軍事施設でも目立ちたくない⑨
マリスが拠点に帰ってきたタイミングでルーズも共に戻って来た。
フィンブルに関しては未だ暴れているのかまだ戻って来ていないようだ。
「お、帰って来たか。どうだった?バグラム要塞とやらは。」
「色々ありましたよ……とりあえず中で話しましょう。」
クレイさんが出迎えてくれたが、あまり公に話す内容でもないので先に家の中へと入る事にした。
不可視のローブの素晴らしさを熱弁すると、クレイさんとレオニスさんは感心したかのようにローブを触りながら話を聞いていた。
「こんなただの布が透明になるなんて信じられんな。こんな物が量産されている事に驚愕している。」
「ただですね、施設内でこの不可視のローブを見破る相手がいたんです。」
「それは興味深いな。」
僕はソフィアの事を話した。
地下に幽閉されていた事、何らかの研究結果による成果物である可能性が高い事も話した。
「人体実験か……なかなか酷い事をする。」
ソフィアの身体には無数の紋様が刻まれていた事も伝えると途端に二人は険しい表情を見せた。
「その結果生まれたのが複数の属性を操る魔導師といった所か。」
「そうなりますね。見た目は普通の女性でしたが、不可視の僕を見破れたのも何か特殊な力だと思います。」
魔眼を持っていてもおかしくはない。
実際聖女は人の魔色を見ることのできる魔眼を持っているし、人体実験の結果そういった魔眼を生み出した可能性も有り得るだろう。
「そのソフィアという者の話は分かったが、フィンブル殿はどうした?まだ戻って来ていないようだが。」
「それが……。」
僕が施設を出た時には神狼の姿となり暴れていた。
ソフィアとミネルバが立ち向かって行ったようだがその後はどうなったか分からない。
その事を話すと二人は呆れたように肩をすくめた。
「目立つなと伝えていたのに神狼の姿で暴れるとは。これでアザトース側には神獣がこちらに来ている事がバレたぞ。」
「でしょうね。ただ本来の姿に戻らなければならないほど危険が迫ったというのも考えられます。」
「もうそうなのであれば、恐ろしいな。あのフィンブル殿がそんな判断を下した相手だ。化け物に違いない。」
シンプルにフィンブルも化け物だと言われている事になるが、そこは言及しなかった。
「あ、それとこんな物も持ち帰ってきましたよ。」
そう言いながら僕は亜空間袋に放り込んだ様々な資料を机の上に出す。
中身は見ていないが司令官であるミネルバの部屋の棚に置かれていた物だ。
それなりの価値はあるだろう。
各自適当に資料を取り目を通す。
しばしの無言が続いた後、クレイさんが口を開いた。
「この資料、良く盗み出せたな。ここに書いてあるのは現時点での軍事規模だ。兵士の数、練度、標準装備などが書かれている。」
「こっちの資料にはもっと興味深いものが書いてあるな。なになに?戦艦開発の進捗状況?なんだ戦艦って。戦う船の事か?」
「研究を進めるに当たって生み出された最高峰の魔道具。幹部クラスにのみ配布された魔道具ってのもあるみたいだよ。一度だけ致命傷から身を守るネックレスに魔力を瞬時に回復させる指輪なんて物が配られているみたいだね。」
どの資料もとんでもない事が書かれていた。
これを本国に持ち帰れば大きな成果になるだろう。
「この戦艦というのは、魔導砲台を複数設置された船らしい。射程距離は数十キロにも及び威力は魔導爆弾と同等である……と書かれているな。」
なんて恐ろしい兵器を作っているのか。
海の上から陸に向けて放たれる砲弾で街を破壊し尽くすつもりなのだろうか。
そうなれば防ぎようがない。
障壁で守っていたとしても数発も撃たれたら確実に破られる。
「これは……対策を練ろうにも難しいのではないか?魔導爆弾の威力は良く知っている。あれが加速されて射出されるとなれば、その威力は想像したくないな……。」
戦艦は僕らにとって最大の脅威となりそうだ。
今の所三隻が既に配備されており、残りの一隻を現在誠意制作中らしい。
「一隻ですら対処に苦戦しそうなのにまだ作るのか……なんとか止めることが出来ればいいのだがな。」
「次の目標は制作中の戦艦の破壊、でいきますか?」
僕がそう提案すると二人は頷けなかった。
「それは辞めておこう。バグラム要塞に潜入した事は公になっているし、戦艦を作っている建物など恐らく警備が厳重すぎて近寄るのも難しいはずだ。」
「ですが四隻の戦艦が攻めてこれば為す術もなく負けてしまいますよ。」
「普通の人間ならそうだろうが、こちら側には魔族や魔神がいる事を忘れたか?人智を超えた存在が味方にいるんだ。こちらの戦力とて弱い訳では無い。」
そうだった。
ロゼの事をすっかり忘れていたよ。
確かに彼女の力があれば戦艦の一隻や二隻相手に出来そうだ。
「はぁ……それにしても敵地で最大の戦力であるレギオン殿とフィンブル殿がはぐれてしまうとはな。早く合流したい所だが。」
あの二人は人間じゃないし命の危険はないだろう。
楽観的に考えているが、余程の事がない限り死ぬ事はない。
ふとした時にフラッと帰ってくるだろうと僕は考えている。
そんな時だった。
不意に玄関口で扉が開く音がする。
全員がそちらの方向を凝視すると、現れたのは噂していた本人であった。
「帰って来たぞ。」
「フィンブル、無事だったんだな。」
「うむ、それより早めに共有しておいた方がいい話があるぞ。」
フィンブルは帰ってくるなり、近くのソファにドカッと座り話し始めた。
「我が神狼の姿に戻ったのは純粋に有象無象の相手をするのが面倒になったからだ。他意はない。そんな事よりマリス、お前以外の虹色魔導師がいたぞ。」
フィンブルの口から、とんでもない事実が出てきた。
虹色魔導師が僕以外にも存在する?
そんなはずはない。
虹色魔導師がそんなポンポン現れたら、化け物だらけになってしまう。
「確かソフィアと名乗っていたな。奴は我に魔法を放ってきたが、その時に練っていた魔力が七色であった。使った魔法も五属性魔法。確実に虹色魔導師だぞ。」
「ソフィア……それって紋様が身体中に刻まれている女性だった?」
「ああ、全身は見ていないがな。少なくとも顔には幾何学な模様があったぞ。」
僕が身に纏っていた不可視のローブを見破った女性だ。
間違いない。
やっぱり研究の末に生まれた、造られた虹色魔導師だ。
フィンブルから齎された情報は、僕らが危機感を募らせるに十分であった。
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