一匹狼 イチ
昔から、短期で喧嘩っ早くて、日に一度は必ず誰かと殴りあってた。
そんな爆弾みたいな俺を、周囲は自然と遠ざけた。
当時は『雑魚共が』なんて最低な悪態をついていたが、今思えば、当然の帰結だったと思う。
他人と他人は、『お互いに傷つけない』ことを前提に、日常を過ごしている。―――そんな中に、俺のようなバグが入り込めば………誰も近づかないのは道理。
両親も、喧嘩ばかりの俺に愛想尽きたのか、いつの間にか、何の注意を受けなくなった頃。
「何してんだ?」
『孤独』に身を浸していた昼下がり、
「んだテメェ………」
立ち入り禁止の屋上で、俺は剣崎と初めて話した。
※ ※ ※
「フッ―――!!」
『メフェリト』路地裏。
建物と建物の間………現代で言うところのマンションのような建物が向き合った日の当たらない広場。
その中心で、タイガは踏み込みと同時に、華麗な正拳突きをアザーの腹部目掛けて打ち出す。
「甘いな」
アザーは、その一撃を半歩足を動かし、身体を横にズラすだけで回避する。
―――チッ………身体能力だけかと思ったが………打ち合いの技術も相当だな………
「ほらどうした。―――切り刻むぞ」
アザーは、一切の淀みなく右手の爪を下方から斬り上げ―――間髪入れずに情報から左手の爪を振り下ろす。
「チッ………!?」
現実ではありえないスピードの攻撃に、舌打ちしながらも、全力で後方に下がるタイガ。
「いいのか?」
しかし、次の瞬間、避けたはずの攻撃はタイガの右肩を裂いた。
「ぐッ―――!!」
切り裂かれた衝撃で、後方に態勢を崩すタイガは、右肩を押さえつつ、地面で受け身を取り、すぐに立ち上がる。
―――技術もある上に………コレだ。
それは、風の刃。
避けたはずの攻撃が、風の刃となってタイガを追撃する。
ただの格闘戦だと思っていたら、いつのまにか真っ二つにされるほどの反則技だ。
「その爪………噂に聞く『魔剣』か?」
ズグズグと痛みを伝える肩を無視して、タイガはそんな問いかけを投げつける。
すると、少しだけ感心したような表情を見せるアザーは、両手に装着された『鉄の爪』を―――その装備に装飾としてつけられている短い鎖を小さく鳴らした。
「『剣』というには、我ら獣に形状が寄っているがな………」
それは、以前の持ち主の能力が染み付いた武具『魔剣』―――世界でも数少ない『能力持ち武具』。
しかし、敵であるタイガに懇切丁寧にその力を説明するアザーではない。
「まぁ、たっぷり味わっていくがいい」
その言葉を吐いた瞬間には、アザーはすでにタイガの眼前まで迫っていた。
「クソが………」
素早すぎるアザーに、驚愕を携えながら、タイガは退避することなく彼女を迎え撃つ。
―――攻撃が飛んでくる以上、距離を取るのは下策………至近距離で喰らったらワンチャン即死だが―――やるしかねぇ………
『距離を取られて風を飛ばされる方が厄介』と踏んだタイガは、『退避せよ』と命じる脳内指令を殴り飛ばして決死の近接戦に持ち込む。
―――一か八か………アレを決めるしかない………!!
閲覧いただきありがとうございます。
ソード・オラトリア15巻が衝撃過ぎて、思考がずっとロキ・ファミリアに飛んでいます。




