夜と銀の交差で輝く ニ
『賢者の柱』最上階にて、男と少年が激突する。
少年は壁を風の弾丸を使い、壁の向こう側にいる男を狙い撃つ。
破壊された壁の影に隠れ肉薄する風の弾丸を、男は紙一重で回避しながら、壁の残骸を蹴り飛ばし、少年へ反撃する。
「クッソ………」
悪態をつき、ヨミヤは即座に高出力の熱線を破片に向け―――次の瞬間、熱線が軽々と破片を溶かし、そのまま貫通。男に迫る。
「遅いなぁ」
高速で飛来する熱線に、そんな嘲笑を落としながら回避。シルバーはそのままヨミヤへの接近を試みる。
「バケモンかよ………っ」
熱線を中心にヨミヤは迎撃。
熱線は回避されることを前提に、回避先への熱線や、回避のタイミングをずらすための火球、視界の外からの風弾を駆使してシルバーの接近を拒否するが―――
「甘いね」
そのすべてを、純粋な身体能力のみで回避して見せるシルバー。
「チッ………」
悪態をつきながら、ヨミヤは剣を構えてシルバーの接近に備える。
そして、
「「ㇵァァァァァッ!!」」
ぶつかり合う刃。
「―――ッ!!」
しかし、拮抗はしない。
すぐさまヨミヤが押し込まれ、後方の壁に飛ばされ、何枚もの壁を破壊しながら地面に転がる。
「なんだ、もうお終いか? なら―――」
地面に転がるヨミヤを、見下ろしながらシルバーは腰を落とす。
「細切れにしてやるよ」
刹那、剣閃が縦横無尽に走る。
「ッッッ!?」
嫌な予感と共に、喉が干上がるヨミヤは即座に、風で自分を吹き飛ばしてその場から緊急離脱する。
シャン、と鈴がなるような音と共に、次の瞬間―――シルバーの目の前の空間のすべてが切り裂かれる。
床から、壁から、研究機材から、紙から、何から何まで切断され、階下へ落ちていくその光景は、控えめに言ってヨミヤを戦慄させた。
魔法などではない。―――呪文も術式もなかった。
能力などではない。―――それならもっと早く使用していた。
―――純粋な『力』!!
己の力量のみですべてを粉微塵にしたシルバー。
空中で身をよじり、何とか着地するヨミヤは、緊張で息を切らしながら、再びシルバーと対峙する。
「残念。もうちょいで終わったのに」
「………ふざけるな」
初めて接敵したときは、ガージナルとの戦闘で消耗していた。だから、万全の状態であればもっと戦えるとヨミヤは思っていた。しかし、
―――完全に格上………
歯噛みするヨミヤ。その時だった。
「ヨミヤ君!!」
背後から、聞き覚えのある声が響いた。
「ハーディさん………!」
振り返ると、シュケリのいた部屋の隅で、結界を張り、シュケリを守っていたハーディがいた。
「『フォーラム』の目的は『ウーズ・ブレークの復活』………シュケリちゃんを『ウーズ・ブレーク』にする気だわッ!!」
「は………!?」
『ウーズ・ブレーク』。ハーディとナーガマ―の言っていた戦争で多くの被害者を出した特殊強化魔獣。
具体的にどうするのか、なぜそんなことをするのかもわからないヨミヤ。だが無意識のうちに、彼の視線は敵対するシルバーに向かう。
「ありゃ、ばれてら」
一方、あっさりと真実を認めるシルバー。『さすがにアルドワーズに怒られるか?』なんて独り言を言っている。
「………何が目的だ」
気が付くとヨミヤは、シルバーにそんなことを訪ねていた。
「お前は、俺の話を聞いて尚、その女を庇うと言ったよな?」
シルバーは、腰に手をかけてため息をつく。
「―――もうお前に語ることはねぇよ」
「チッ………」
何の感情もない瞳で言葉を返されたヨミヤは舌打ちをしながら、ゆっくりと近づいてくるシルバーを睨みつける。
―――切り替えろ。今は相手の動機なんてどうでもいい。敵の目的がシュケリなら………今やるべきことは………
「ハーディさん! オレがコイツを足止めします! ―――シュケリと逃げてください!!」
「………わかったわ」
シルバーとヨミヤとの戦闘を見ていたハーディは少しだけ不安そうな顔を浮かべて―――それでもヨミヤの言葉を肯定し、シュケリに肩を貸して立ち上がった。
「………」
その様子を背中で感じながら、ヨミヤの脳裏にもう一人の少女が浮かび上がる。
―――ヴェールは………でも、今優先するべきことは………
母と離れてしまった元奴隷の魔族である少女。
彼女はシュケリと共に『フォーラム』に連れ去られた。
シュケリと違い、『保護』という名目で連れ去られたため、今すぐ身の危険はないと今まで判断していた。
しかし、シュケリを保護した今、ヴェールも救出しなければいけない。
―――でも、今ハーディさん達にヴェール救出を頼むのは………負担が大きすぎる………
勝てるか分からない程の強敵を前に、『自分が助けに行く』という選択肢が頭に浮かばないヨミヤは、ハーディ達にヴェールを任せることもできないまま、心の中で逡巡を続ける。
「ヨミヤ様」
そんな少年に、シュケリは声をかけた。
「ヴェールは………私にお任せください」
「!?」
ヨミヤは、疲れた表情で必死に笑みを作るシュケリを見つめて、少しだけ瞑目して―――
「―――任せた!」
シュケリに笑顔を返した。
「もうこの子達は………」
二人のやり取りを見て、自分が頑張ることが確定したハーディは、呆れたように―――それでいて嬉しそうに微笑んだ。
「―――行かせると思ってんのか?」
刹那、シルバーはハーディとシュケリに向かって高速で突撃する。
「………止められると思ってんの?」
ヨミヤは、即座に動き出しシルバーの前に立ち塞がり―――互いの刃が衝突した。
「お前を止めることぐらいはオレにでもできる」
「はッ………生意気なガキンチョだ」
ギリギリでつばぜり合いが成立している今、ハーディは今度こそシュケリを連れて階段に向かう。
「シュケリちゃん。急ぐわよ」
「はい………―――ヨミヤ様、どうか負けないで………」
それだけ言い残し、シュケリはハーディと共にその場を立ち去った。
閲覧いただきありがとうございます。
コミケ、疲れました…
参加者の皆さん、お疲れさまでした。




