夜黒 ニ
「ㇵァ………ㇵァ………ㇵァ………」
瓦礫が人間の頭など容易に吹っ飛ばせるほどの勢いで飛び交う。
ヨミヤは、そんな中を時には壁を伝い走りぬけ、時には風を使って宙を飛び交い、時には瓦礫に魔法を当てて回避を続ける。
そんなヨミヤを、根気よく狙い続けるアルドワーズだが―――
「………『来なさい』」
眉を寄せながら男は自分の能力でヨミヤを引き込み始める。
「―――ぐっ………!! しまっ―――」
彼我の距離五十メートルほど。
ヨミヤはグルグルと、引き込まれ、視界が揺れる中、アルドワーズが巨大な瓦礫を投げつけるのを目撃した。
「………っ」
ヨミヤは想定外の事態に、自身に風を当てて空中で体勢を整える。
「終わりです!!」
次の瞬間、ヨミヤの身体より尚大きい岩が、弾丸かと見まがうほどのスピードで迫った。
ヨミヤは、真正面からその岩に相対し―――
岩が不自然な挙動を描いた。
正確に表現するなら、ヨミヤは岩を掴んだ。―――本来であれば、そのまま岩と壁の間に挟まり圧死する暴挙だ。
しかし、岩はそれ以上突き進むこともなく、掴んだヨミヤごと、一回転したのだ。
原理は簡単。
細かく風を当てることで岩の挙動を操ったのだ。
「なっ………あ………!?」
下手すれば死にかねない暴挙に絶句するアルドワーズを他所に、ヨミヤは全身全霊の力で岩を支える。
プルプルと片手で岩を持ち上げながら、展開した結界を足場にアルドワーズに接近し―――
「くっ、らっ―――」
「ッ!? 『じゅ―――」
「―――えええええええぇぇぇッ!!」
キャッチした岩を、ヨミヤは容赦なくアルドワーズの脳天にブチ当てた。
※ ※ ※
「くそ………手こずった………!!」
着地がうまくいかず、顔面から落ちたヨミヤは、けれどすぐさま立ち上がり走り出す。
彼の視界には、地面に足首まで埋まったアルドワーズが白目を剥いて気絶している。
「………」
戦い方は不気味ではあったものの、男の言ったことに『誠実さ』まで感じていたヨミヤはほんの少しだけアルドワーズに意識を向ける。
―――きっと、シュケリのことも『意志ある者』としてみていた。
ぼんやりと、発言の端々にそんな印象を受けたヨミヤ。
シルバーは、シュケリを完全に『バケモノ』としてみていた。―――侮蔑や嘲笑も混じってはいたが、きっとこの世界ではあの反応が正しいのだろう。
だというのに、目の前で気絶する男は、シュケリにすら人間のように扱った稀有な人間なのだ。
―――でも………それでもシュケリを犠牲になんてさせない………!
そのうえで、シュケリを『生贄』にしようとした男を一瞥し、ヨミヤはアルドワーズの横をよこを通り過ぎようとして―――
「ま………ち………なさ………い」
ヨミヤの手首を、アルドワーズが掴んだ。
「なっ―――!!?」
驚愕に目を見開くヨミヤ。
しかし、咄嗟に動き出してすぐアルドワーズの手を振り払おうとするヨミヤだった。
が―――
「こんの………馬鹿力………!!」
巨大な瓦礫をとんでもない速さで投げることのできる巨腕に捕まってしまっては逃げ出すことも叶わないヨミヤ。
「まだ………です………ッ!!」
刹那。
掴まれた腕を強引に振り回され、ヨミヤは猛スピードで壁に投げつけられた。
「が………ァ………ッ!!」
ヨミヤは成すすべなく背中から壁に激突。あまりの衝撃に壁が巨大なクモの巣模様を描き出した。
「悲願は必ず成就させるッ!! ―――たとえこの身が息絶えようともッ!!」
頭部から血を流す男は、地面に埋没した足を抜き―――再び大地に立って見せた。
閲覧いただきありがとうございます。
書いてるうちに、「この爺さん………熱いな」ってなりました。




