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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編

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142/277

仇討ちと抑止の狭間 ニ

『ぐぉぉぉぉぉ!?』


 『機銃巨人ドレッド・ガンフォート』が鼓膜を叩く轟音と共に炎上する。


 その巨体は、上級魔法衝突の勢いで火だるまになって柱の外に吹き飛ばされる。


―――多分、まだ壊れていない………!


 すぐにハーディは敵の健在を予測すると、自らも()へ飛び出し―――


操縦(コントロール)


 杖に操作の魔法をかけて、その上に立って落ちていく敵を眼下に据える。


水塊(ウォーター)


 次の瞬間、空中に水の球体が出現。機銃巨人ドレッド・ガンフォートに直撃して、燃え上がっていた炎を全て消し去る。


『………フン、操縦者がすぐに魔法を使えるように、この機体には術式が刻んである。―――無駄なんだよ』


「その割には慌ててたようだがな」


 おそらく、デフォルトで浮遊(フロート)の術式が魔工具の一部として刻まれているのだろう。さも当然のように鉄の巨人は空中で静止をしている。


『いちいちうるさい奴だ!!』


 ハーディの言葉に神経を逆なでされたであろうセラドンは、再び指の小銃をハーディに向かって発砲する。


「………芸のない奴め」


一方、細い杖の上に立っているハーディは、後ろにしてある右足に体重を移動させると、そのまま杖の操作を開始。


 本来『空中の移動』とは無縁のはずであるハーディは、まるで獲物を見定める猛禽類のように巨人の上空を旋回。


 当たれば死は免れぬ銃弾の嵐を全て回避して見せる。


―――とはいえ、相手の防御力が高いのも事実。少なくとも、上級魔法一発でどうこうなる代物じゃない


 空を舞うように飛び回るハーディは、素直に機銃巨人ドレッド・ガンフォートの防御力を認めたうえで思考を積みあげる。


 その時だった。


『これなら避けられまい!!』


 機銃巨人ドレッド・ガンフォートの背中にある鉄の筒―――大口径砲が火を噴く。


「………」


 自棄になったと思われるセラドンの攻撃に、ハーディは無言で、小銃と同じように回避を試みた。


 しかし―――


「ッッッ!!!!」


 回避した巨大な弾丸が、ハーディの背後で()()()()


 背中を高温で焼かれたハーディは、衝撃により杖より落下。


「油断したか………ッ!!」


 すぐにズグズグと火傷の痛みを伝えてくる身体。


 だが、セラドンは止まることなく次々と大口径砲をハーディに向かって撃ち込んでくる。


「ッ………!!」


 杖をすぐに手元に呼び戻し、杖に捕まったままその場を緊急離脱。


 時折、炸裂する爆発―――その高温に肌を焼かれながら飛び回り、致命的な一撃を回避し続ける。


―――やるしかない!!


 痛みを、歯を食いしばりながら堪えて、ハーディは二つの魔法を唱えて―――その全てを()()()()()()にする。


 戦闘魔法技術、『発動待機』


 魔法名を唱えた状態で、魔法を発動させず待機状態にしておくことで、好きなタイミングで好きな魔法を即座に発動することのできる技術。


 瞬間火力重視の『同時発動』とは異なり、『発動待機』は自身の立ち回りを踏まえたうえで準備しておくことのできる技術。


 その代わりに、魔力制御が異常に難しい技だ。


 『同時発動』も魔力の制御は難しい。しかし、『同時発動』の難しい所はあくまで一つの術式から二つの解釈をイメージするところ。


 対して、『発動待機』はひたすらに魔力の制御が難しいと言ったところだ。


切り刻む無数の鎌鼬(エアロ・ソニック)


 そんな『発動待機』で上級魔法を()()待機させている上に、ハーディはさらに上級魔法を行使した。


 上下から嚙み砕くように出現する風の刃が、大口径の砲弾を全て破裂させ―――ハーディと機銃巨人ドレッド・ガンフォートの間に爆裂の絶壁が形成される。


『クッ………! 魔法使いのクセにタフな奴め………!!』


 視界の悪さに悪態をつくセラドンだったが―――


『なッ………! い、居ないだと………!』


 爆発の黒煙が晴れたその先に―――ハーディは居なかった。


『死んだ………? いや、魔法の発動を確認した。死んでる筈が―――』


 すぐに思考を回すセラドンだったが―――それは間違いだった。


 彼はどこまでも『研究者』であり………『戦闘者』ではなかった。―――そして、エルフで魔法使いで、『戦闘者』でもあった()()は、


「終わりだ」


 自身の作戦を見事、成功させる。


『なに………!?』


 背後からの上級魔法―――空を焦がす豪火球(グランデイ・フレイム)


 再度の大火球が機銃巨人ドレッド・ガンフォートに直撃し、その鉄の体を炎上させる。


『チッ………その程度………!!』


 しかし、そのシチュエーションは焼き回し。


 効くことのない魔法を再び撃ち込まれたことで、激しくイラつくセラドンだったが―――


「慌てることはない。―――まだ喰らってもらうさ」


 ハーディは立て続けに上級魔法―――絶対氷結の帯オーラ・アブソリュートを展開。


 十字に、クロス状に白のルーン文字が、まるで帯のように機銃巨人ドレッド・ガンフォートの周囲に出現。


『なんだこれは………!!』


 刹那―――ルーンの帯が巨人を締め上げた。


『みたことないぞ………この魔法は………!?』


「まぁ、ソレ………エイグリッヒの魔法を勝手にパクったモンだからね。―――私のオリジナル」


 そして、次の瞬間には締め上げたルーンの帯から徐々に()()が広がり始めた。


『これは………氷結魔法………!! なら、貴様の目的は―――!!』


「さっすが研究者! 察しがいいねぇ!!」


 高温からの、絶対零度の氷結―――急激な温度変化に晒された()の巨人は、



 バキリッ!!



 と重苦しくも、軽快な()()()を響かせた。

閲覧いただきありがとうございます。

こんな理科のお勉強みたいな知識をファンタジーの住人が知ってるのかという疑問はナシですよ。

かっこよければ何でもいいんですよ!

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