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虹色魔導師は目立ちたくない  作者: プリン伯爵


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キャンプ中も目立ちたくない⑩

マリス達が寝静まった夜。

皇帝陛下の私室に忍び寄る一つの影があった。


「ふう、こんな真夜中に余の寝室に忍び込むとは……よほどの事があったらしいなアイン。」

ベットから起き上がった皇帝が部屋の隅に目をやり、そう問いかけると黒い影は人の形になった。


「こんな夜中に申し訳ございません陛下。」

「よい。十二神であるお前がこんな時間に来たのだ、他の者に聞かせられないと判断したからだろう。」

「左様でございます。」

アインと呼ばれたその男の服装は、黒いぴっちりとしたボディスーツにマントのような物を着けており、忍者を思わせるような出で立ちをしている。


「それで?何があった?確かルーザーとエリザの護衛についていたはずだろう。」

「はい。ジリアンが一人で護衛をしていると思わせて拙者は影から監視をしていましたが面白いものを見てしまいました。」

「面白いものだと?」

皇帝は面白いもの程度で報告に来るだろうかと考える。

アインは冗談を言うような性格ではなくクソが付くほどの真面目よりだ。

そんな彼が面白いものと表現した事に強く関心を持った。


「何があった。」


アインは少し間を置き口を開く。

「虹色魔導師がこの世界に現れました。」

「虹色魔導師だと!?詳しく教えよ!!!」

虹色魔導師、その言葉を聞いた皇帝は飛び起き反射的に言葉を返す。


「グランバード学園の生徒の一人が七色の魔力を持っておりました。」

「何故それが分かった。」

「彼ら学生がキャンプをしている山で神獣が現れたのです。その討伐の際、その学生は力を使いました。」

「魔法研究部の者達が夕方膨大な魔力を検知したと騒いでおったあれか。」

「まさにそれでございます。膨大な魔力を放ち遂には神狼を一撃で討伐。その後も観察しましたが疲れている様子は見られませんでした。」

「見間違いではあるまいな?」

アインは一つ頷く。


皇帝は学園所有の山で神獣が現れた事も大問題だと考えたが、もはやそんな事などどうでもよくなるほどに頭の中は虹色魔導師の事でいっぱいだった。

伝説と言われ、初代皇帝以来一度も現れなかった虹色魔導師が現れたと聞けば誰もが耳を疑うだろう。


「して、その者の名は?」

「マリス・レオンハートでございます。」

「あのレオンハート男爵の息子か……、余以外には言っておるまいな?」

「陛下以外にはまだ報告しておりません。」

「正解だ。その事は誰にも話すな。それとそのマリスとやらを監視せよ。ただし、見つかるようなヘマはするなよ?もし万が一見つかりそうになった時はすぐに身を引け。」

「御意。」

それだけ言うとアインは霧のように消え、その場には最初からいなかったかのように気配もなくなった。


「マリス・レオンハート……まさか余の代で虹色魔導師が現れるとはな。」

皇帝の呟きは暗闇の中へと溶けていった。




アインは皇帝に言われたようにマリスを観察することに。

朝起きてきたマリスを遠い場所から遠視の魔法で見つめる。

目視では確認できないほどの距離におりあのジリアンすら気づいていないほどだった。


川へと向かうマリスを見ていたが、不意に足を止めた事を不審に思いアインはさらに気配を遮断する。

這い寄る混沌(クローリングカオス)

アサシン一族だけが使える特殊魔法。

匂いや気配、姿や魔力まで察知される所を全て隠すことができるアサシンマジック。

その魔法を発動し、完全に己の気配を消して再度遠視の魔法でマリスを眺めた。


しかし辺りをキョロキョロし始め遂にはアインのいる方角に視線を向ける。

遠視の魔法越しではあるが目が合ったような気がしてすぐさまその場を離れた。

(ありえん!!拙者の魔法は確実に発動していたはず……なのに何故拙者の気配を辿れるのだ!)


もはや監視どころではなくなりマリスに恐怖を感じたアインは監視の任務を放棄し皇帝の待つ城へと逃げ帰った。





キャンプも終わりまた通常の学園生活が戻って来た。

教室ではみなキャンプでの出来事に花を咲かせているようだった。

マリスの頭の中はそれどころではなく、キャンプの最後にレイから言われた言葉がずっと反復していた。

ジリアン以外にも監視していた者がいるかもしれない。

心当たりはあった。

朝方に感じた違和感だ。

気配察知を行うとすぐに消えたがあれはもしかするとバレそうになった監視の者がすぐに身を引いたからではないか?

そんな想像がずっと頭の中で消えずキャンプに行く前より憂鬱な気分になっていた。



どんよりした気持ちのまま自分の机で、次の授業の教科書を出そうと鞄を漁っているといきなり影が差した。

何だろうと顔を上げると見た事のある男が目の前に立っている。

誰だか思い出せず、ずっと悩んでいるとその男から先に言葉を発した。


「マリス、お前偉く調子に乗っているな。」

「すみません誰か分からないんですが……。」

「ああ!?俺はガイだ!ガイ・オルランドだ!伯爵家の名前くらい覚えていろや!」

この人もよく怒るなぁ。

確か前は絡んできた時、リスティア様が助けてくれた気がする。


「あ、どうも。」

「どうもじゃねぇよ。お前皇子殿下にどうやってすり寄ったんだ。」

「いや、成り行きですかね。」

「そのふざけた態度を辞めろ!」

どうも僕の言動がいちいち気に障るのか、苛立ちを露わにする。


「そのふざけた態度も改めさせる必要があるな。」

「何のことですか?」

意味が分からず聞き返す。


「覚えていろよ。」

それだけ言うとさっさと自分の席に戻って行った。

まあなんか虫の居所が悪かったのだろうと、また教科書を探すため鞄を漁る。

しかしそれを見ていたのかロゼッタが声を掛けてきた。


「アンタ目を付けられてるわね。」

「ちょっと今忙しいから。」

「聞けよ!!!」

すぐぷりぷりするロゼッタには困ったものだ。

教科書くらい探させてくれよ。


「アンタ目を付けられてるって言ってんのよ。」

「どういう意味?」

ロゼッタは半ば呆れたと言わんばかりにため息を付く。


「男爵の身分でアタシ達や皇子殿下と対等に喋っているでしょ?それを他の貴族が見れば面白くないって事よ。」

「えー僕は望んでないのになぁ。」

「その不敬な物言いは辞めろって言ってんでしょうが!アンタいつか殺されるわよ。」

小声で耳打ちしてきたせいで少し耳がこそばゆい。


しかし、なんだかめんどくさそうな学園生活になりそうだ。

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