過去回想:悲劇はそれでも無窮と共に ジュウイチ
記録
帝暦五九八年 七の月 二十七の日 午後十一時 六分
『魔法都市襲撃戦争』―――勃発。
※ ※ ※
「………最悪」
街の南門付近の大通り。
大粒の雨が降りしきる中、シューリは人知れずそんなことを呟いた。
それは、雨が降っていることへの言葉か、はたまた、自分の気持ちの状態を表した言葉なのか。
真意を、誰も知りはしない。
「………帰ろう。ハーディさんが心配しちゃう」
ハーディのことを考え、シューリは来た道を引き返し………帰路につこうとする。
のだが―――
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォオォォッ!!!!』
突如として、南門より獣のような雄たけびが、魔法都市を揺らした。
「ッッッ!!?」
音源より近かったシューリは、音圧に吹き飛ばされ、地面に転がる。
同時に、周囲の建物にも若干の罅が走り、咆哮の凶悪さを物語った。
「な、なに………っ!?」
心臓を直接締め上げるような恐怖に、腰が抜けて動かないシューリは―――雄たけびの主を見た。
『ふん………』
それは、大きさ約四メートルはあろう体躯を誇っていた。赤みの強い肌に、発達した下顎。頭部には悪魔族に酷似した、天高く伸びる角。
『研究者共の巣穴か………こんな戦場に来るくらいなら、アスタロトと遊んでいたかったわ』
鬼頭族の第一階級魔族―――アガレス・パフォード。
魔王軍の幹部が魔法都市を、突如として襲撃した。
「斥候は一人アルドワーズ様に報告しに行け!! 他の斥候は敵部隊の全貌把握!! 他の者はあの鬼頭族を足止めしろッ!!」
「「「はい!!!!」」」
すぐに門の警備に当たっていた騎士の部隊が応戦。
各方面に散らばる騎士。その部隊のほとんどは手際よく、攻め込んできた魔族を取り囲んだ。
「に、逃げないと………っ!!」
シューリは、急いで立ち上がろうとするが―――
―――ぁ………足が………動かない………
人生で初めて感じる命の危機に、足がまともに動いてはくれなかった。
『邪魔だ雑魚共がァァァァァァァァァァ!!』
その時、再び異形の咆哮が響き渡り、
「あ―――」
魔族に騎士たちは吹き飛ばされた。
※ ※ ※
「シューリッ!! どこだッ!!」
イアソンは、シューリを探していた。
『ホテル』を後にしたイアソンは、シューリにも考えをまとめる時間が必要だと思い、ゆっくりと娘を探していた。
だが、突如として響いた怪物の咆哮―――魔族の大音響を聞きつけ、イアソンは街中を駆け回りながらシューリを探していた。
―――どこだ!? 家か!? いや待て………仮にあの音の近くに居たら―――
魔法で位置を特定することも失念し、思考を高速で回転させて、イアソンはすぐに結論を出す。
「なんで魔族がッ………」
―――すなわち、通りを挟んだ向こう側にある南門………その通りを探すことを。
「ㇵァッ………ㇵァッ………ㇵァッ………!」
運動不足の全身はすぐに悲鳴を上げるが、それでもイアソンは走るスピードを緩めることはしなかった。
―――頼む
乱れる呼吸を無視して、
―――頼む頼む頼む
軋む足で地面を踏みしめ、
―――ヒューナ、あの娘を………ッ!!
頬を伝う雫は、大粒の雨が隠して―――
「シューリッ!!」
路地裏を抜けると、シューリが居た。
「シューリ!!」
安堵に一瞬だけ気が緩む。
「お父さんっ!!」
シューリもイアソンに気が付いたようで、涙の溜まる瞳で懸命に父に手を伸ばして―――
刹那、弾丸の如き速さで飛来した拳ほどの岩石が、
シューリの右目に被弾した。
「ぁ………」
漏れ出たのは誰の声か。
次の瞬間、シューリは地面に頭部を勢いよく打ちつけた。
飛び散る血痕と、娘の目玉。その光景を二度とイアソンは忘れることができないだろう。
閲覧いただきありがとうございます。
コミケ、無事数日前に納品することが出来ました。
さて、今度はどれだけ誤字があることやら(震え




