夜黒 サン
人は、
良くあり、
好くあって、
善くあるべき。
幼いころからそう教わってきた。
『良い物を求め、人から好く思われ、人として善くあるべき』だと、そういった教育方針のもと育ってきた。
私自身、その考えは尊いものだし、そうあるべきだと思い生きてきた。
だが、世界はそうではなかった。
魔族に蹂躙された街で身の丈を超える剣を持ち戦う少年、
時には、魔族に襲われて気のふれた少年がいる土地にも訪れた。
それだけではない。
魔族の街で魔族の子供を攫い、奴隷にする人間もいた。
貴族たちは趣味に奴隷をいたぶる異常者ばかり。
世界には『良い』ものなど存在していなかった。
※ ※ ※
「ウォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ッ………!?」
ヨミヤは、壁に埋まった体を無理やり引き抜きその場から退避する。
直後、ヨミヤのいた壁にアルドワーズが突っ込んでくる。それだけで壁は派手な音を立てて崩れだす。
「………こっちは急いでるのに!!」
前転から地面に手をつき、身を翻したヨミヤは、砂埃の奥に潜むアルドワーズをにらみつける。
「がぁッ!!」
刹那、砂誇りをぶち破り、ヨミヤの顔面ほどの瓦礫が投擲された。
「ッ!?」
反応の遅れたヨミヤは、咄嗟に結界を展開。瓦礫が結界に遮られるが―――
「………嘘だろ」
結界に瓦礫が直撃した直後、瓦礫が粉々に砕けるのと同時に、結界も破られた。
「つくづく規格外の爺さんだ………」
明らかに先ほどよりも威力が上がっている。
ヨミヤはすぐに『長期戦はヤバい』と判断し、十本以上の熱線と同時に走り出す。
「ぬぅ………ッ」
が―――
「なっ―――!?」
『受容』の一言など聞こえなかった。―――だというのに、アルドワーズはすべての熱線を受け切った。
能力の発動条件を無視して、能力の恩恵を発動して見せたのだ。
―――そもそも発動条件なんてなかった………? いや、仮に常時発動だとしても矛盾がある………―――なんなんだあの爺さんは!!
思考の中で悪態をつくヨミヤは、しかし次の瞬間、目を剥く。
「がァッ!!」
「グッ―――!!」
目の前に急接近したアルドワーズの拳を顔面に食らってしまったのだ。
首から骨の軋む音が聞こえ、顔面からは鳴ってはならない鈍い音が盛大に響く。
瞬間―――ヨミヤの視界が弾けた。
同時に少年の身体は、ロビー中央の噴水を破壊し、まるでボールのように高くバウンドして、そのまま地面に叩きつけられた。
「ッッッ~~~~~~~~~!!!!???」
痛い、痛い痛い痛い。
首が捩じ切れたと勘違いするほどの痛みを訴えを起こし、殴られた頬はまるで熱した鉄球をそのまま当てられたかのように灼熱を伝える。
視界は、ゲームのバグでも起きたかのようにパチパチと弾けては、目の前が激しく明滅している。
声が、うまく出なかった。
「―――――――」
魔力の消費など考える暇もなく、ありったけの回復魔法を自身にかける。
「ぐぅぅぅぅぅ………」
「くっ………」
しかし、完治よりも先にアルドワーズが目の前に現れる。
ギリギリまで回復を行うヨミヤは、多大な魔力の消費など目もくれず少しづつ後ずさる。
―――とにかく冷静にならないと………!!
「がッァ!!」
何とか思考を回せるまでに回復したヨミヤは、突っ込んでくるアルドワーズを無視して大きく飛び、二階の廊下に着地する。
だが、アルドワーズは止まらない。
ありえない跳躍を発揮してヨミヤに食らいつくのだ。
アルドワーズのパワーアップは、一種の『覚醒』だった。
男の持つ能力、『受容』と『吸引』は本来、言葉を発することなく常時発動することのできる能力だ。
しかし、戦闘が苦手(戦闘に関する向上心もない)アルドワーズは、無意識のうちに能力の『オンオフ』をするようになっていた。
そして、能力を『オン』にする時には、『受容』『来なさい』などのスイッチが必要になっていた。
だが、アルドワーズにとって重要な局面である現在―――少年の致命的な一撃によりアルドワーズが文字通り、『覚醒』した。
「こんの………ッ!!」
ヨミヤは鎖を複数展開。
アルドワーズの両手、両足、胴体に紫の鎖が巻き付き、男の挙動を制限する。
本来なら、一ミリたりとも動くことのできない状況。なのだが、
「がぁ!!」
まず、右腕の拘束が破壊された。
「………チッ」
ありえない馬鹿力が鎖を破壊し始めた。
「―――死ぬなよ」
そんなアルドワーズを放置して、ヨミヤはアルドワーズの背後―――ロビーの上空にて、結界を用いて空中に立つ。
「スォル・イサ・ベルカナ・エワズ―――」
そして、呪文を紡ぐ。
唱えるのは、ヨミヤと共にここまで戦い続けた魔法。
「―――火球」
刹那、熱線が重なり、威力が増大した。
二重魔法。
ヨミヤが生み出した、火力の上限を突き抜けるための裏技。自身で唱えた魔法と、『領域』によって再現した魔法を重ねる技だ。
極光を放つ熱線は、容赦なくアルドワーズを飲み込み―――
『柱』の床や壁も、地面も何もかもを貫き、消滅させた。
閲覧いただきありがとうございます。
今日はSAOFDをやろうと思ってましたが、とりあえず書きました。
 




