クラブ活動でも目立ちたくない②
学園内散歩も程々に教室へ戻ってくると、待ってましたと言わんばかりの目線を向けてくる奴が居た。
アスカ・シラヌイだ。
ああ、自分の席に戻りたくない。
しかしいつまでもドア付近に突っ立ったままというのもそれはそれで目立つ。
仕方なく自分の席へと戻ると案の定アスカは話し掛けてきた。
「マリス君!どこ行ってたの!?」
「散歩だよ。」
「散歩!?学園内!?ワタシも案内してほしーなー!あ!そういえばさ、次の授業魔法実習だって!楽しみだなーマリス君の魔法見るの!!ワタシも結構得意な魔法あるんだよ!えっとね!」
……う、うるさすぎる。
自分の席という安寧の場所が侵されていくようだ。
こっちは何も喋っていないのにも関わらず永遠喋り続けている。
「実習ならサッサと訓練場に行かないと。」
「待ってたんだよー!マリス君を!ねっ、ロゼッタさん!」
「え、ええそうね……。」
心なしかロゼッタが疲れているように見える。
僕が散歩していた間ずっとこの調子だったのだろうか。
もしそうなら悪い事をした。
訓練場に向かう間もずっと話し続けていたが何を話していたか分からない。
遮音結界を張っておいたのだ。
流石にこんな状態がずっと続くのは地獄でしかない。
訓練場に着くと既にオルバ先生が待っていた。
「よーしお前らー、今日は模擬戦をやろうと思う。対人戦は経験しておいて損はないからな。誰でもいいから二人一組でペアを作れー。」
オルバ先生、今そのワードはだめだ。
僕の隣にいるのが誰か分かっているのか。
歩く騒音、アスカ・シラヌイだぞ。
すぐフェイル辺りに声を掛けようとしたが時すでに遅し。
「マリス君!一緒にやろうね!!」
悪魔の囁きは耳元で聞こえた。
結局アスカと組まされた僕は訓練場の端に寄る。
出来るだけ端に寄って少しでも人の目を躱す作戦だ。
準備運動を終えたアスカはふざけたことを言ってきた。
「マリス君って強いんでしょ?ワタシも結構やるから手加減しないでいいよ!」
「そういう訳にいかないだろ、いくら僕でも女の子に本気で魔法を撃てるわけがない。」
「そんな言葉がいつまで言っていられるかなぁ?」
不敵に笑うアスカは少し不気味に思えた。
戦闘に自信があるのだろうか?
強そうに見えないのはあくまでもフリ?
念の為全身を覆う結界を二重にしておいたほうがよさそうだ。
「開始の合図はどうする?」
「んー、じゃあこのコインが落ちたら開始にしよっ!」
アスカは着物の袖から一枚のコインを取り出し空高く投げた。
よくある勝負事の合図で使われるやり方だ。
落ちてくるまで約4秒。
その間に魔法を放つ構えを取る。
アスカは一切微動だにしない。油断を誘ってるのか?
コインが落ちる音が聞こえた瞬間、魔力を練る。
しかしアスカは未だに動こうとしない。
どうしても僕に先手を打たせたいらしい。
そういう事なら仕方ない、威力は最弱で撃つ。
「雷光一閃」
アスカに手のひらを向け、初級魔法を放つ。
するとアスカは微動だにせず口を開いた。
「マリス君〜流石にそれは舐め過ぎじゃな〜い?」
マリスの手から放たれた電撃を紙一重で躱すとまた元の体勢に戻った。
それなりに動けるようだし、それなら複合魔法でもいいかもしれないとマリスは両手に魔力を練り始めた。
アスカはかなり手を抜かれていると感じていた。
マリスが決闘の時のように気絶させる訳にいかないと力をセーブしているように見えた。
自分から攻撃に出れば多少は本気を出してくれるだろうとも思ったが、十二神であることがバレても厄介だ。
しかし同年代で久しぶりに本気で戦える相手でもある。
アスカは本気で戦うべきか手加減するべきか、葛藤していた。
身動き一つしないアスカを不気味に思ったマリスだったが次放つ魔法は二色複合魔法だ。
これでもまだその場から一歩も動かないようであれば、多少怪我するかもしれないが三色複合魔法を使うつもりであった。
「複合魔法展開、水滴る雷。」
勢いよく噴射される水流に纏う雷がうねりながらアスカへと向かう。
紙一重で避けようものなら、静電気のように弾ける電気が体に触れる。
どう躱すか見物であったが、アスカは両手で印を結ぶ。
東の国の魔法だろうか?
見たこともない動きで魔法を展開した。
「術式展開、水龍蛇突!」
印を結び終わると同時に両腕に纏った魔力が水に変換され龍と蛇を形成する。
牙を剥き口を開け勢いよく迫るマリスの魔法を食らわんと正面衝突した。
「食い破れ!!」
アスカの掛け声が聞こえたかと思うとマリスの魔法は掻き消える。
しかし水の龍と蛇の勢いは衰えずマリスへ目指して一直線に駆ける。
マリスはすぐに次の魔法の準備に取り掛かる。
恐らくこの魔法はアスカの得意とする魔法に思えた。
ならばこちらも得意技で返そうと、ついムキになってしまった。
「複合魔法展開、炎雷水王牙!」
試験の時に披露したオリジナル魔法。
まさかもう一度使うことになるとは思わなかったが相手にとって不足はない。
2つの強大な魔力を纏った魔法はぶつかり合い、激しい音をたてながら拮抗する。
周囲には衝撃から生まれた風圧で砂埃が舞う。
アスカの魔法はかなり強力なものだ。
しかし既に水滴る雷を掻き消している為少し威力は衰えている。
マリスはオリジナル魔法で対抗し、純粋な威力だけで言うのであればまったくの互角であったが、威力の衰えたアスカの魔法が次第に押されていく。
「ぐぅぅぅ!!もう!無理だぁぁぁぁ!!!」
アスカの叫びが訓練場に木霊すると同時に押し切られマリスの魔法を正面から喰らい吹き飛んだ。
他の生徒は呆然としている。
ただの模擬戦のハズが強力な魔法の応酬のせいで誰もその場から動かない。
いや動けなかった。
アスカを吹き飛ばしてしまったマリスは我に返り介抱の為駆け寄る。
しかし煙が晴れると着物をはたいて埃を払うアスカがいた。
無事だったようだ。
「アスカ、ごめん。やり過ぎた。」
「いいよいいよ〜、いや〜やっぱ強いんだねマリス君は!ワタシの本気が簡単に敗れちゃった!」
本気だと?
明らかに手を抜いていたように見えたマリスは突っ込む。
「本気じゃなかっただろ、途中で魔力を弱めたように見えたけど。」
するとアスカはまたも不敵に笑う。
「なるほど〜マリス君は強いだけじゃなくて目もいいんだね?」
力を隠しているんだろ、と言わんばかりに詰め寄ってくるアスカに違和感を覚えマリスは後ずさる。
「君こそ力を隠してたように見えたけど?」
「まあお互い様って事にしておこうよ、今はね。」
模擬戦はマリスの勝利に終わったが心にしこりを残す結果となった。
「てめぇら!!模擬戦ではしゃぎ過ぎだ!!こっち来い!!」
オルバ先生から怒られたのは言うまでもない。
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