主戦力決戦 ニ
拳がヨミヤに迫る。
しかし、少年は避けることなどせず、むざむざと拳を顔面に向かい入れる。―――と、同時に風を生成。
拳がやってきた方向から、勢いよく風を自分に当てる。
するとどうだろうか。
筋肉で覆われた拳は、最小限のダメージだけをヨミヤに残して振り切られる。
一方ヨミヤは、後頭部から地面に落ちるが、寸前で身体に風をぶつけて衝撃をゼロにする。
―――そして、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
義手の機能として愛用し続けた『無限鎖』を再現した。
空中から生成された紫の鎖は、ヨミヤの切断された右腕に絡まり―――体勢を立て直す一助となる。
鎖を手繰るように起き上がった少年はそのまま逆手に持った剣で、アルドワーズの脇腹を切り裂く。
「ぐッ………!?」
―――効いた………!?
切り裂かれてもなお血がにじむ程度にしか傷を付けれていない現状だが………それでも、先ほどとは違い、アルドワーズが明確に『痛がる』意志を見せたのだ。
―――さっきとの違いはなんだ………!?
無理な態勢から放った斬撃より、熱線の方がはるかに殺傷能力が高い。
なのに、アルドワーズは熱線は無傷で、斬撃に痛がってみせた。
―――物理しか効かないタイプの能力………? いや、まだ情報が足りない………! 攻め続けて見つけるしかない!!
斬撃を放ったヨミヤは、前転しながらアルドワーズと距離をとり―――男に向き合う。
「やはり、シルバーと渡り合っただけのことはありますね………」
「………ぁ? 何ですか急に」
浅く切られた脇腹を軽く押さえるアルドワーズからの言葉に、ヨミヤは困惑の表情を浮かべる。
「いえ、戦い慣れていない私では、太刀打ちできないのではと思いましてね………」
「………」
ヨミヤの脳裏に、『受容ッ!!』と何度も叫びながら自身の魔法を耐え続けるアルドワーズが幻視され(実際にさっきあった)、酷く引きつった笑みがこぼれる。
というか戦い慣れてても、人体を貫く熱線を生身で容易く耐えている爺さんが襲ってきたらコワいとおもう。
「―――それでも、私は貴方を引き留める………もしくは倒さなければならない」
「………それは、『ウーズ・ブレーク』降臨のためですか」
「………………そうです」
ヨミヤはアルドワーズの肯定に、ぐっと歯を食いしばり、まっすぐにアルドワーズを睨みつけた。
「―――そんなこと、させない。シュケリはもう渡さない」
「そうでしょうね。―――だから、私たちはこうして戦っている」
ヨミヤは視線を外さない。―――アルドワーズはそんなヨミヤを真正面から見据える。
「―――ですが、考えてください。あなた方があの少女を差し出してくれれば、代わりに世界の安寧は約束します。………絶対に魔族と人間が争わない世界を作って見せる」
きっと、その言葉は真実だ。
己を見つめ返してくるアルドワーズの目をみて、ヨミヤはそう直感した。
おそらく、目の前の男は、理想をあらゆる手を使い実現させる。―――理想を掲げながら、血を浴びることも厭わない男の誓いが、瞳の奥に見え隠れしていた。
ヴェールとイル。
人間によって不幸を被った魔族をヨミヤは知っている。
それだけではない。魔族と戦い亡くなったエイグリッヒにだって大切な人はいた。
すべて、人間と魔族の関係が悪いばかりに起こってしまった悲劇たちだ。
だから、ここでアルドワーズにシュケリを引き渡すことはには『意味がある』。
「………………」
少年は、アルドワーズの言葉を決して否定はしない。―――人間に虐げられた女の子を知っているから。
でも―――
「嫌です」
返答は変わらない。
「………なぜです」
アルドワーズの目に怒りはない―――ヨミヤはそう感じながらも言葉を紡ぐ。
「人を助けたくて助けられない『ウーズ』がいた」
「身を挺して小さい子を守った『ウーズ』がいた」
「人じゃないことを打ち明けられず苦しんでる『ウーズ』がいた」
少年の口から語られる言葉は、短い旅の記憶。
「『人』でありたいともがき続けた『ウーズ』が居たんです。―――俺は、その彼女を守りたいと思った」
怒りでも、憎しみでもない。―――それは少年の『誓い』だった。
「たとえ誰に罵倒にされようとも、たとえ後世に笑われるとしても―――俺は彼女の味方であり続ける」
「………そうですか」
問答は終わった。
アルドワーズは静かに瞑目し、ヨミヤは静かに剣を構え―――
両者は再び殺しあう。
閲覧いただきありがとうございます。
別にこの回要らないかな、とも思ったのですが、ヨミヤ君にはアルドワーズと話す義務があると思ったので入れました。




