強みはドコ?
魔法にも、数々の魔法使いが戦いの中で編み出してきた戦闘技術がある。
それは、剣を扱うのと同じように、一朝一夕では身につくことはない。
「這いまわる炎の蛇!!」
蛇を模した炎が、周囲を焼き尽くす魔法を唱えた茶羽は、長杖と魔導書を構え、正面を見据える。
「浮遊」
そして、すぐに浮遊の魔法を魔導書に掛けて、自分は両手で杖を握る。
「セイカ!! 近づく敵は俺が倒す!! こいつらぶっ倒せ!!」
「分かった!」
加藤が、炎の蛇を交わして突撃してきた鬼頭族の顔面を蹴り飛ばし叫ぶ。
茶羽はその声に大きく答え、再び魔法の魔力制御に移る。
―――想像。曇天から降りしきる炎の雨、雨は槍となって敵を貫く………!
上級魔法行使の為、渦巻く強大な魔力を制御しつつ、術式として使うルーン文字と模様を強く意識。―――同時に、心の内にて、イメージを補強するための詠唱を紡ぐ。
そして、同時に。
―――想像。すべてを刺し貫く緋の光線、『緋』は屈して無数の刺創を築く………
同じルーン文字と模様から、異なる解釈を用いて、違う魔法を構築。
戦闘魔法技術、『同時発動』。
普通に魔法を発動するより、遥かに多くの魔力を制御しつつ、同じ術式から、異なる解釈を正確にイメージし、魔法を多く発動する技術。
「降り注ぐ炎の礫槍、屈する緋閃」
それを、上級魔法と中級魔法で行使した茶羽。
次の瞬間、敵の頭上から炎の雨が降りしきる。
と、同時に、六芒星を描く熱線が魔族たちの間を走った。
「ギャアアアァァァッ!!」
一人は、腹部を上空からの炎に貫かれ、
「ガァァァァァァァァッ!?」
一人は、飛んでくる熱線に太ももを刺し貫かれ、苦悶の声を上げた。
そうして、茶羽と加藤の周囲に居た魔族のほとんどは地に伏す。
「ごめん、討ち漏らしが―――」
荒く息を吐く茶羽は、フラつき、そのまま地面に倒れようとして―――
「あとは任せろ」
加藤がその肩を支え、ゆっくりと地面に座らせる。
「死ねぇェェッ!!」
しゃがむ加藤に、背後からメイスを振り上げる悪魔族―――魔族が迫る。
加藤は、茶羽から手を放し、地面に手をついて、踵を思い切り振り上げる。
「グッ―――」
その踵は、的確に魔族の喉もとに直撃し、相手をよろけさせることができる。
「こん………のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
よろけた魔族への追撃を考えていた加藤は、再び他の方向から迫る魔族の声に気が付き、踏みとどまる。
―――体勢立て直す暇もないな。
加藤は立ち上がるのを諦め、つま先を自らの頭部へ振り上げ―――背中を使って跳躍。
「ぐ………!?」
相手の頭を膝で捕まえることに成功し、そのまま後方に体重をかける。
「行ってこい………!!」
「ガッッッ!?」
身を捻り、回転の力を利用しつつ加藤は相手の頭を地面に叩きつけた。
「せー………のッ!!」
再び地面に手をついた加藤は、先ほどと同じく背中を使って跳躍。
「ぐァッ!!」
今度は、よろけていた魔族の顔面に靴跡をつけて………そのまま相手の頭を地面にこすりつけながら立ち上がることに成功する。
―――残るは………―――五人
足蹴にしていた魔族から立ち退くと、加藤は残りの魔族の人数を確認し―――
「まぁ………行けるっしょ」
疾走。
能力の恩恵を受けた疾走は、魔族と言えど捉えることは難しい。
「はぁッ!!」
悪魔族の一人に飛び膝蹴りをお見舞いし、いとも簡単にその意識を刈り取る。
「まだまだァ!!」
加藤は着地から、間髪入れずに跳躍。
空中で身を捻り、遠心力と重力を乗っけた蹴りを牛頭族の首に打ち込む。
それだけで、頑丈さに定評のある牛頭族の魔族は倒れる。
「これでも―――喰らってろッ!!」
「なっ―――!!」
加藤は、倒れる牛頭族の巨体に蹴りを入れて、今度は、真横にいた魔族二人に飛ばす。
魔族二人は、その巨体にあっさりと巻き込まれ、近くの民家まで突っ込んだ。
―――うっし………あと一人………
無事に魔族を制圧できそうな雰囲気に、少しだけ油断する加藤。刹那―――
「この時を待っていた」
真正面、加藤の視界の外―――下方より、殺意の籠った声が響く。
「フミヤ君!! 下!!」
「ッ………!!」
その時、魔族―――獣魔族特有の殺戮に特化した鋭い爪が加藤の腹部を襲った。
「ぐッ………!!」
「フミヤ君!!」
「………」
痛みを堪える声を出す加藤、加藤を心配し声を上げる茶羽。
そんな二人の反応とは裏腹に、腹部を刺した獣魔族は困惑していた。
「………………なぜ、貫通しない?」
そう、魔族の爪は、加藤の腹部を『少し刺した』程度で止められており、その傷では、とても致命傷とは呼べないぐらいの傷しかつけられていないのだ。
「はッ………『速い』と『硬い』しか、取り柄のない能力でねッ………」
能力名―――強度補正。
文字通り、強度………守りを上げる能力のおかげで、加藤はちょっとやそっとの攻撃では傷を負うことはない。
その能力が、魔族の爪を弾いていたのだ。
「でも、痛いもんは………痛いんだよッ!!」
「くそ………!!」
加藤のパンチを、魔族は大きく距離を取ることで回避する。
「セイカ、大丈夫!!」
「よ、よかった………」
後方で、不安そうな顔をしていた茶羽に、加藤は手を振り彼女を安心させてあげる。
「おのれ………仲間を犠牲にして手にしたチャンスが………!!」
狼の耳を生やす獣魔族は、悔しそうに言葉を吐き捨てる。
「………もう勝ち目はないと思うけど?」
「黙れ………ッ!! こうなれば………!!」
歯噛みする魔族は―――次の瞬間、加藤の目の前から掻き消える。
「一人でも多く殺して死ぬッ!!」
「ッ!!?」
刹那、背後から聞こえた魔族の声に、茶羽が息を飲んだ。
「勇者の首………もらったァァァァァァァァァァァァァ!!」
凶刃が、茶羽に迫り―――
「ふざけるなよお前」
鉄の脚甲が、魔族の顔面に突き刺さった。
「ガ―――ッ!!?」
魔族に追いついた加藤は、顔面に入れた蹴りを、そのまま地面に突き刺し、
「二度と、セイカは傷つけさせない」
その頭部を地面に埋め込んだ。
閲覧いただきありがとうございます。
ちなみに、戦闘魔法技術は『彼』であれば、すべて簡単に行うことができます。
そんな能力持ってて負けるなよ。




