決闘の時も目立ちたくない①
ガイと名乗った男に目を付けられてから三日経ったが何もなかった。
それはもう普通の日々であった。
食堂へと向かっていると久しぶりに見知った者を見つけ肩を叩く。
「久しぶり、ジン、ミア。」
「どぅわぁ!!」
異様なまでの驚き方に若干不安を覚え、理由を問いただす。
「ただ肩を叩いただけだろ、何をそんなにビビる事があるんだ。」
「お前知らないのか?」
「ん?」
ジンとミアは顔を見合わせ、何とも言えない表情を見せる。
「まあいい、とりあえず窓際にいるからさっさと飯取って来いよ。そこで話してやるから。」
ジンに促され、今日のランチメニューを手に取る。
ふむふむ、今日はハンバーグ定食があるな、これにしよう。
受付で欲しいメニューを口頭で伝え料理を受け取る。
状態保存の魔法をかけているらしく作ったのは数時間前でも、魔法を解除すると出来立てほやほやの湯気が昇る。
魔法とは便利なものだとつくづく思う。
ジンとミアの座ってる席を探し座ると、ミアが小声で話しかけてきた。
「ちょっとマリス、噂になってるよ?」
「は?」
噂とは。
何か良く分からず気の抜けた返事をしてしまった。
「は?じゃねぇよ。お前が噂になってるんだ。何やら皇子に対して不遜な物言いをする男爵家の者が一級クラスにいるってな。」
「はあ。」
「はあって……。これマリスの事でしょ?」
「さあ?」
皇子に対してタメ口で話しているが不遜な物言いはしてないと思う。
「さあじゃないでしょうが、誰が聞いてもアンタでしょ?他に男爵家の人いる?同じクラスで。」
腕を組みよく考える。
一級クラスは優秀な者しか所属を許されない為他の級に比べて圧倒的に人数が少ない。
確か40人程しかいなかったはずだ。
そもそも教室は一つしかないし、二級クラスであれば三教室に分かれているらしい。
一教室に入る人数は50人が最大でそれが3つもあると考えれば、約150人だ。
一級クラスの三倍はいる計算になる。
三級クラスはもっと多いと聞くが知り合いがいない為良く分からない。
そこで同じ教室にいる生徒達の顔を思い浮かべる。
ぼやっとしか浮かばず、男爵家が他に何人いるか全然分からない。
「同じクラスで喋った事ある人、数人だった。」
「でしょうね。アンタ自分から話にいかないもんね。」
自分から行かなくても勝手に寄ってくるんです。お呼びでない方たちが。
「それで?本当の所はどうなのよ?」
「まあ不遜な言い方はしてないけど、タメ口は使ってるかな。」
そう言うとジンとミアは苦笑いを浮かべる。
「ま、まじで言ってんのかよマリス。」
「僕だって最初は敬語使ってたんだ。でもルーザーがいいって言うからさ。」
「よ、呼び捨て……。」
呼び捨てにするのもルーザー本人がいいと言ったのだ。
だから僕は悪くない。
「ここにいたか。」
またもや聞き覚えのある声がしたと思い顔を向けるとガイが居た。
これは厄介な事になりそうだと、僕の勘がそう告げている。
教室内では皇子やフェイル、ロゼッタ等の爵位の高い家柄の者達がいるから何もしてこなかっただけで、ずっと隙を伺っていたようだ。
「なんですか?」
「なかなか殿下や公爵家の方々と離れねぇからイライラしたぜ。これ以上調子に乗るなら俺が相手してやるよ。」
取り巻きを2人連れてきたところを見るに、僕をボコボコにしたいということか。
ちらっとジンとミアに視線を向けるとハラハラした様子で僕とガイのやり取りを見守っているようだ。
正直ここでやり合うのはまずい。
不特定多数の生徒がいるし、そもそも生徒同士で争うのは問題になりそうだ。
「何をそんなイライラしてるか分からないですけど、僕はルーザーに敬語は辞めてくれって言われたからタメ口で話してるだけですよ。わざわざ僕から偉そうに話しかけたりしてませんよ、貴方みたいに。」
「て、てめぇぇ………………。」
おっと、また一言多かった。
僕の悪い癖だ、直さねば。
「ふざけた態度しやがって!!!どうやって皇子に気に入られたか知らねぇがここで潰してやるよ!!」
ガイが体に魔力を練りだしたタイミングで救世主が現れた。
「辞めないか!!!」
ルーザーがエリザさんと護衛を引き連れてこちらに向かってくるではないか。
なんとか助かったようだ。
このままだと反撃しなければならないところだった。
「ル、ルーザー皇子!!で、ですがこの者は男爵家の分際で皇族の方にふざけた態度を取る劣等種です!!」
おお、ガイも引くに引けず、言葉の反撃に出た。
「ガイさん!流石に皇子相手はまずいっすよ!」
「一旦引きましょう!」
取り巻きの2人はもう顔面が真っ青だ。
少し面白くなってきたので席に座り直し、紅茶を口に含む。
「君は、確かオルランド伯爵の。そこの彼が何をしたというんだ。」
「こいつは、男爵家の身分にも関わらず皇族の方や公爵家の方々と対等に接している事が間違っているのです!!なので私が代わりに罰してやろうと!」
「ふむ、しかし彼は私の友人なのだが、それでも罰すると言うのかい?」
ルーザー、意外と男らしい部分もあるじゃないか。
「ぐっ……。」
「もう一度言おうか?マリスは私の友人だ。もしも手を出すと言うのなら私が相手になろう。」
か、かっこいいいいい。
ルーザー、僕が女なら惚れていたよ。
ルーザーがそんな発言をしたせいで、今や見世物状態だ。
もちろん悪役はガイでかわそうな子羊は僕だ。
「くっ!覚えていろマリス!必ずお前を潰してやる。」
「負け犬の遠吠えとはこういうことか。」
負け犬の遠吠えとはこういうことか。あ、やべ、声に出てた。
ちらっとガイの顔を覗くと、もうそれはそれはいつ爆発してもおかしくないくらいに青筋が何本も浮き上がっていた。
ガイが去っていくと皇子の元には数えきれない女の子が集まっていた。
対して僕は冷えた紅茶を一口啜る始末。
「ボク、怖くて泣きそうだったよ。」
「俺もめっちゃびびったぜ……伯爵家相手によくそんな呑気にいられるなお前は。」
ジンとミアにはさっきの出来事は恐怖以外の何物でもなかったらしい。
「まあ遠くにルーザーが居たの見えてたからね。多分ここで騒いだら助けてくれるだろうなーっていう打算もあった。」
「皇子を打算に使うのやめろよ……心臓に悪いわ。」
まあでも食堂でひと悶着あったが、無事に済んでよかった。
ルーザーには後で感謝しておこう。
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