魔の森でも目立ちたくない⑤
クレイ一行は魔の森深部の最奥と呼ばれる領域を前に足止めを食らっていた。
目の前には遺跡がありその中が最奥だそうだ。
しかしその遺跡を守るかのようにゴーレムが立ち塞がっている。
「大きいな……7、いや8メートルはあるか?」
「大きさもそうだけど反魔法の障壁が張られているね。魔導師にしてみれば厄介な相手だ。」
8メートルにもなる巨大なゴーレムは魔法を反射する術式が施されている。
クレイやルーズ、ヘレンにとっても相性の悪い相手だ。
「ヘレン嬢、どうする?恐らく僕らの魔法はあまり効き目はないと思うよ。」
「いいえ、問題ないわ。確かにあれは反魔法の術式が施されている。でも火力で押し込めば貫通する事が出来るの。」
「なるほど。一つ質問いいかい?……何故そんな事を君は知っているんだい?」
「……後で話すわ。さあ、来るわよ。」
ヘレンに聞きたい事があったのにはぐらかされてしまった。
しかし目の前のゴーレムが動き出したのも事実。
今は倒す事を先決とするしかないとクレイとルーズは構えた。
ゴーレムの目が光ると鈍重な腕を振り上げ叩き下ろした。
衝撃波で石や土が巻き上がりクレイらに襲い掛かるが障壁のお陰で無傷だった。
「ここで切り札は使いたくないわ!だから貴方達の最大火力で倒しなさい!」
「無茶を言ってくれる!ならばルーズ、魔力を練り終えるまで時間を稼いでくれ!」
「それこそ無茶だね。まあやらないとは言わないが。」
クレイは後方へと跳ぶと上級魔法を放つ為魔力を練り始めた。
その間何もせず待ってくれるほどゴーレムは馬鹿ではない。
当たれば致命傷であろう腕の振り回しをルーズは踊るように回避していく。
避けながらも剣を当てるが、反魔法だけでなく物理的な防御力も高い為手応えは感じられなかった。
「クレイ!まだなの!?」
ヘレンも二丁の魔導銃を巧みに操り牽制しているが、ダメージが入っているとは到底思えなかった。
ゴーレムは少しずつクレイへと迫る。
剣や魔導銃では一切動きを止めることの出来ないゴーレムは、徐々にクレイとの距離を詰めていく。
「下がれ!炎帝の猛威!」
クレイが叫ぶと同時に二人が大きく跳び後ろへと退く。
クレイが両手を突き出すと赤色の魔法陣は浮き上がり、回転を始めた。
威力だけを求めるのであれば火属性魔法が筆頭に上がる。
クレイが唱えた魔法名は上級魔法の中でも難度の高いものであった。
原理は単純でただ超火力の火炎弾を放つだけ。
それだけだが、威力だけでみれば同格の魔法より頭一つ分抜けている。
空気を焦がしながらゴーレムへと一直線に放たれた火炎弾は胴体に直撃した。
反魔法の術式が作動し火炎弾を反射する、事が出来ずに反魔法の魔法陣は硝子の砕けた音を響かせながら消え去った。
反魔法は許容量を超えた魔法をぶつけられると反射しきれず瓦解する。
クレイの魔力を乗せた上級魔法は既に最上級の領域に片足を突っ込んだようなものだ。
ゴーレムの反魔法の許容量は恐らく上級魔法までだろうとクレイは考えた。
その為魔力を込める際、上級魔法に注ぎ込む以上の魔力を練り上げ発動に至った。
結果としてゴーレムは完全に沈黙したのだから、クレイの考えは正しかったと言える。
「凄い威力ね……やっぱり私の目に狂いはなかったわ。」
ヘレンもゴーレムを倒した魔法を目にしてクレイの評価を一段階上げた。
最悪の場合は、自身の持つ切り札をここで使う事になると踏んでいたがその必要はなかったようだ。
「威力は確かに高いが森の中で火属性魔法を放つのはどうかと思うけどね。」
「悪いがそこまで考えは回っていなかった。というよりそんな事を考えて勝てる相手ではなかったのでな。」
クレイは本気で魔法を使ったわけではないが、それなりの魔力を注ぎ込んでいた。
もう少し威力が低ければゴーレムの反魔法は貫けなかっただろう。
「良くやったわね。魔力に余裕は?問題ないなら先を急ぎましょう。このゴーレムは数時間経つと復活するのよ。」
「いや、待ってくれヘレン嬢。何故君はそこまで詳しいのか教えてもらえないかい?流石に何も知らないまま先へ進むのは気が引けるのでね。」
先を急ごうとするヘレンの足を止めたのは、すかさず声を上げたルーズだった。
ゴーレムとの戦闘前に気になっていた事をここで聞いておかねばずっと秘密にされてしまう可能性もある。
それならばとルーズは一人で到達が難しいであろう遺跡の中へと入る前に聞いておけばヘレンは言わざるを得ないと判断した。
ここで二人が依頼を破棄してしまえば今までの時間が無駄になる。
それだけは避けたいヘレンは仕方なく話す事にした。
「いいわ、そうね……あれは数カ月前だったかしら。私は友人とこの魔の森へと入ったの。その友人ももちろん私と同じくらい強かったわ。今みたいに苦戦しながらもこの遺跡前へと辿り着いた。その時にゴーレムを倒していたから知っていたってところね。」
「ではその友人ともう一度ここに来れば良かったのでは?」
「残念な事にこの遺跡の中でその子は亡くなったの。遺跡の守護者ってやつに敗北してね。私は友人が作ってくれた隙を見て逃げ出した……私を逃がしてくれたあの子はその後いくら待っても遺跡から出てくる事はなかった。」
「ではもしかしたら未だこの遺跡の中に取り残されているかもしれないのかい?」
「いいえ、それはないわね。最初に話したけどこれは数か月前の話よ。もし運よく生き残っていたとしても既に死んでいるでしょうね。」
ヘレンの話を要約すれば、友人の敵討ちといったところだろう。
なぜ今のように腕に自信がある者達をパーティに入れて向かわなかったのかは分からないが、たった二人でも遺跡の最奥へと辿り着ける自信があったのか。
それとも慢心か。
いずれにせよ結果は一人の死者を出して敗北。
逃げ帰ったヘレンはリベンジを果たして今に至るということだ。
「敵討ちか。それで前回よりも戦力が必要だったという事だね。だから腕がありそうな僕達に声を掛けた。」
「そうよ。私のわがままに付き合ってくれて感謝しているわ。別に仇を討ったからといって何かが変わると言う訳でもないのだけれどね。」
「その話を聞いて安心したよ。僕らは少し君に疑念を抱いていたからね。なぜ公爵令嬢がこんな危険を晒しているのか、と。」
「公爵令嬢ではあるけれどその前に私は立派な冒険者よ?」
ルーズとクレイはてっきり貴族の道楽かと思っていたが、そうではなかったらしい。
確かに良く考えてみればヘレンの動きは切れがあり持っている武器もかなり使い込まれているように見えた。
「ああ、言ってなかったわね。私は公爵令嬢でもあるけれど、特級冒険者ヘレン・ロッテンマイヤーよ。巷では移動要塞なんて呼ばれているわね。ホント女の子に要塞だなんて誰が付けたのやら……もっと考えて欲しいわ。」
「「特級??」」
クレイとルーズはヘレンの言葉を聞き目を見開き固まった。
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