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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
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主戦力決戦 イチ

 賢者の柱、一階ロビーは、五階部分まで吹き抜けの構造になっている。


「ァウ………!!」


 そんな吹き抜けの三階西側廊下に少年―――ヨミヤは盛大に吹き飛ばされてきた。


 理由は簡単。


―――なんつー馬鹿力だ………!!


 筋肉を()()()させ、とんでもない力でヨミヤをぶん殴ったからだ。


 ギリギリ、剣でガードが間に合ったものの、片腕だけの現状ではうまく防御することも叶わず、大きく吹き飛ばされてしまったのだ。


「『来なさい』」


 次の瞬間、『どうするべきか』思考を回そうとしたヨミヤの体が、おもむろにアルドワーズの方へ()()()()()()


―――なんかの能力(ギフト)か………ッ!!


 なんとか足を踏ん張り持ちこたえるヨミヤだが、あまりの力に一歩も動くことが叶わない。否、


―――動いた瞬間、引き込まれる………!!


「むぅ………!!」


 ヨミヤは、自身の能力で引き寄せられない少年に不服そうな顔をしているアルドワーズをみて、『ふざけるな』と内心吐き捨てる。


 だが、現状はそのままで何も変わらない。


「―――クソッ!」


 仕方なくヨミヤは視線を動かした。


 ―――正確には魔法を再現する座標を決める。


―――アンタに構ってる暇は………ないッ!!


 ヨミヤは、アルドワーズの周囲に熱線(レーザー)が展開。


 計八本の熱線がアルドワーズを取り囲み―――照射。


 光線は寸分の狂いもなく、狙った箇所を貫通する――――――()()()()()



「『受容』ッ!!」



 しかし、熱線たちはアルドワーズの体を貫くことはなく、そのまま効力を終えてしまう。


「――――――どうゆう原理だ………ッ!!」


 レーザーの貫通しない人間の出現に、ヨミヤは心の底からため息をつきたい気分になった。が、戦闘中の今は何とかその気持ちを抑えて、その場から退避する。


―――あの馬鹿力も、引き込みも、あの防御力も何かしらの能力のハズ………まずはそこを探る!!


 風を使い、アルドワーズの背後―――四階東側廊下の壁に剣を突き刺して静止する。


 そして、アルドワーズの周囲に今度は火球を生成。十個の火球が一斉に男に殺到した。


「『受容、受容、受容、受容、受容』!! 受容ッ!!!」


 しかし、今度も意味不明な言葉を吐きながら、火球の総攻撃に耐えて見せた。


「『来なさい』」


 そして、次の瞬間、アルドワーズが右手をヨミヤに向けてかざすのを少年は確認して、


「ぐッ………!!」


 強烈な引き込みがヨミヤを襲った。


 突き刺した剣は、猛烈な吸い込みに対し無力で、ヨミヤは今度こそ成すすべなくアルドワーズに向かって吸い寄せられた。


「受容受容受容受容ッ!! 受容が………………たりなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」


 彼我の距離は一メートルもない。


 アルドワーズの大きく振りかぶった拳がヨミヤの顔面に刺さる。



 ※ ※ ※



 激しい剣戟音が、人の居なくなった『柱前広場』に響く。


「ハッ………坊ちゃん勇者が―――中々やるじゃないの」


「そっちこそ………悪趣味なオッサンにしては―――つえ―じゃん」


 ヒカリとシルバーは、何度も剣を交わし―――そして、そのたびに少しずつヒカリに切創(せっそう)が増えていく。


―――剣術の腕が………段違いだ………ッ!!


 膂力はヒカリの方が上。


 しかし、剣に関する技術の差がありすぎた。


 ともすれば、目の前のシルバーとかいう男は魔族第一階級・アスタロトよりも剣術に秀でている可能性がある。


「そんなに強いなら………俺なんかより、よっぽど魔族と戦うのに向いてるんじゃねぇの」


「いやいや。………友達の為以外に剣を振うのは控えてるんだよ」


「そーかよ………」


 ヒカリは何も知らない。


 『フォーラム』も、目の前の『シルバー』という男のことも。


 しかし、欠片でも事情を知る者がこの場に居たのなら、彼の言っていることに違和感を抱くだろう。


 『友のため』と言いつつ、世界をひっくり返すような計画に加担しているシルバーの()()()に。


「隙ありィ!!」


「がッ………!?」


 刹那、シルバーの回し蹴りがヒカリの腹部に直撃。


 ヒカリの体は、まるで蹴り上げられたサッカーボールのように吹き飛び、近くにあった背の低いビルの屋上まで飛ばされる。


「ぐっ………ぁぁぁ………ッ!!」


 弾かれ、ビルの屋上にボロ雑巾のように転がるヒカリは、あまりの衝撃に苦痛にうめく。


―――多分、純粋な『身体能力補正』の能力(ギフト)………!!


 ヒカリの予測では、シルバーの異常な身体能力は、『身体能力補正』の極致だ。


 具体的な例を出すならば、『存在強化』・『身体能力補正』両方の強化があるヒカリには少し劣るものの、強化率で言えば、その状態のヒカリに追いつかんとするほどだ。


―――どんだけ訓練を積めば………そこまで行ける………ッ!!


 二つの能力(ギフト)に追いつかんとする程の一つの能力(ギフト)。―――想像もつかない修練の果ての成果に戦慄するヒカリ。


 同時に、相対する敵が想像以上に強大であることに少年は歯噛みした。


「………………いや、それでも」


 なんとか起き上がり、地面に手をつくヒカリは、自分の影になっている大地をジッと見つめた。


―――アイツは………


 そんなヒカリへ―――


「面白いように飛んだな」


 ヘラヘラと軽薄そうな笑い顔をしているシルバーが声をかけた。


「お前も強いけどよ………わかったろ。俺には勝てねぇ」


 身の丈以上の長剣を、肩に乗せ―――シルバーは諭すようにヒカリに声をかける。


「なんでお前が急にしゃしゃり出てきたのか知らねぇけど………無駄に傷つくだけだ。やめとけ」


「………………」


 うつむくヒカリ。


「………」


 少年は、シルバーが無言でこちらを見つめてきているのに気づいてすらいない。そして―――


「―――ハッ」


 少年は笑みを浮かべて立ち上がる。


「例え、望まれていなくても、おせっかいだとしても、無駄だったとしても、俺は()()


 地面に剣を突き刺し、身体を支えて立ち上がる。


「いくら傷つこうが、いくら罵倒されようが、()()()()()に俺は戦う」


 言葉の先に『償い』の想いの乗せて、少年は剣を引き抜いた。


「それに―――アイツは『勝てない』相手に勝ってみせた」


 勇者の脳裏に浮かぶのは、『勝利』を諦めなかった復讐者。


「なら、一人の男として―――負けちゃいられねぇよ」

閲覧いただきありがとうございます。

ライバルって熱い…

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