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すまない

 村外れのその位置はモンスターからは見えにくい。

 そこに居たのは村人ではなく、傷ついた冒険者と呼ばれる者達だった。

 比較的軽傷の男がクロムに気付く。


「子ども……? 村の子か?」


 クロムはいち早く気付いたその男に駆け寄って縋る。


「助けて! 僕の村を守ってよ! ここには僕の大事なものがあるんだ!」

「そうか……すまない、モンスターがここに来たのは俺達のせいなんだ」


 唇を噛み締め渋い顔をする男は真っ直ぐ見つめてくるクロムから顔を背ける。


「おじさん達のせい……? 村が襲われたのも、お父さんやお母さんが殺されたのも……?」

「ああ……本当にすまない」

「なら、おじさん達がモンスターをやっつけてよ!」

「それは無理だ」

「何で!? おじさん達、さっき戦ってたじゃん! 僕、見てたよ!」

「見てみろ、ボウズ」


 男はクロムの肩に手を置き、傷ついた仲間達の方へ体を向けさせた。

 クロムの目に映ったのは悲惨なもので言葉も出ない。


「俺達は四人編成からなる二組の冒険者パーティーだ。あのモンスターを討伐するクエストを受けたんだが、見ての通り返り討ちさ」

「討伐……クエスト?」


 村に冒険者が来たことはあるからクロムは冒険者という存在自体は知っている。

 ただ、冒険者が何をするものなのかまでは知らなかった。


「モンスターをやっつける依頼さ。俺達は数も強さもこちらが上だと思い、奴らの討伐に向かった。結果、俺達は奴らを倒し集落を制圧」

「じゃあなんで僕の村にモンスターが?」

「俺達が殲滅したのは群れの下っ端と幾つかある拠点の一つでしかなかったんだ。俺達の行動が引き金になって、新たな集落を作るついでに見せしめとして一番近いこの村が襲われたんだろう」

「そんな……」

「下っ端のゴブリンやスケルトンだけならそうはならなかっただろうが、奴らを統率しているこの群れの親玉はオーガ、あれは強く賢い。戦ったが俺達ではどうする事も出来なかった」

「じゃあ僕の村は……」

「すまないが守ってやれない」

「なら、僕の妹だけでも助けてよ! 僕が助けを呼んで来るって言って出てきたからウチで隠れてるんだ!」

「それも出来ない。仲間を見てわかるだろ? 俺達はもう戦う力も気力もそんなに残っていない。この村は奴らに囲まれている。自分達だけでも逃げきれるかどうか怪しいんだ」

「じゃあ妹は……リシアは……」

「すまない……諦めてくれ」

「諦め……る?」


 男の言葉に呆然としたクロムの頭の中にリシアとの思い出が駆け巡る。


「そんなの……嫌だ!」


 クロムは男の腰から短剣を奪い取り、


「お、おい、ボウズ――」


 険しい顔をして通ってきた道を駆けて戻り、家の手前で足が止まる。


「あ……あぁ……」


 クロムの目に映ったのは火が放たれた自分の家。かなり火の手が回っていた。

 家の近くには二匹のゴブリンが松明を片手に焼ける家を見て楽しそうに小躍りしている。


「アイツらが……」


 もうクロムの中に恐怖はなかった。クロムを支配する感情は怒り一色。

 怒りに囚われクロムの体は考えるより先に動いていた。


『グギッ!』


 背後から手前にいたゴブリンの首と頭の境目を短剣で一突き。


『ギャッ!』


 間髪入れずに抜き去った短剣を横に振りもう一匹の首を掻っ切る。

 怒りに任せた攻撃にしては良かった。血を流し力無く倒れているゴブリンは二匹とも絶命。

 しかし、怒りが治まらないクロムは絶命したゴブリンの一匹に跨り、幾度となく短剣を体に突き刺す。


「よくも僕の家を! お父さんとお母さんをよくも!」


 手応えがなくなって、漸くクロムは正気を取り戻した。


「はぁ……はぁ……そうだ! リシア! リシアを連れ出さないと!」

 燃え盛る家の中へ飛び込んだクロムはキッチンへ一目散で走り床板を開ける。


「大丈夫か、リシア!」

「クロお兄ちゃん!」


 床板が開けられ収納から飛び出したリシアはクロムに抱きつき小刻みに震えていた。


「シア、声出さなかったよ。ちゃんとクロお兄ちゃんの言う事聞いたよ」

「そうか。偉いぞ、リシア」


 体を少し離したリシアはクロムの頬に手を当てる。


「クロお兄ちゃん、血……。怪我したの?」

「大丈夫。怪我はしてないよ。それより早くここから出よう。さ、背中に乗って」

「うん」


 短剣の刃に布を巻き付けて腕に括り付け、クロムはリシアを背負って裏口から家を出る。

 クロムの家から村を囲う柵からそう遠くない。裏口から抜けた場合、少し行けば柵の外には幸いにも身を隠せるくらいの草むらがある。そこまで辿り着ければ逃げきれる。

 最初にそうしなかったのはその柵の手前の家にモンスターが複数いたから。

 時間が経った今、モンスターがそこから居なくなっている事に一縷の望みを賭けてクロムは警戒しながら村の外を目指す。

 だが、その望みは叶わず。

 柵の前にスケルトンが一匹見張りとして居た。

 物陰に身を隠して様子を窺うクロム。


「くそ……アイツをどうにかしないと」

「クロお兄ちゃん……」

「大丈夫だ、リシア。何とかするから」


 クロムは焦る気持ちを抑えて状況を確認する。

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