳴を上げる。


「アサヒは!? アサヒはお前と一緒か!?」


 しかし、タイガの状況などお構いなしのヒカリは、一切声量を落とさぬまま叫び続ける。


『ちょっ、ま―――ああ!! ()()()!! 一緒に居る!!』


 ちなみに、水晶の向こう側では、なぜか銃撃のような音が頻繁に聞こえているのだが、ヒカリは一切その音について言及することはない。


「どこに居る!?」


『あぁ!? どこって………路地裏だが!?』


「逃げろッ!!」


『はぁ!? コッチの状況も知らねークセに何を―――』


「いいからすぐ逃げろ!! ヤバい()()が街中に広がってる!!」


『なんだそりゃ!? もっと具体的に―――』


 その時、水晶の向こう側のタイガが、はっきりと息を飲む音が聞こえた。



 ※ ※ ※



「んだぁ………アレ………」


 タイガは現在、茶羽の展開した結界に守られ、『フォーラム』構成員たちの銃撃に耐えていた。


 のだが、そんな彼の視線は敵の向こう側―――五十メートル以上先に見える路地裏の入り口に釘付けになっていた。


「ちょっとタイガ君!? 俺一人で敵倒すの辛いんだけどぉ!?」


「まて加藤………―――アレ、なんだ?」


 加藤を静止して、路地裏の入り口を指すタイガ。そして―――



「ぎぃぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」



 鼓膜に爪を立てるような悲鳴が響いた。


「「「ッッ!!?」」」


 その場の全員が驚きで動きを止め―――声の主に視線を送り、


 『黒い泥』に絡みつかれ、()()()()()()()()()()()を目撃した。


「ㇶッ………」


 茶羽から引きつったような声が漏れる。


「なに………アレ………」


 絶句したアサヒは、なんとかそんな言葉だけ零して―――


 次の瞬間、路地裏に『黒い泥』が殺到した。


『逃げろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!?』


 ヒカリの声が水晶から響き渡る。


 ―――幸いかな。取るべき行動を一言で伝えたヒカリの声に反応したのはタイガだった。


「加藤ッ!! 茶羽を運べ!!」


 『黒い泥』が危険であることは、その場の全員が理解していた。


 故に、アサヒを咄嗟に担いだタイガの言葉に、加藤も反応することができる。


「ッッッ!!」


 アサヒを担いだタイガ、茶羽を抱えた加藤、両者とも『黒い泥』を紙一重で回避し、路地裏を形成する建物の屋根へ避難した。


「ギャァ、アアァァァ!! 嫌だ! いやだぁぁァァァァァ!!」


「こんなの………こんなの聞いてない!! やだぁ!! 死にたくな―――」


 一方、『フォーラム』の構成員は、逃げることが叶わず、全員が無慈悲に『黒い泥』に飲み込まれていった。

閲覧いただきありがとうございます。

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