開戦 ニ
「加藤、間違っても茶羽をケガさせるんじゃねぇぞ?」
「そんなの………俺が一番わかってるよ………!」
魔族に取り囲まれるタイガ、加藤、茶羽。
茶羽をタイガと加藤で囲み、三人は大勢の魔族を迎え撃つ。
「タイガ君!! 俺がかく乱する! どんどんやっちゃって!!」
「おう、任せろ!」
次の瞬間、加藤は自身の能力の力を持って―――超速で駆け出した。
魔族も、加藤に刺激されたように一斉に動き出す。
タイガは、加藤の代わりに茶羽の守りに入り―――加藤の速さに翻弄される敵が出てくるのをジッと待つ。
「着火!!」
茶羽も、その間に発動スピードの速い下級の魔法にて魔族を迎え撃つ。
―――茶羽も、真正面の敵なら対処できてる………なら俺は………!
タイガは、背後の茶羽の様子を見て、攻勢に出る。
「かかってこいオラァッ!!」
がなり声をあげて、加藤に翻弄される魔族の顎を的確に打ち抜く。
荒々しい言葉とは裏腹に、最小限の動きで茶羽の背後をカバーするように次々と魔族を昏倒させるタイガ。
その撃破スピードは、高速で走り回る加藤より―――尚早い。
「お前は厄介だな」
刹那―――アザーの蹴りがタイガを襲った。
「ッ!!?」
背後を振り返った瞬間の攻撃。
そのため、回避の間に合わなかったタイガは、ギリギリで顔面に飛んでくる蹴りを左腕でガードすることに成功する。
が、ありえない膂力に、防御を弾かれながら、大きく後方に飛ばされる。
「クッソ………!」
たたらを踏むタイガは、何とか転ばずに踏みとどまる。
「被害を無駄に出されても困る。―――付き合ってもらうぞ」
しかし、タイガに状況を把握する時間はなかった。
「ぐあッ………!!」
アザーは、着地と同時に発進。
タイガの顔面を乱雑につかみ、そのまま路地裏へ連れ去ってしまう。
「タイガ君!」「赤岸君!!」
加藤はすぐにタイガの救援に入ろうとするが、すぐに魔族の壁が出来上がってしまい、追うことが叶わない。
「邪魔だなっ………もう………」
「フミヤ君!! まずは目の前の敵を―――!!」
「そうだな………っ!」
一度、合流した加藤と茶羽は背中合わせで敵の大群と向き合う。
「この状況………『帝都前決戦』思い出すな………っ!」
「だね………、でも、もう………あの時の私達じゃない………!」
「あぁ………さっさと片付けてタイガ君を助けに行こう………!」
この間まで普通の高校生だった少年少女は、初めて独力で困難に立ち向かう。
「クッソ………放せ………!!」
タイガは、魔族特有の腕力に、能力と思われる力が加わり、タイガを掴む手を、一向に剥がすことのできない。
「フン………そんなに嫌なら―――放してやろう」
次の瞬間、アザーはタイガの頭部を民家の壁に叩きつける。
「がッ―――!!」
そして、そのまま人外の力をもって、タイガの頭部で壁を削りながら前進する。
「ほら………!」
「ぐァ………!!」
そして、路地裏の開けた広場に出ると、大きく跳躍。
そのままタイガを地面に投げつけ、自分は綺麗に着地をする。
「………」
「………終わったか? ―――脆いわね、人間は」
土煙の中、動きのないタイガに、『意識を失った』と判断したアザーは、ゆっくりとタイガに近づく。
「終わってねぇよ馬鹿野郎」
が、刹那。
土煙の中から、鋭い拳がアザーの顔面に飛んできた。
「チッ………」
アザーは、その拳を顔の横に腕を持ってくることでガードするが、拳の勢いに負けた身体が、地面を削りながら後退した。
「この程度………バットで頭カチ割られた程度だコノヤロー」
パキポキ………と指を鳴らすタイガは、顔面を血だらけにしながら不敵に笑っていた。
※ ※ ※
「思い出した………」
ヒカリとつばぜり合いをしていたシルバーは、不意にそんなことを呟くと、ヒカリを押し返し、自分も大きく後方へ跳んで―――着地する。
「お前、今『ムスカリ』に行ってる筈の勇者の最後の一人か」
「あぁ? ―――なんでそんなこと知ってる?」
ヒカリはシルバーの名前すら知らない。
しかし、目の前の男は、自分のことを知っている。―――敵に自分のことが知られていることに不快感を隠しもしないヒカリは、盛大に顔を歪めた。
「ハッ………俺らの情報網は特別でね」
「何だか知らないが………ただのストーカーってことだな」
『ストーカー』という単語に、口をへの字に曲げるシルバーだった。―――しかし、すぐに悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべると、顎を撫でながら言葉を続ける。
「ストーカーねぇ………―――じゃあ、ストーカーってことで、もう一個、俺の知ってることを教えてやるよ」
「んだよ………お前とおしゃべりする趣味はねぇよ」
「まぁ、聞けって」
シルバーは大げさに両手を広げると、ニヤついた笑みでヒカリを見つめた。
「異世界から召喚された勇者は、なんでも、帝国が大変な時に仲間割れをしたらしいじゃねぇか」
「………!」
シルバーの言葉に、わずかに反応を見せるヒカリ。
そんな少年を、面白そうに眺めるシルバーは続けて言葉を吐いた。
「剣を扱う勇者と―――魔法を使う勇者が帝都で戦いを始めて………剣の勇者は負け、帝都に大きな被害をもたらした」
「………何が言いたい?」
「別に何かを言いたいわけじゃない。―――力を持っちまったガキが、周りに迷惑をかけた話が心底面白いってだけの話さ」
「………」
シルバーの言葉に、ヒカリはすぐに言葉を発することはしない。
嘲笑の言葉を飲み込み―――やがて、ヒカリはまっすぐシルバーを睨みつけた。
「来いよ。―――お前の言う『ガキ』がもっと面白いモンを見せてやるから」
「ハッ、いいねぇクソガキ。―――せいぜい楽しませろ」
※ ※ ※
「はっ、はっ、はっ、はっ………」
賢者の塔、一階ロビー。
吹き抜けが五階まで続くロビーに入ったヨミヤ。
「はっ…………はっ………」
入り口正面、静かに水を循環させ続ける中央噴水。―――その前に、一人の男性が立っているのが見えた。
「………」
この非常事態に、『賢者の柱』の中にいる男。
自然に警戒心が高まるヨミヤは、男から距離を取りながら立ち止まる。
「はじめまして」
身なりのいい、少年よりも遥かに年上の男性。
「………」
男の言葉に、ヨミヤは答えない。
「『フォーラム』統合指令全責任者―――アルドワーズ・ネーロと申します」
「………!」
その名は、敵対する組織の―――首領の名前。
少しだけ目を見張るヨミヤは、やがて、ゆっくりと口を開く。
「ボスがこんなノコノコ出てきて―――不味いんじゃないのか?」
「フッ………『フォーラム』の同志は、私如きが居なくても………誰かが使命を受け継いでくれます」
肩をすくめる老紳士は、やがてスーツのような服の上着を脱ぐ。
「ならば、私の役目は、使命の障害となる貴方を抹殺―――ないし、足止めをすること」
そして、ワイシャツのような服のボタンを外し―――その細い身体をむき出しにする。
「―――なんで脱ぐ?」
意味不明な行動に、途端に毒気を抜かれるヨミヤ。
「そりゃあ………戦うためですよ?」
しかし、すぐにアルドワーズの行動の真意を知ることになる。
「フッ………ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「ちょっ………えっ………は、はぁぁぁぁ!?」
全身に力を入れたアルドワーズの身体が、みるみる膨らんでいき―――
「さぁ………やりましょうか」
気が付けば、二メートル越えの、筋肉で皮膚の膨らむ超人へと変貌していた。
「クソ………ッ! どうしてこう、次から次へと邪魔が………!!」
明らかに一筋縄ではいかない筋肉爺さんを目の前に、ヨミヤは悪態をつくしかなかった。
閲覧いただきありがとうございます。
この間、モノポリーで大敗北を喫しました。




