夜黒 イチ
「私は、貴方を殺します」
その宣言と共にアルドワーズは、全速力で突っ込んできた。
「―――望むところ」
オレは、アルドワーズのタックルを難なく回避して火球を三発撃ち込む。
「『受容』!!」
アルドワーズは、火だるまになること必至の魔法を、訳の分からない言葉と共に無傷でやり過ごして見せる。
現状、わかったことが二つある。
「―――まだまだ!!」
一つ目は、アルドワーズの能力は、『受容』と『来なさい』という単語がトリガーになっているということ。
これは、状況的にも確定だ。
現に、『受容』と言いそびれた時の剣の一撃は明らかに効いていた。
『物理の攻撃が効きやすい』なんてRPGみたいな予想も立てることはできるが、それならオレを引き寄せるようなことはしないし、さっきみたいに自分から突っ込むこともないはずだ。
二つ目は、『それでも防御力は馬鹿みたいに高い』ということだ。―――それもそうだ。能力もなしに剣の攻撃を生身で受けることのできる人間がいるはずがない。
「『受容! 受容受容受容受―――グッ!?」
アルドワーズはオレの、『火球による一斉射撃』に耐えることが出来ず、苦悶に身体を曲げる。
しかし、それでも高い防御力のせいで直ぐに立て直してくるだろう。―――決定的な一撃を与えるしかない。
「………」
火球による黒煙がアルドワーズの全身を覆っているうちに、再び剣を構えてオレはアルドワーズに接近を試みる。
そして、
「………マジかよ」
オレは、確かにアルドワーズの心臓へ、人間の身体など容易に貫く一撃をお見舞いした。
結果はどうだ。
―――アルドワーズの皮下の筋肉に阻まれ、剣を突き刺すことが出来なかったのだ。
「殺意の籠った良い一撃でした………が、私の『受容』する気持ちの方が大きかったようですね」
『そんな問題じゃねーだろ』
というツッコミは、けれどオレの顔面に炸裂した拳が遮った。
「~~~~!!?」
誰も居ない空間に鈍く、建物を揺らすような音が響き渡った。
視界が激しく揺れる。
三階まで吹っ飛ばされた衝撃で揺れているのではない。
アルドワーズの拳が、オレの意識を明滅させて外部から脳みそを揺さぶったのだ。
「くっ………」
立ち上がろうとするものの、視界が揺れてまともに立ち上がることさえ許されない。―――仕方なくオレはアサヒから貰った回復魔法で、視界の揺れを収める。
―――クソ………話には聞いてたけど………魔力の消費が激しい………!
初めて味わう一度に大量の魔力消費に驚く中、オレは視点の定まった頭を振り、立ち上がる。
その時だった。
「―――ッ!!?」
弾丸のような小石が、頬を浅く切り裂いたのは。
「………惜しいですね」
オレは今、三階の、ロビーが見下ろせる廊下に寝転がっていた。
それが今、立ち上がると共に、階下より小石が弾丸のようなスピードで投げつけられたのだ。
「………筋肉爺さんめ」
アルドワーズの足元には戦いの中で崩れた大小さまざまな瓦礫が転がっている。
大方、引き寄せる能力でも使ったのだろう。
通常、ただの石投げなど今のオレには何の脅威にもならない。―――というのに、眼下の爺さんが力を込めて投げつけるだけで致命傷になりかねない。
「どんどん行きますよ」
瓦礫の嵐がオレを襲った。
「ッッッッッ!!!!!」
小石から、拳ほどの石、果ては廊下を丸ごと潰しかねない岩石まで。
全力で走り、全力で飛び、全力の風で宙を舞う。
時折顔面のすぐ傍を、拳ほどの大きさの石が通り過ぎて、自分でも分かるほど血の気が引く。
投げた石は、壁や床に直撃し、さらなる瓦礫を生み出すのもまた状況を悪化させていた。
「『来なさい』」
どうやら、アルドワーズの能力は、どちらか一方の片手をかざして使う者らしく、投擲の合間に瓦礫を回収していた。
―――このまま逃げ回っていると、いずれ殺される!!
状況を、息も絶え絶えの現状で何とか把握しながら縦横無尽にオレは飛び回る。
―――いや、このまま逃げ続けていればきっと………!!
酸素の足りない脳内に、一つの奇策を浮かべながら、オレは根性で投擲からの回避を選択し続けた。
閲覧いただきありがとうございます。
若干ネタに走っている感じはありますが、アルドワーズさんは紳士です。
 




