クラブ活動でも目立ちたくない⑩
ロゼッタ達の話をよく聞いてみると怒っている理由が分かった。
要約するとこうだ。
四色魔導師でもあり公爵家の奥方でもあるロゼッタとシーラのお母さんの前でとんでもない威力の魔法を放てば、どう考えても普通の三色魔導師ではないと怪しまれる。
お前はそれが分かってやってるのか?
というような感じだ。
みんながみんな口々にそんな内容の事を話すから話半分にしか聞いてなかったけど、多分そんな感じの事で怒っている気がする。
「そういう事か。いやでも待ってくれ。僕は無属性魔法しか使っていない。それに三色魔導師程度の魔力を使った。ということは、ゴニョゴニョ魔導師だということはバレていない、はずだ。」
「ソレは確かにバレてないだろうね。でも、マリスが明らかに普通の学生ではないということはバレたと思う。」
ミアに突っ込まれた。
なかなか秘密を隠すというのは難しいな。
ついついやり過ぎてしまうのは僕の悪い癖だ。
「知らないわよ、お母様にバレても。流石に今のはフォローしきれないわ。」
「待った待った。誓ってくれたじゃないか、僕の秘密を守ってくれるって。」
「ええ!!!そうね!!!アンタが普通にしてるのならね!!」
「プリプリすんなって。」
「プリプリしたくなくてもするでしょうが!!!バカなの!?もっと加減を覚えろ!!」
ロゼッタのこれでもかという程の叱責を食らい、すみません、としか言えなかった。
ひとしきり興奮し、冷静さを取り戻したのか落ち着いた表情のマリエッタさんが近寄ってきて僕の肩に手を置く。
「マリスさん?先程の魔法は何なのでしょう?あれが新しく創造した魔法かしら?」
さっきの魔法について問われる。
肩に置いた手に力が入っている所を見ると、完全には興奮が冷めきっていないようだった。
「あれは無属性魔法で創った白い破壊の雑音っていう魔法です。圧縮させた空気を前方のみに解放するんです。そうすれば指向性を持った破壊光線の出来上がりって寸法ですね。」
魔法について聞かれたから説明すると理解できなかったのか首を傾げて、ブツブツ言い出した。
そんな姿も美しくて見惚れていると、シーラが横から小声で耳元に話し掛けてきた。
「お母様は魔法の事となると、1日中話し出しますわ。一旦ここは本邸に逃げましょう。」
マリエッタさんが俯き手を額にやりながらブツブツ言い出すのを見計らい全員ソロソロと本邸の方へ向かった。
案内されたのは客間だ。
想像はしてたが、50人は入れるだろう大きな部屋でありそんなに人が集まることがあるだろうかと疑問に思ってしまう。
「今メイドがお茶を入れに行ってるから今の間に整理しましょう。」
「それが良いですわお姉様。」
ロゼッタが当たり前のようにメイドという単語を出す。
僕の家にはいない存在だ。
というより金持ちにしか許されない言葉だろう。
お茶を入れたければ自分で入れるのが僕の家の常識だからだ。
「それで、さっきの魔法はやり過ぎだったわよね?マリス。」
「まあちょっと気合入れすぎたかもしれない。」
「かもじゃねぇだろ……気合入れ過ぎなんだよ……。」
ジンにも突っ込まれ僕の肩身は狭い。
唯一の救いはフェイルが目を輝かせて、先程の魔法について聞きたそうにウズウズしている事だ。
ただ未だに会話へ混ざってこないのは、自分だけおかしな感想を言うと分かっているのだろう。
「魔力量だって明らかに三色魔導師を超えていたわよ。四色魔導師だと言われても納得出来るほどに。」
僕の想像していた魔力量というのはもっと少なめを想定した方が良いのかもしれない。
「どうするのよ?アタシのお母様は確実にアンタに目を付けたわよ。誰がただの学生ごときが宮廷魔導師が3人で張った結界をぶち破ってお母様の結界にすらヒビを入れるやつがいるのよ?アンタは知らないだろうけど、お母様って結構魔導師としては有名なのよ?」
「まあそうだね、マリエッタ・クルーエルと言えば守護神とも呼ばれる程、防御魔法に特化していると聞くよ。」
ルーザーも知ってるほど有名らしい。
それになんだその二つ名。めちゃくちゃカッコイイじゃないか。
今回ジリアン先生は仕事の都合で着いて来ていないが、もしこの場にいたらマリエッタさんの事をなんと評価していたのだろうか。
守護神と呼ばれるくらいだ、十二神であるジリアン先生でもその実力は知っていると思われる。
まあそんな人の結界にヒビを入れてしまったのはやり過ぎだったな。
自重することも覚えたほうが良さそうだ。
「1つ言い訳させてくれ。ほら、ド派手な魔法がいいって言ってただろ?だからデモンストレーションとして全力で魅せたんだ。実際あれを見れば使えるようになりたいってならないか?」
「まあそれはそうだけど……でもそれとこれは別よ!もう少し威力を抑えて見せることだって出来たでしょうが。」
ロゼッタはワガママだなぁ。
シーラを見習いなさい。
横で静かに座って聞いてるだけだぞ。
ロゼッタは口を開けば文句ばかり、ここは1つガツンと言ってやらないといけないな。
そう思い、口を開けかけた途端部屋の扉がノックされる。
どうやらお茶を運んできたメイドさんが来たらしい。
僕の目の前にも運ばれてきたそのお茶はいつしか飲んだあの美味しい高そうな紅茶だった。
一口飲むと、なんかどうでも良くなった。
紅茶の旨さに感謝するといい、ロゼッタ、君を許そう。
しかしメイドに続いてマリエッタさんが入ってくると全員の目線が扉に釘付けになる。
ここに来た理由など誰でも分かる。
明らかにさっきの魔法について聞きに来たのだろう。
誰もがそう思った。
しかしその予測は外れることになる。
「マリスさん、貴方宮廷魔導師に興味はないかしら。」
まさかのスカウトであった。
何となくそれを言われるだろうとは思っていたが、あの魔法を見た上で即スカウトという判断をしたのは魔導師として手放したくないからか。
「貴方の魔法技術は十二神にも及ぶ実力があるわ。もしかすると十二神になれるかもしれないわよ?」
そうきたか。
だが残念、僕は十二神になりたいなどサラサラ思わない。
ただマリエッタさんは公爵家の人間であり尚且つ四色魔導師でもある。
どう断るべきか、頭を悩まされる事となった。
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