帝国の危機でも目立ちたくない⑨
誰が最初に気づいたかは分からない。
ただ、一人の生徒に釣られて窓の外を見るとさっきまで猛威を振るっていた火柱は何処にもなかった。
いや、消えたという表現が正しいかもしれない。
どんな裏技を使ったのか知らないけど、10本以上あった火柱をいきなり全て消滅させる事なんて可能なのだろうか。
「消えた。なんだろうね。」
「魔法を消した?いえ、そんな魔法はないはず……。」
レイさんは顎に手をやり長考しだしたので、仕方なく自席に戻る。
ああなると僕の言葉は耳に入らなくなるのだ。
それにしても今回、派手に事件を起こしたにしては呆気なく終わっちゃったな。
学園に侵入してきた人も油断からか一撃当てたら逃げちゃったし。
教室がざわついていると、聞き覚えのある声が教室の扉付近から聞こえてきた。
「ただいまー!ってあれ?みんなどうしたの?」
アスカだった。
呑気に笑顔を振りまいているが、君を探すのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。
「アスカ、今まで何処に?」
「ん?あー実はさ、これ買いに行ってたんだよね~。なんか美味しいって聞いたから!」
手には紙袋。
しかしその紙袋は見覚えがあった。
リンカのクレープだ。
授業を抜け出して買いに行ったというのか。
けしからん奴だな。
「ふふふーみんなにも分けてあげるよ。」
「じゃあ許す。」
「許すの!?さっきまで説教してやるって顔してたのに!?」
ロゼッタが隣でごちゃごちゃ言ってるが気にしない。
僕は寛容な男なのだ。
「しかし、こんな騒ぎが起きているというのに学園を抜け出して買いに行くとはあまり褒められた行為ではないな。」
フェイルは難色を示しているようだ。
案外真面目なんだよな。
「まあいいじゃない。リンカのクレープが食べられるのよ?アンタいらないの?」
「そんな事は言ってないだろう!!俺も食べるぞ!!!」
ブツブツ文句言ってた癖に食べるのか。
まあアスカが買ってきたやつだし僕がどうこう言う事でもないけど。
「お前ら、騒ぎすぎだぞ。」
流石にアスカの件で騒ぎすぎたのか、オルバ先生に注意された。
いやおかしいぞ。
オルバ先生は何故怒らないんだ?
生徒が一人勝手な行動を取ったんだ。
普通なら怒るどころか指導室行きだ。
「それと、アスカ。お前は指導室に来い。」
「ええー!!なんでー!?」
ああ、やっぱり。
お咎めなしというわけには行かなかったようだ。
オルバ先生は怒ったら怖そうだし、アスカのやつ泣くんじゃないだろうか。
アスカは指導室に連れて行かれた。
オルバはただ怒るために彼女を呼んだわけではない。
「それで?首謀者は見つけたのか?」
「見つけたよ。緋色の爆撃が今回の事件を起こしたみたい。」
「チッ、結構な大物が出張って来やがったな。」
「それとレオニスが帰って来たよ。ホントはもっと戦闘が長引くと思ったんだけど丁度良い所にレオニスが現れたお陰で、敵さんは両手を挙げて降参しちゃった。」
レオニスと聞くとオルバは嫌そうな顔をする。
暑苦しい、大真面目、自分より強い、のオルバが嫌いな要素が全部揃っているせいで、ソリが合わず、毛嫌いしていた。
「アイツは早くても明日じゃなかったか?帰還するのは。」
「それが、副団長と他の騎士を置いて1人で帰って来たらしいよ。」
「相変わらずの体力バカめ。副団長もしっかり手綱握っておけよな。」
「まあそう言わないであげてよ。あの人いっつも苦労してるんだからさ。」
帝国騎士副団長はいつも可哀想な目に合っている。
今回もそうだ。
団長が先走ったせいで、他の騎士を率いて帰らなければならないし、遠征の報告も全て副団長がやらされる。
いつかストレスで胃に穴が空くんじゃないかとも言われている人だ。
「まあいい。それともう1つだ。帝都を襲った火柱あっただろ。あれ消したのはネームレスか?」
「それしかないよね。ワタシも詳しくは聞いてないんだけどあんな一瞬で消せるってなると、ネームレスしか有り得ないと思う。」
2人共ネームレスの事は知っているが、実際に魔法を目にした事はない。
ただ話に聞いている魔法と今回自分の目で見た光景が一緒だった為なんとなく分かったといった具合だ。
「とんでもねぇ魔法だな。でもあれ確か一ヶ月は使えねぇんだろ。その間帝国を守るのはどうすんだ。」
「ワタシに聞かれても知らなーい。まあレオニスが帰ってきたしなんとかするんじゃない?」
「ハァ……まあ俺は当分ここで教師をやらされるんだ。城の方はなんとかするだろ。」
「ワタシも今は別の任務に就いてるしねー。」
2人が指導室で会話を続けていると、ジリアンが入ってきた。
慌てた様子だった為一度会話を止める。
「どうした、何かあったのか?」
「2人共聞いてない?明日十二神は全員招集命令がかかったのよ。」
全員招集とは皇帝陛下のみが使える特別な命令。
各地に散らばり各々任務を請け負っていても必ず集まらなければならないほどだ。
ただ、国境の守りに就いているクレイのようにどうしてもその場から離れるのは危険という場合のみ免除される。
もちろんオルバも皇子皇女の護衛という面から離れることは出来ない。
故に今回の招集で行かなければならないのはアスカとジリアンであった。
「ええー!?なにそれ!聞いてないよー!」
「ウチだって今さっき聞いたとこよ!とにかく明日必ず集合だからね!忘れないように!」
それだけ伝えに来たらしい。
オルバはあまり関係がない話ではあるが、何故招集がかかったのか気がかりではある。
「アスカ、全員招集なんて早々ねぇ事だ。何か良からぬ事でもあったかもな。」
「ちょっとー気が滅入るような事言わないで。ただでさえ行くの面倒くさいんだから!」
「まあいい。とりあえずもう教室に戻れ。あんまり遅いと疑われるぞ。」
少し話が長くなってしまったのでオルバはアスカを教室に帰るよう促した。
もしもこの学園に脅威が迫るようであれば、本格的にマリスへ支援を要請しなければならない。
そうならないであってくれと、願うオルバであった。
教室に戻ったアスカはあまりしょぼくれた顔をしていなかった。
どうやらオルバ先生はそんなに怖くないらしいな。
「アスカ、オルバ先生あんまり怖くなかったのか?」
「ん、あーまあそうだね!案外優しかった!かな?」
指導室に入った人は大抵出てくる時どんよりした雰囲気を纏っているのだが、アスカには関係がなかったらしい。
「あ!それよりさ!学園に侵入者が来たんだって!?話聞かせてよ!」
アスカはいつも通りの笑顔で話を振ってくる。
長くなりそうだと感じながらもちゃんと相手をしてやるマリスであった。
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