旧知の生徒が現れても目立ちたくない③
「魔族およそ千人、馳せ参じました。我らの命如何様にもお使い下さい。」
ロゼの前にはロサードが片膝を付き、頭を下げる姿があった。
その横には何故かゴリアスの姿もあった。
「やっと来たかー遅かったじゃん。」
「これでも急いだのですが……。」
「それにたったの千人かぁ、もっと連れて来れなかったの?」
「戦力になりそうな者となるとこの程度しか集められませんでした。直近で大規模な戦闘が二度ありましたので、そのせいで戦力低下していた事は否めません。」
ヘラのような魔神との戦闘による被害は大きく、その時の戦闘で相当数の魔族が減った。
残った魔族の中でもそれなりに戦える者を選び、千人も引き連れるとなれば行軍にも時間が掛かる。
「それにゴリアスもいるじゃん。ヘラが死んだからボクに乗り換えたって感じかな?」
「いえ、俺は……より強い者に従うまで。魔神ヘラ様よりも貴方の方が優れていた。それだけの事です。」
ゴリアスは良くも悪くも単純だ。
ヘラの右腕とまで称された彼は、仕える主が死んだせいで完全に浮いた魔族になってしまっていた。
元々魔神ヘラに付いていた魔族を引き入れようとする者など殆どいない。
そこに目を付けたのが、ロサードだった。
戦力が低下している中、浮いた強力な駒があるならばとすぐにゴリアスを探し出しコンタクトを取った。
実力だけでいえば魔族の中でもほぼ頂点に近しい所にいるゴリアスを放置するのはもったいない。
テスタロッサの許可なく引き入れるのは少し気が引けたが、戦力増強と意味合いでは彼以外に適任者はいないのも事実。
「なるほどなるほど。それでゴリアスがそこにいるって訳ね!いいよ!!その代わり裏切り行為は分かってるよね?」
「も、もちろん理解しています。これよりゴリアスは魔神テスタロッサの軍門に降ります。」
ゴリアスの従順な姿を見て、ロゼは満足げな表情を見せた。
従う魔神の鞍替えなど魔界ではよくある事だった。
「じゃあボクは軍師に伝えてくるからここで待ってて。」
「軍師?人間のでしょうか?」
「そうだよー。魔族が合流したって伝えれば新たな戦略でも考え付くんじゃないかなぁ。」
「では私も一緒に伺います。人間であれば魔族の事をあまり知らないでしょうから。」
ロサードも参謀として頭が回る方である。
人間の軍師というものがどれほどの戦略を練れるのか、見てみたかった。
ロゼが空に向かって火魔法を放つとそれを合図にロランが何処からともなく馬を駆りながら戻って来た。
「テスタロッサ様、何か御用ですか?」
「お初にお目にかかります軍師殿。私はロサード、テスタロッサ様の右腕として町長も務めております。」
「これはどうもご丁寧に。なるほど、魔族の方々が合流したという事ですか。では手始めにお願いしたいことが。」
ロランの話によると現状敵側にとてつもない魔力を持つ者が現れ龍族は殆ど全滅したとの事。
ロサードも表情を険しくして話を聞く。
「現在戦力は拮抗しているように見えますが、こちらの手札は殆ど切った状態です。敵側には恐らくまだ隠し玉があるでしょう。なので魔族の方々には一気にこちら側に戦況を傾けて頂きたいのです。」
「話は理解しました。ではすぐに行動しましょう。魔族は誰もが血気盛んな者が多いですから。移動に時間をかけたせいでそろそろ鬱憤を晴らしてやらねば私の指示も無視する輩が出かねません。」
ロサードはすぐに魔族の集団へと戻ると部隊を十個に分けて各部隊長のみを集めた。
全ての部隊長は魔族の中でも上位に位置する実力者ばかりである。
その中でもロサードとゴリアスに関しては頭一つ抜きんでているほどであった。
「一から五番隊までは左方面から、六から十番隊は右方面から挟撃。私とゴリアスは遊撃で動き回ります。万が一己で勝てる相手ではないと判断した場合は空に向けて火炎弾を三度放ちなさい。それが合図です。見つけ次第私かゴリアスが駆け付けますのでそれまで耐え凌ぐように。行動開始!行きなさい!!」
片手を虫でも払うように振ると部隊長は一斉に自分の隊へと戻って行った。
「さて、我々も動きましょうか。相手には龍族すらも滅ぼせる力を持った化け物がいるようです。貴方も気を抜かないようお気をつけて。」
「ああ、お前もな。」
それだけ言葉を交わすと二人も動き出す。
ロゼはそれを見ていただけだったが、彼女が動くのはあくまで最終手段。
魔神は残り一柱生きており、それが今回の戦いで出てこないとは限らない。
その為、力を温存しておく意味でもロゼはその場から動くわけにはいかなかった。
――――――――――
戦場を一人歩く男がいた。
ゆっくり、一歩ずつ。
しかし確実にアリステラ陣営の本陣へと近づいていく。
戦場に散らばる兵士や騎士達が気付かないはずもなかった。
「おい!誰だあれは!!」
「一人?特攻にしてはあまりに杜撰すぎないか?」
「とにかくアレを狙え!本陣には近付かせるな!」
たった一人で供も付けずただ歩いて向かって来るガイは格好の的であった。
魔導師が数人ガイに狙いをつけて魔法を放つ。
「火炎弾!!」
炎の塊はガイへと一直線に飛んで行ったが、身体に触れた瞬間弾け飛ぶようにして霧散した。
「何だと!?」
「もっと攻撃を加えろ!!」
「火炎弾!」
「穿つ電撃の一矢!」
「風の刃!」
魔導師達はそれぞれ得意の魔法をガイへと撃ち込んだ。
しかしガイへ当たる直前に、先程と同じように霧散して消えてしまう。
「と、止まらないぞ!!」
「くそ!!俺がやる!!」
一人の騎士が剣を抜くとガイへと駆け出す。
魔法では埒が明かないなら物理的に止めると勢い良く飛び出し剣を振りかざすと、ガイはボソボソと何かを呟いた。
「え――」
気づけば騎士の身体は真っ二つに裂け地面にもんどり打って倒れ込んだ。
「あの野郎!!殺っちまえ!!」
「穿つ電撃の一矢!!」
騎士と魔導師は殺気立ち、次々と攻撃を仕掛けた。
「……じゃ、まだ……。」
ガイは襲い掛かってくる騎士に目を向けると片腕を上げる。
「死刃。」
「直線の攻撃など受けるのは容易――」
騎士の言葉は最後まで紡がれる事なく、首が落ちた。
「なんなんだアイツは!!なんとしても止めろ!!絶対に本陣へと近付かせるな!!」
異様な雰囲気のガイに気付いた隊長格の一人が叫ぶ。
「破壊と再生は繰り返し、終わりの果ては神の御下へ。全てを無に帰す――」
詠唱を始めたガイを止められる者はいない。
「詠唱だぞ!!神級魔法がくる!!」
「詠唱を辞めさせろぉぉ!!」
「来るなぁぁぁ!!」
騎士は剣で、魔導師は魔法で様々な攻撃を加えようとするが、どうやってもガイの身体には傷一つ付けられなかった。
やがて詠唱は終わりへと近付く。
「最後の灯火は記憶にすら残らず。それすなわち――」
「いい所に間に合ったようだぜ、下がれ人間!!その魔法は俺が受け止めてやる。」
騎士と魔導師達の前には遊撃として動いていたゴリアスが立ち塞がった。
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