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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編

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119/270

過去回想:悲劇はそれでも無窮と共に 転換

 診療所。


 現在、シューリの入院しているこの診療所は、患者を一つの部屋に集めて、関係者全員が固まっていた。


「みなさん、大丈夫です!! この建物は今大勢の騎士達に守ってもらっています!!」


 シューリの担当医の男が、患者を安心させるように声を上げている。


「………」


 そんな中で、イアソンは死んだ目で眠り続けるシューリの手を握り続けた。


 その焼く三十分後、建物のガラスを割るほどの爆裂音が響き―――外を蠢いていたウーズの分身が消え去った。


 患者の容態を確認するため、無理やり家に帰されたイアソンは、診療所の外に転がる無数の騎士の死体を横目に帰路についた。



 ※ ※ ※



 一週間後。


「………」


 イアソンは、必要最低限の身支度だけ済ませて、寝室からノロノロと出た。


「おはようイアソン。朝食作ったけど、食べる?」


 キッチンでは、いつもより口調の優しいハーディが、朝食を作って待っていた。


「………」


 が、イアソンは、ハーディの言葉に一切反応を返さず、そのままゆっくりと家を出た。


「………まぁ、ヒューナに続いてシューリもあんなんになったら―――」


 イアソンの背中を寂しそうに見つめるハーディは、深くため息をついた。


「………いや、落ち込むのはナシにしよう」


 しかし、今しがた家を出て行ったイアソンの様子を思い出し―――強く前を向いた。


「とりあえず、日持ちのいいものでも作っとくか」


 すっかりレパートリーの増えた自分の料理を皮肉に感じながら、ハーディは再び料理を始めた。



「………おはようシューリ」


 娘の病室を訪れたイアソンは穏やかな口調でシューリへ声をかけた。


「診療所の建物はおよそ修繕が終わったみたいだね」


 ()()()()ている娘に―――それでも何も反応を返さないシューリに、イアソンは喋り続ける。


「やはり『魔法都市』の異名は伊達じゃない。街の半分はすでに復興しているそうだ」


 ―――植物状態だった。


「色々落ち着いたみたいだからね………シューリの入りたがっていた一座の様子を見に行ったんだ」


 目を覚ましたのは、戦争終結から二日後。


 『息をする』『排泄をする』など、生きる上で欠かせないことは勝手にできる。しかし、『会話』『運動』など、およそ人間らしいことは一切できなくなっていた。


「みんな無事だった。戦争が始まったときに、すぐに仮設の町の方へ避難したそうだ」


 再び絶望を叩きつけられたイアソンだったが、今は、医者の助言により、ひたすら外部からの刺激―――特に会話を通してシューリに情報を伝えていた。


「………シューリのことを伝えたらな、『今度お見舞いに行く』って」


 不意に、イアソンの脳裏に、『ダント』の衣装を身に着けていたシューリの姿がよぎる。


「なんで―――なんで()()()なんだろうなぁ………」


 娘の手を力いっぱい握り―――男は大粒の涙を流す。


「ヒューナも………シューリも………幸せに暮らす権利があったはずだ………なのに………なのになんで………」


 頭の中に浮かぶのは、帝都に居た頃の記憶。


 街の片隅で、密かに―――けれど確かに幸せな時間を過ごした日々。


 妻の顔が―――娘の顔が―――泡沫のように浮かんでは消える。


 あるいは、幸せの記憶が、滴る雫となって静かに流れ出ているのか。



―――なぜ



 次第に、昔日の幸福な夢を描いていた()は、冷徹な()()に塗り替わっていく。


―――なぜ失わなければならない


 否、塗り()()()()()()


―――ヒューナは病に殺された。


 思考の方向性が、歪む。


―――僕に知識がなかった。


 歪む、歪む、歪む。


―――シューリは魔族に傷つけられた。


 イアソンの人生に、転換期など腐るほどあった。


―――僕に()がなかった。


 しかし、決定的な転換期はココだったのだろう。


―――そうだ、まずは力をつけよう。


 イアソンが―――『()()の男』が一人になってしまった………転換期は。


―――僕の『知識』をもって………『力』を生み出す………!!

閲覧いただきありがとうございます。

寒くて死んじゃいそう。

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