過去回想:悲劇はそれでも無窮と共に ニ
「能動的に発動する魔法の類………ありました!」
『魔道具』の一般化を目指すイアソンとハーディの研究は、順調だった。
「―――なるほど………罠魔法の類ね」
二人はまず、設置型の魔法―――罠魔法に目を付けた。
この魔法は、ある一定の範囲に入った対象が特定の行動を起こすことで作動する魔法のことだ(例えば、『魔法陣の中に入った』対象が『動いた』瞬間に、火球を発動させるなど)。
『絶命期』以前の遺跡に、来訪者を追い払うためによく見られた罠の魔法だが、かなり昔にこの魔法に関する魔導書が見つかって以来、広く普及した魔法だ。
罠魔法の大きな特徴として、他の魔法とは異なり、条件的とはいえ魔法が能動的に発動することにある。
「この術式を今一度解読すれば、魔法が能動的に発動する仕組みを作れそうな気がするんです!」
『術者に魔力を注がれて初めて発動する』魔法の欠点を限定的に克服した魔法。―――イアソンはまずそこに着目した。
「了解、なら私は色んなトコから罠魔法に関する論文や魔導書を集めてくるわ」
「え、師匠が術式の検討を行った方がいいのでは………?」
「バカね、いろんな伝手がある私が資料を集めた方がいいに決まってるじゃない」
「………はい」
―――なぜかコミュニケーション下手なイアソンが無意味に傷つくことになったが。
そこからはトントン拍子に研究が進む。
「魔法を連動して動かすためには、ある程度複雑な機構が必要ですね」
「そうね。―――アルドワーズに相談して、魔廻石の調達と加工をなんとかするわ」
「お願いします師匠」
この頃になると、材料や研究費用などの細かい部分をハーディが担当し、イアソンは魔法知識や術式考案のセンスを着実に磨いていた。
だが―――
「………」
「………………」
現実は甘くなかった。
「ダメね」
「………ですね」
とある問題点が浮上したのだ。
「………いくら考えても、『使用者に依存しない魔力供給方法』が思いつきません」
そう、『魔道具』を動かすのに必要不可欠な魔力の供給の方法が見つからないのだ。
というのも、従来の『使用者が魔力を注ぐ方法』で魔力を供給してしまえば、『複雑化した魔道具』にしかならない(機構も魔法も複雑なので、魔力消費が激しく、より使い手を選ぶ)。
「―――他の機構はもう完璧なのにね」
ちなみに、この問題点自体は割と最初期から浮上していた議題だったのだが、いくら考えても解決方法が見つからなかったため、二人は他の機構を先に完成させてしまったのだ。
「………自分はもう少し考えをまとめてから帰ります。―――師匠は先に帰っててください」
「………そういって、貴方昨日も帰らなかったじゃない。ヒューナも心配してたし、シューリも寂しがってたわよ?」
「………だからこそ、師匠には先に帰ってて欲しいんですよ。―――貴女になら二人を任せられる」
「………そういってもらえるのは嬉しいのだけれどね」
ハーディはそう言って、言葉を続けようとするが―――
「………」
イアソンがすでに、手元の資料に目を落としていることに気が付き、大きく息を吐いた。
「―――貴方の代わりにはなれないのよ」
ポツリと、そう言葉を零し………そして、研究室の扉をくぐろうとする。が………
「イアソン博士ッ!!」
他の階の研究員が、珍しくイアソンの研究室に飛び込んできた。
「………どうしたんだい?」
疲れたかのイアソンは、少し怪訝な表情をしていたが、すぐに対外的な顔を作り、声を上げてやってきた研究員を迎える。
「………」
おそらく、研究に没頭したいのだろう。―――今のイアソンには、こんな些細なことも煩わしくなっている。
イアソンの内情を的確に見抜いていたハーディは、けれど、次に研究員が伝えに来た出来事に、言葉を失うことになる。
「お、奥様が倒れたそうです………っ!!」
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相変わらずにじさんじにハマってます。




