魔法都市メフェリト サン
「貴女は………!?」
隠ぺいの魔法を使ったハーディを、上の階よりやってきた男は認識した。この事実は、通常起こりえない。―――ある例外を除けば。
「ッ………!!」
人を呼ばれる前に男を排除しようとするハーディ。
しかし―――
「まっ、待ってくださいハーディ博士!!」
「!?」
ハーディは自分のことを『博士』と呼ぶ男に、魔法の手を思わず止めてしまった。
「………あなたは?」
訝しんで目を細めるハーディに、男はとりあえず安心したように息を吐いた。
「―――初めまして。私、ナーガマー・ディールと申します」
「………」
男は柔らかな笑みを浮かべ、丁寧にお辞儀する。
そんなナーガマ―を、ハーディは警戒した目で見つつ、とりあえず待機状態にしていた魔法を解除した。
「………ナーガマ―。なぜ私を知ってるのかしら?」
警戒を解かないハーディ。ヨミヤもそれに倣い、いつでも動けるよう待機する。
「それは………」
少しだけ言いよどむナーガマ―。そんな彼の様子にハーディとヨミヤの警戒心が高まる。
「………」
そして、ほんの少しだけ間を置いて―――
「私が貴女のファンだからです!」
想像の斜め上を行く回答に、二人は膝から崩れ落ちた。
※ ※ ※
隠ぺいの魔法の認識阻害は、術者を知覚したときに生じる『刺激』を極端に少なくする魔法だ。ゆえに、対象を知覚したとしても、脳が『刺激』に反応できず知覚ができない。
しかし、知覚した者にとって、術者が無視できない程の存在だった場合―――膨大な量の『刺激』が抑制すら乗り越え………脳が反応することがある。
「いやぁ………本物とこうしてお話しできる日が来るなんて………」
「………」
「………」
要するに、目の前のナーガマ―おじさんは、ハーディが大好きというワケだ。
「………アイドルみたいだねハーディ」
「………何を言ってるか分からないけど、バカにしてる?」
笑顔でずっとハーディの手を握っているナーガマーに、二人は各々そんな反応を見せる。
「はぁ………」
ハーディは両手でナーガマ―の手を取り、彼の手をそっと返す。
「………ここまで連れて来てくれたのは感謝するわ」
現在地十階、ナーガマ―の研究室。
隠ぺいの魔法を使い、『賢者の柱』を登っているのをみたナーガマ―は、二人の事情も聞くことなく人の居ない自身の研究室へヨミヤ達を招いたのだ。
「………でも、私達最上階に用があるの。―――行かなきゃ」
「おや………」
少しだけ残念そうなナーガマー。
そんなナーガマ―を尻目にハーディはヨミヤと共に研究室を後にしようとするが―――
「今いけば最上階の主任研究者―――セラドンと鉢合わせますよ?」
その言葉に、ハーディは足を止めた。
「………その口ぶりからすると、その『セラドン』とやらが居なくなるタイミングがあるみたいね?」
「―――もちろんですとも」
ナーガマ―の言葉を、二人は立ち止まり聞くことにした。
閲覧いただきありがとうございます。
祝100話ですね。読んでくださった皆様に感謝を。
ありがとうございます。ゆっくりですが、完結まで頑張ります。