無窮の少女が出会った少年
「―――こうして、哀れなその男は、一人の………一匹の『ウーズ』を庇って死にましたとさ」
時間は現在へ巻き戻る。
『賢者の柱』最上階にて、ヨミヤとシルバーは対峙していた。
「………これでわかったろ? お前が『シュケリ』と呼ぶその女は、人間じゃない。泥から生まれた惨めな魔獣なんだよ」
まるで子どもに言い聞かせるように、諭すようにヨミヤへ事実を告げるシルバー。
「『魔獣』は、危険な存在だろ? ―――実際、お前も数えきれないぐらい襲われたはずだ」
「………」
肩をすくめるシルバーは、ゆっくりとヨミヤへ歩を進める。
「なんでそんな存在を助けなきゃいけない? ―――実際問題、どう扱うべきかなんてわかりきってるだろ?」
「………」
そんなシルバーの言葉に、ヨミヤは答えない。
実際、少年は『奈落』で、『坑道』で、『道中』で、数えきれないほど魔獣と戦った。
『奈落』で戦った魔獣には、なんなら殺されかけてもいる。
少年は、『魔獣』の怖さを嫌というほど知っていた。故に―――
「知らないね」
近づいてきたシルバーの顔を殴り飛ばした。
「ッ!!?」
シルバーは、それだけで、部屋の壁を破壊して―――派手に廊下に吹き飛ばされた。
「オレの知っている『シュケリ』っていう魔獣は―――」
ヨミヤは握り拳を作ったまま―――静かに魔獣の屍に囲まれたシュケリを見つめた。
「大食いで、ボンヤリしてて、優しくて、気遣いが出来て………それでいて」
うつむいていた少女は―――少年の言葉に、ゆっくりと顔を上げて………確かに見た。
「奴隷の子どもを助けられなくて苦心していた『人』だ」
以前と何も変わらぬ―――少年の笑顔を。
『ヨミヤさ………ま………』
「だからさ、シュケリ」
ヨミヤは、彼女の名を呼び―――ひび割れたガラスに手を添えて………力を込めた。
それだけで亀裂の入った透明なガラスは崩れ去り―――ヨミヤは死骸の中をためらうことなく歩み進めた。
「自分が『魔獣』だからって気にしないでよ」
「うっ………うっ………うっ………」
目の前まで歩み寄ってくれた少年を、シュケリは胸の奥から込み上げるものと共に見上げた。
「また、一緒に旅をしよう。―――まだヴェールのお母さん、見つけてないしさ」
血だまりに膝をつき、ヨミヤはゆっくりとシュケリに手を差し伸べた。
「うああああああああああああああああああっ!!!」
シュケリを、魔獣と知って―――『ウーズ』と知って尚、少年は彼女に変わらぬ笑みを向けてくれた。
受け入れてくれた。
それだけがただ嬉しくて、シュケリは少年の胸の中に飛び込み―――あふれる涙を止めることもせず泣き続けた。
「………」
少年は、少しだけ驚愕の表情を見せたのち―――胸の中で泣き続ける無窮の少女を慰めた。
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年末ですねぇ…




