龍族が合流しても目立ちたくない①
戦況は傾いている。
クレイは戦場の俯瞰地図を見ながら、目を瞑る。
既に大きな戦力を失った。
黒騎士隊に亜人騎士隊という強力な戦力。
それに十二神を三人も亡くしている。
これ以上の戦力低下は士気の低下にも繋がる由々しき事態であった。
「おい!クレイ!!」
そんな時に本丸となる天幕に慌ただしく入ってくる者がいた。
龍王レギオン。
女性の姿をしているが、人化の魔法で姿を変えているだけで実際は巨大な龍である。
王の名を冠するだけあって威厳がある、かと思いきや案外話しやすく超大陸ではかなり世話になった人物でもあった。
「レギオン殿、如何されましたか?」
レギオンがこの天幕に入って来た事は一度もない。
作戦会議の時ですら来なかったくらいなのに、何故今になって駆け込んで来たのか。
「フッフッフ、喜ぶといい!!我が同胞が既に近くまで来ているぞ!!」
「なっ!!本当ですか!?」
レギオンから齎された情報は願ってもいないものであった。
龍族の力は人間と比べるのも烏滸がましい程に強力無比であり、そんな彼らが戦力に加わるとなれば一気に戦況はこちら側に傾く。
「後数時間もしない内に目視で確認出来るぞ。」
「有り難い……助かりました。現状かなり厳しい状況に追い込まれていましたから。」
「だろうな。見ていたぞ、亜人の奮闘を。奴らは死闘を尽くした。次はこちらが蹂躙する側だ!フハハハ!!」
龍族は数が少ないが、一体一体の戦力は一個大隊に匹敵する。
いくら最先端の兵器を持っていたとしても簡単にはいかないだろう。
クレイは再度俯瞰地図を見下ろし、最善の策を考え始めた。
レオニスやミランダも招集すると、皆一様にクレイではなく横に並び立つレギオンへと目を向ける。
「レギオン殿、一体どうされたのですか?」
レオニスが問い掛けるとレギオンはニヤッと口角を上げる。
「喜べ貴様ら!我が同胞がまもなく到着するぞ!!」
その瞬間本丸の天幕は湧いた。
誰も彼もが笑顔を浮かべる。
「今聞いた通り間もなく龍族が合流する。現在前線は殆ど崩壊に近いが、ここから巻き返す。後少しの辛抱だ!」
「アイツらの仇を取るぞ!」
「「「オオオー!!!」」」
希望に満ちた表情で各々片手を掲げた。
「では再配置が必要か。前線の兵を少し下げオルバを前に。シャーリー率いる隊とサフィー殿はそのまま。」
「兵を休ませるのなら僕も出よう。」
「私も出ましょう。いつまでも後ろにいては剣が泣いてしまいます。」
オルバ、ルーズ、剣聖ルキウスを前線に出す事に決まった。
過剰戦力にも思えるが、兵を下げるとなれば敵の軍勢を抑えきれる実力者が必要となる。
そこで名が挙がったのが三人であった。
「余も出よう。」
しかし一人だけ前に出るべきではない人物が手を挙げた。
「シルビア殿、貴方は元とはいえ第二王女です。前線に出るのは――」
「誰になんと言われようが出るぞ。余の部下である黒騎士隊はほぼ全滅。部下の無念を晴らす為、というのは理由にならんか?」
それを言われてはクレイも反論出来なかった。
連合国の戦力は殆ど壊滅。
シルビアが仇を討つと発言するのは予想が出来ていた。
とはいえ王女を死地に送るのは気が引ける。
せめてもう一人強力な戦力がいると周りを見渡すと一人いた。
「ゼノン殿、頼まれてくれるか?」
「まあこの中では妥当な人選でしょう。テスタロッサ様を除けばこの場で唯一の魔族。私は戦場から身を引いて長いですが、リハビリには丁度いい機会です。」
ゼノン・スティアードは魔族でありながら、魔界の闘争に嫌気が差し亜人国へと渡った。
そして食堂を開き、料理長として日々平穏に生きてきたのだが、此度の戦争で客でもあった亜人達は何人も死んでしまった。
彼らの弔い、という意味でもゼノンは今一度己の力を奮おうと考えていた。
「これで決まりだな。オルバには私から指示を出す。ルーズ殿とルキウス殿、ゼノン殿はすぐに前線へと赴いて欲しい。」
三人は頷き天幕から出て行った。
残った者達は次の策を練る為頭を捻る。
「ゼノン殿、改めて宜しく頼む。僕は魔族と共に戦った事がないからね、なかなか新鮮な気持ちだよ。」
ルーズは並走するゼノンへと話し掛けた。
肌の色は紫色で背中には小さめの翼が折り畳まれている。
これぞ魔族と言わんばかりの見た目に他の兵士や騎士達はギョッとした様子だったが、ルーズは構う事なくいつも通りに喋りかけていた。
「私も法国の方と肩を並べて戦うとは、思ってもいませんでした。」
「だろうね。ああ、そう言えば連合国の領地に店を持っているんだろう?」
「ええ、食堂を開いておりますよ。」
「是非食べに行きたいものだよ。かなり美味しいと評判だって亜人達が言っていたよ。」
「そうでしたか。是非いらして下さい。」
走りながら息も絶える事なく普通に会話を交わす二人であったが、彼らだからこそ出来る話である。
天幕を出てから一定速度で走りながら普通の雑談を交わすなど、通常はしない。
彼らにとってこの程度の運動は、運動の内に入らないのだ。
「その際は私も混ぜて頂きたいものです。剣聖だからとどこか遠い目で見られる事が多かったので貴方達と共に食事が出来るのであればそれはさぞ楽しいでしょう。」
「む、ルキウス殿も食べたいか!よし、これが終われば共に行こうではないか。」
剣聖と言われるようになってからルキウスは常に一目置かれた存在であった。
肩を並べて食事を摂るなどいつぶりだろうかと、記憶を辿る。
もう何年も前だろう。
剣聖の肩書きは代々受け継がれていくものだが、ルキウスが引き継いでからというものの、友人らは一歩引いた付き合いしかしてくれなくなっていった。
ルーズは誰に対しても態度を変えず、ゼノンは伯爵位だけあってとても礼儀がなっている。
「おっと、そろそろ楽しい雑談も終わろうか。敵軍が見えてきたよ。」
当たり障りのない会話を繰り広げながら走れば、前線へと到着するのもすぐである。
「ではご武運を。」
ルキウスは聖剣を抜き放つと彼らとは右方向へと走り出す。
「皆さんもどうかご無事で。」
ゼノンは左へ。
「よし!久し振りに本気でやろうじゃないか!」
ルーズは真正面に並ぶ敵の軍勢へと駆け出した。
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