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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
130/270

夜と銀の交差で輝く ニ

 『賢者の柱』最上階にて、男と少年が激突する。


 少年は壁を風の弾丸を使い、壁の向こう側にいる男を狙い撃つ。


 破壊された壁の影に隠れ肉薄する風の弾丸を、男は紙一重で回避しながら、壁の残骸を蹴り飛ばし、少年へ反撃する。


「クッソ………」


 悪態をつき、ヨミヤは即座に高出力の熱線を破片に向け―――次の瞬間、熱線が軽々と破片を溶かし、そのまま貫通。男に迫る。


()()なぁ」


 高速で飛来する熱線に、そんな嘲笑を落としながら回避。シルバーはそのままヨミヤへの接近を試みる。


「バケモンかよ………っ」


 熱線を中心にヨミヤは迎撃。


 熱線は回避されることを前提に、回避先への熱線や、回避のタイミングをずらすための火球、視界の外からの風弾を駆使してシルバーの接近を拒否するが―――


「甘いね」


 そのすべてを、純粋な身体能力のみで回避して見せるシルバー。


「チッ………」


 悪態をつきながら、ヨミヤは剣を構えてシルバーの接近に備える。


 そして、


「「ㇵァァァァァッ!!」」


 ぶつかり合う刃。


「―――ッ!!」


 しかし、拮抗はしない。


 すぐさまヨミヤが押し込まれ、後方の壁に飛ばされ、何枚もの壁を破壊しながら地面に転がる。


「なんだ、もうお終いか? なら―――」


 地面に転がるヨミヤを、見下ろしながらシルバーは腰を落とす。


「細切れにしてやるよ」


 刹那、剣閃が縦横無尽に走る。


「ッッッ!?」


 嫌な予感と共に、喉が干上がるヨミヤは即座に、風で自分を吹き飛ばしてその場から緊急離脱する。


 シャン、と鈴がなるような音と共に、次の瞬間―――シルバーの目の前の空間のすべてが切り裂かれる。


 床から、壁から、研究機材から、紙から、何から何まで切断され、階下へ落ちていくその光景は、控えめに言ってヨミヤを戦慄させた。


 魔法などではない。―――呪文も術式もなかった。


 能力(ギフト)などではない。―――それならもっと早く使用していた。


―――純粋な『力』!!


 己の力量のみですべてを粉微塵にしたシルバー。


 空中で身をよじり、何とか着地するヨミヤは、緊張で息を切らしながら、再びシルバーと対峙する。


「残念。もうちょいで終わったのに」


「………ふざけるな」


 初めて接敵したときは、ガージナルとの戦闘で消耗していた。だから、万全の状態であればもっと戦えるとヨミヤは思っていた。しかし、


―――完全に格上………


 歯噛みするヨミヤ。その時だった。



「ヨミヤ君!!」



 背後から、聞き覚えのある声が響いた。


「ハーディさん………!」


 振り返ると、シュケリのいた部屋の隅で、結界を張り、シュケリを守っていたハーディがいた。


「『フォーラム(そいつら)』の目的は『ウーズ・ブレークの復活』………シュケリちゃんを『ウーズ・ブレーク』にする気だわッ!!」


「は………!?」


 『ウーズ・ブレーク』。ハーディとナーガマ―の言っていた戦争で多くの被害者を出した特殊強化魔獣。


 具体的にどうするのか、なぜそんなことをするのかもわからないヨミヤ。だが無意識のうちに、彼の視線は敵対するシルバーに向かう。


「ありゃ、ばれてら」


 一方、あっさりと真実を認めるシルバー。『さすがにアルドワーズに怒られるか?』なんて独り言を言っている。


「………何が目的だ」


 気が付くとヨミヤは、シルバーにそんなことを訪ねていた。


「お前は、俺の話を聞いて尚、その女を庇うと言ったよな?」


 シルバーは、腰に手をかけてため息をつく。


「―――もうお前に語ることはねぇよ」


「チッ………」


 何の感情もない瞳で言葉を返されたヨミヤは舌打ちをしながら、ゆっくりと近づいてくるシルバーを睨みつける。


―――切り替えろ。今は相手の動機なんてどうでもいい。敵の目的がシュケリなら………今やるべきことは………


「ハーディさん! オレがコイツを足止めします! ―――シュケリと逃げてください!!」


「………わかったわ」


 シルバーとヨミヤとの戦闘を見ていたハーディは少しだけ不安そうな顔を浮かべて―――それでもヨミヤの言葉を肯定し、シュケリに肩を貸して立ち上がった。


「………」


 その様子を背中で感じながら、ヨミヤの脳裏にもう一人の少女が浮かび上がる。


―――ヴェールは………でも、今優先するべきことは………


 母と離れてしまった元奴隷の魔族である少女。


 彼女はシュケリと共に『フォーラム』に連れ去られた。


 シュケリと違い、『保護』という名目で連れ去られたため、今すぐ身の危険はないと今まで判断していた。


 しかし、シュケリを保護した今、ヴェールも救出しなければいけない。


―――でも、今ハーディさん達にヴェール救出を頼むのは………負担が大きすぎる………


 勝てるか分からない程の強敵を前に、『自分が助けに行く』という選択肢が頭に浮かばないヨミヤは、ハーディ達にヴェールを任せることもできないまま、心の中で逡巡を続ける。


「ヨミヤ様」


 そんな少年に、シュケリは声をかけた。


「ヴェールは………私にお任せください」


「!?」


 ヨミヤは、疲れた表情で必死に笑みを作るシュケリを見つめて、少しだけ瞑目して―――


「―――任せた!」


 シュケリに笑顔を返した。


「もうこの子達は………」


 二人のやり取りを見て、自分が頑張ることが確定したハーディは、呆れたように―――それでいて嬉しそうに微笑んだ。



「―――行かせると思ってんのか?」



 刹那、シルバーはハーディとシュケリに向かって高速で突撃する。


「………止められると思ってんの?」


 ヨミヤは、即座に動き出しシルバーの前に立ち塞がり―――互いの刃が衝突した。


「お前を()()()ことぐらいはオレにでもできる」


「はッ………生意気なガキンチョだ」


 ギリギリでつばぜり合いが成立している今、ハーディは今度こそシュケリを連れて階段に向かう。


「シュケリちゃん。急ぐわよ」


「はい………―――ヨミヤ様、どうか負けないで………」


 それだけ言い残し、シュケリはハーディと共にその場を立ち去った。

閲覧いただきありがとうございます。

コミケ、疲れました…

参加者の皆さん、お疲れさまでした。

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― 新着の感想 ―
シルバーが意外と強敵でびっくりしました。てっきり端役の雑魚キャラかと(笑)鍛えているからだー、で強いのならロマンがありますね。今回もとても面白かったです。良い戦闘ですね。
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