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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編

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人と人、人と魔

「急げェ! この無能どもがァ!!」


 賢者の柱。研究者が知恵を深める塔の裏手には、統治貴族の住む建物がある。


 その館の地下―――『フォーラム』の研究施設。


「さっさと例の『魔工具』を、()()とも調整しろォ!!」


 『フォーラム』の秘密研究所だった。


 『柱』のセラドンが管理する研究室は、機材の持ち込みがしづらいため、術式の検討のための資料や、()()()()()するのに『フォーラム』が度々使っていた。


 一方、地下の研究所は、『柱』よりも物資の運び込みが比較的楽なのもあり、『柱』で検討・設計した『魔工具』を実際に組み立てる場所となっていた。


「お前らはこんな大事な時に、アルドワーズ様の足を引っ張りたいのかッ!!」


 そんな研究所で、セラドンの怒号が響く。


 地下なのに、煌々とライトが光る、巨大な研究所―――否、その規模は最早『工場』と呼ぶにふさわしかった。


 そんな『工場』には、『フォーラム』第四の軸・『リサーチャー』の構成員が皆、険しい顔つきで『魔工具』の部品とにらめっこしていた。


「もういい! こっちはワタシがやるッ!!」


 セラドンの声に反応するように、一つの照明が微かに明滅した。



 ※ ※ ※



「『フォーラム』の目的は………現皇帝と、魔王を殺害し―――フォーラムを母体とした新国家を築くことです」


 『賢者の柱』、塔の周りを覆うように展開している建物―――通称『羽』と、『柱』を繋ぐ空中廊下。


 その半ばで、シュケリは、ハーディに肩を貸してもらいながら『フォーラム』の目的を口にする。


ウーズ(わたし)と、イアソン様が開発した『銃』。―――その二つを使い、帝国と魔国を屈服させるつもりなのです」


「………………要するに、創作の悪役よろしく、『世界征服』が目的なのね」


 呆れた様子のハーディは、ため息をつきながら、『よくそんなこと知ってるわね』とシュケリに聞き返す。


「実験の影響で、少しボンヤリしていたのですが………実験の合間にアルドワーズ様………いえ、アルドワーズがわざわざ私のとこまできて言っていました」


 そのとき、アルドワーズは『世界平和の犠牲となる君は、知る権利がある』と使命感に満ちた瞳で語っていたと、シュケリは言う。


「はっ………あの狸オヤジ………帝都でアタシとイアソンを勧誘したのも、なにか企みがあったに違いないわね」


 ちなみに、帝都でイアソン達を『メフェリト』にくるよう勧誘したのもアルドワーズだ。


 ハーディは、『フォーラム』という組織の大きさや、『『メフェリト』を根城にしていそう』という直感から、賢者の柱に入ったときから、アルドワーズを少なからず疑っていた。


 それが、イアソンの残した研究資料にアルドワーズのサインがあったことで、疑念が確信に変わったのだ。


「信念を持つことも立派だけど―――暴力に訴えた時点で、それはただの『テロリスト』よ」


「ハーディ様………」


 ハーディのシュケリを握る手が強くなるのを感じ―――シュケリもハーディの手を握り返した。


「ハーディ様、そこの部屋………右の、手前から二番目の部屋でございます」


 賢者の柱二十三階と同じ高さにある『羽』の第十階層。


 普段は、『柱』での研究資料や、『魔工具』の材料を保管する建物の、一部屋。


「ここにヴェールちゃんが?」


「はい………一度、ヴェールを見かけて脱走したことがあって………その時は、この部屋に連れていかれていました」


「脱走って………大丈夫? 何もされなかった?」


「えっと…………………………………はい」


 シュケリの意外な大胆さに驚きながらも、今の返事が嘘だと見抜いたハーディは、表面上は『よかった』と言いつつも、シュケリの全身を観察する。


―――多分、酷いことをされたでしょうけど―――傷はないわね………これも魔獣を食べさせられていた影響………いや、弊害かしら………?


 『カロンド』にて、人攫いに殴られた時は、ハーディが治療した。


 いくらウーズといえど、あの時はほぼ、人間に近い身体構造だったのだろう。―――しかし、どれくらい前につけられた傷かは定かではないが、今は、その傷は見当たらない。


 それは、ともすれば、シュケリがハーディの想定より『ウーズ』に近い状態なのかもしれない。


 現に、ハーディが駆けつけた時には、シュケリの足元は『液状』の体組織が分泌されていた。


―――でも、あの研究資料によれば、この子の人間形態への変化―――『擬態』は、『()()』に強く作用される。


 ハーディの予測では、おそらくヨミヤやハーディと接触したことにより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、体組織の分泌が収まったのだと考えていた。


 そもそも、人間への擬態も、シューリを食ったときに読み込んだ『記憶』や、イアソンの娘に対する強い思い―――『記憶』が逆流し、今の形をとったのだ。


―――でも、人間に近い形を取れているからと言って油断はできない………やっぱり、『フォーラム』を潰して、ゆっくりとこの子の状態を見てあげないと………!


「ハーディ様………?」


 気が付くと、ハーディは考えに耽ってしまっており、ヴェールの部屋と思わしき扉の前で突っ立っていた。


「あ、あぁ………ごめんなさい。―――行きましょう」


 ハーディは、魔導書を片手に持つと、術式を読み込み―――


光線(レーザー)


 ヨミヤから勝手に盗んだ魔法で、扉の蝶番を切断した。


「そりゃ!」


 シュケリを支える腕と、魔導書を持つ手で両手がふさがり、ハーディは乱暴に扉を蹴り開ける。


「ハーディ様………今のは」


「ふふん、ヨミヤ君にはナイショよ」


 驚くシュケリに、本を仕舞いながら、ハーディは無邪気に人差し指を口元にあてた。



「誰!?」



 そんなとき、聞き覚えのある声がシュケリ達に投げつけられた。


「ヴェール………―――大丈夫ですか?」


 そこには―――真っ白なドレスに身を包んだヴェールが………放心していた。


「お、おねぇ………ちゃん?」


「まぁ姉ではないですが―――そうですね。助けに来ました」


 少し顔色の悪い表情で―――それでも尚、シュケリは花のように微笑んだ。


「お、おね………おねぇちゃん………―――うあああああぁぁぁぁぁぁ!!」


「あっ………ちょっ―――」


 その瞬間、まるであふれる寸前だったバケツが、まるでひっくり返されたかのように、ヴェールは大粒の涙を流してシュケリに飛びついた。


 勢いよく地面に転ぶシュケリは―――痛い素振りなど一切見せず、胸に顔をうずめるヴェールを優しく撫でた。


「まだ、一人では無理でしたが―――今度は、ちゃんと助けられました」


 それは、あの冷たく暗い石畳の牢屋からの続き。


 『助けたい』と願い―――己の無力から諦めてしまった少女の、物語の続きであった。


 人と人は共存できない時もある。


 しかし、この時、この場所では、確かに立場の違う者同士が手を取り合っていた。

閲覧いただきありがとうございます。

割と、おね×ロリは性癖なのかもしれない………?

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