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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
129/270

夜と銀の交差で輝く イチ

「ウーズ・ブレークの降臨………!!?」


 イアソンの研究室。その書斎にて、ハーディは目を見開いた。


 原因は、イアソンの残した資料―――『フォーラム』の目的の記された研究資料を呼んだからだ。


「………バカげてるッ!」


 その資料には、シュケリのデータと共に、計画の提案がされた文章が記載されていた。


 曰く、人間形態のウーズ(以降、『検体U.S』と呼称)に、大量の魔獣を食わせることで個体としての脅威度を上げることができる。


 曰く、人間形態を獲得するに至った魔法の情報逆流(以降『共鳴現象』と呼称)を利用し、こちらからの指示に従う個体を作り上げることができる可能性がある。


 曰く、以上の理由から、『フォーラム』の目的である世界統合のための『メインプラン』を『ウーズ・ブレークの降臨』とし、研究を続けていくことを提案する。


「あの戦争で………あの化け物に、どれだけの人が殺されたと思ってるのよ………!!」


 ある者は、ウーズブレークに丸々飲み込まれ、


 ある者は、ウーズブレークの生み出す魔獣モドキに殺された。


 『ウーズ・ブレーク(あのバケモノ)』はたった一体で、数えきれないほどの人間を殺した。


 『フォーラム』はそんな生物を、再び世に解き放とうとしているのだ。


 エイグリッヒと共に、『ウーズ・ブレーク』を討伐したハーディは、怒りで資料をグチャグチャにしないように努めながら、もう一冊の本に目を通して―――


「ッ!!?」


 ―――シュケリの監視日誌を見てしまった。



 ※ ※ ※



「ぁあ~………久々に効いたなぁ………」


 ヨミヤに顔面を殴られ、廊下まで吹き飛んでいたシルバーは、ゆっくりと部屋に戻り―――その長すぎる長剣を引き抜いた。


「………ごめんねシュケリ」


 泣きじゃくるシュケリに、ヨミヤは微笑むと、彼女をそっと離して―――立ち上がった。


「ヨミヤ様………」


「大丈夫。―――もう………負けない」


 不安そうな声を出すシュケリへ、ヨミヤは剣を引き抜きながら―――ハッキリと告げた。


「お前が、あくまで俺らと敵対すんなら………働かなきゃなぁ………」


 あくまでめんどくさそうに―――ヨミヤのことを見下しきっているシルバーに、ヨミヤは刃の先を向ける。


「働いても無駄だよ―――オレ達がシュケリを連れて行くから」


「はッ………威勢がいいねぇ………」


 短く、それだけ言葉を交わし―――両者は激突した。



「シュケリちゃん!!」


「ハーディ様………!」


 ヨミヤとシルバーが戦い始めた時、ハーディが丁度シュケリの所に駆けつけた。


 ハーディはヨミヤとシルバーへ視線を向けて―――すぐにシュケリの方を抱いて、部屋の隅に避難。戦いの余波が来ないように、小さな結界を作る。


「は、ハーディ様………わ、私………!」


 今も、シュケリを支え―――ヨミヤとシルバーの戦いに介入するかどうか悩んでいるハーディへ、シュケリは必死に声をかけた。


「………シュケリちゃん」


 そんなシュケリの様子に気が付いた、ハーディは彼女へ視線を向けて―――その桜色の髪を優しく撫でた。


()()()()()―――だから無理に言わなくても大丈夫」


「え………?」


 ハーディのまさかの言葉に、シュケリは言葉を失う。ハーディは、そんな彼女へ、イアソンの部屋で見つけた資料を見せる。


「それは………!!」


「………イアソンの部屋で見つけたの」


 その資料は、シュケリがイアソンの代わりに机に隠した資料だった。―――その資料の中身を知っているシュケリは少しだけうつむいた。


「では………私のことを………」


「ええ。―――でもね、アタシはシュケリちゃんを排斥したりしない。………第一、アタシが()()()()を見捨てることができるわけないじゃない」


「シュー………リ………? な、なぜその名を………?」


 意外な人物から、これまた意外な人物の名が出て、混乱と動揺と………罪悪感とがシュケリの脳内を支配する。


 そんなシュケリを見て、ハーディは大きくため息をついた。


「イアソンと一緒に暮らしてた割には、アタシのこと知らないとは思ったけど―――あのヘタレ、アタシのことシュケリちゃんに何も話してなかったのね………」


 それは、『シュケリには関係ないこと』だから教えなかったのか、はたまた、罪悪感からか………たしかに、イアソンは、シュケリに『師匠が居る』ことしか彼女に伝えていなかった。


「………とにかく」


 ハーディは困惑を浮かべるシュケリの頭を引き寄せ―――ギュッと胸の中に閉じ込めた。


「あなたも、あなたの中に居る『シューリ』も、()にとっては大切な人なの。―――だから怖がらないで」


「あ、り………が、とう………ございます………」


 感情渦巻いていたシュケリの胸中は、しかし、母のように寛大なハーディの言葉に、次第に落ち着いていく。


「………ぁれ?」


 そして、同時に、シュケリの涙が今度は勝手に流れ出す。


「な、涙が………勝手に………」


「………なんでかしらね」


 シュケリに悟られぬように、そっと微笑むハーディは、


―――久しぶりね。


 心の中で、娘との再会を喜んだ。

閲覧いただきありがとうございます。

フォーラムの目的を語ると言っていた回想前に言っていたシルバーは、イアソンとシュケリの過去を語っただけでフォーラムの目的は語ってません。

…適当な大人ですね。

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― 新着の感想 ―
ヨミヤとシルバーのバトルを尻目に再会が描かれているところがいいですね。こういう大真面目な他人事感、なんか好きなんですよね。なんなんでしょうね。今回もとても楽しかったです。
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