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虹色魔導師は目立ちたくない  作者: プリン伯爵


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軍事施設でも目立ちたくない⑥

ミネルバから任されたソフィアは拳を握り、狼の方に視線を向ける。

自身の力がどこまで通用するのか、期待に胸を膨らませ駆けだした。



兵士が扱う魔道具や武器も生半可な代物ではない。

軍で採用される程度の品質は保証されているのだが、それでも狼には傷一つ付けられていなかった。

魔物ではない何か。

魔法を自在に操る魔物も存在しているが、数十人からなる波状攻撃ですらビクともしない頑丈さを兼ね備えた魔物はいない。

それ故に兵士達も攻めあぐねていた。



最初から全力でいけばいい。

兵士が時間を稼いでいる間にソフィアは魔力を練り始めた。

周囲を纏う魔色はもちろん七色であり、それを目にした兵士はギョッとした様子でソフィアを見つめていた。



ウォォォォォン!!


二度目の遠吠えだ。

狼からしてみれば有象無象の兵士などただの雑魚でしかないのか、イライラが募っているようにも見えた。

ソフィアが魔力を練り始めると、狼は彼女を凝視した。

彼女を、というよりかは周囲に漂う七色の魔力線を見ているようだ。



虹色魔導師は存在しない。

それが超大陸メガラニアの常識である。

なのにも関わらず今現在狼に対峙している女は七色を持っていた。



「馬鹿な!!!二人目の虹色魔導師だと!?」

驚いた事に狼は言葉を口にした。

人間と同じ言語を使えるのかと兵士の間にもどよめきが走る。



いや、それよりもソフィアは狼の言葉に違和感を覚えたのだ。

確かに言った。

二人目の虹色魔導師、と。


となると狼は虹色魔導師と会った事があるという事になる。

何処か、は分からなくとも自分以外に虹色魔導師がこの世に存在しているのだろう。



興味深い。

純粋にソフィアは狼に深く関心を持った。

会話を交わす事が可能なら交わしてみたい。


自分のような作られた疑似的な虹色魔導師ではなく本物がいるというのなら、是非とも会ってみたい。

そう思い狼へと歩み寄る。



七色の魔力を纏ったまま近づいたからか狼は警戒心を露わにした。

唸り声を上げるとソフィアと向かい合うようにして体の向きを変えた。



「貴方と話がしたい。」

狼へと近付きそう声を掛けると狼は少し狼狽えながらも口を開いた。



「我に話などない。……いや、丁度よいか。貴様、虹色魔導師か?」

都合よく狼が自分へと興味を持ってくれたようで、会話をしてくれるようであった。

ここぞとばかりにソフィアは話し掛ける。


「私は虹色魔導師ソフィア。貴方の名は?」

「……敵に名乗る名などない。」

「じゃあ私以外の虹色魔導師と会った事がある?」

「お前で二人目だ。」

「その人は生きているの?」

「当たり前だ。しかし分からんな……この大陸では虹色魔導師はいないという話だったが。」

話しぶりから察するに目の前の狼は別大陸から来た者のようだった。

となるとやはりソフィアにとって敵である。



「我も聞きたい事がある。貴様は人間か?」

これに答えるには少し難しい。

実際ソフィアは分類上人間ではあるが、実験の結果生まれた特殊な体質の事もあり、人間だと言い張るには無理があった。


「……人間だと思う。」

「なぜ疑問形なのか分からんが、まあいい。ここで始末してしまえば後顧の憂いは断てるだろう。」

ソフィアを明確に敵と認識したのか、狼の周囲に複数の魔法陣が浮かび上がる。


負けじとソフィアも魔法陣を展開した。


「|神に捧げる五線譜の音色ディオスフィフスノーツ。」

ソフィアは最初から全力でいくつもりであり、五色魔法を発動した。

対して狼は目に見えて狼狽えている。

まさかいきなり大魔法を行使するなどと思ってもいなかったのだろう。


「貴様!この施設ごと葬るつもりか!!」

ソフィアにそのつもりがなくとも、これから発動される魔法の威力を考えれば、狼が驚愕しているのも当然であった。


しかしそれで止まるソフィアではない。

空から五色の光の柱が降り注ぐと辺り一面を灰燼に帰す。

防御魔法を展開しているのか光の柱が狼の身体を貫く事はなかった。


やがて光は収まり青空が広がると、狼の周囲にはいくつものクレーターが生まれていた。



「正気か貴様。今の魔法で少なくとも味方である兵士もろとも消し飛んだぞ。」

「今は緊急事態。軍人ならそれで死んだとしても覚悟は出来ていると思う。」

そんなわけがない。

逃げ惑うほどではなかったが、少なからずフィンブルを相手にして怯え腰になっている兵士もいた。

そんな者達が死ぬ覚悟が出来ているとは到底思えない。



「狂人の類か貴様。相手にしてられん!」

それだけ言い残すと狼は強い光を発し人間の姿へと戻った。


「それが貴方の本来の姿?それとも狼の方?」

呑気に質問をするソフィアを一瞥すると、フィンブルは高く跳び上がり何処かへと飛び去って行った。


逃がしてしまった。

ミネルバから任せると言われたのに。


ソフィアが落ち込んでいると後ろから肩を叩かれ、ハッとする。


「やり過ぎだ。もう少し周囲の状況を考えろ。」

「ごめんなさい……。」

ミネルバもなんと声を掛けるべきか悩んだが、ソフィアが外に出たのはこれが初。

あまり厳しく接するのは如何なものかと、少し甘さが出てしまっていた。



「少なくとも先の魔法で部下が数人死んだだろう。だが危機が去ったのも事実。それに今は騒ぎが大きく言及される事もないだろう。今のうちに部屋へ戻るぞ。」

「またあの地下に?」

「いや、俺の執務室だ。今後お前には表舞台に出てもらう。これだけ派手に動いた以上、知りませんは通用せんだろうからな。」

「もっと慎重に動くべきだった。ごめんなさい。」

「構わん。どのみちあの狼が暴れていれば更に死者は増えていただろうからな。」


今後説明を求められるだろうとミネルバは溜息を吐く。

報告するのが億劫だが、実験結果は概ね成功と言える。

説明は面倒だが結果だけを見れば、ソフィアは大きな戦力となり得る存在だ。





その一連の騒ぎを静かに見ていた者がいる。


ルーズ・スターリンク。

彼もまた不可視のローブを身に纏い潜入していた一人だった。


「ド派手にやったもんだね。ただまあとんでもない化け物がいるのが分かっただけでも良しとしようか。」

ルーズはそう独り言を零し、騒ぎに紛れてその場を後にした。

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