魔の森でも目立ちたくない③
「そっちに一体向かったぞ!!」
「こちらは任せよ!お前は前方の敵だけに集中しておくがいい!!」
魔の森深部へと入った僕達に待っていたのは休む暇なく襲い掛かって来る魔物の群れであった。
前衛をロンさんが、そして取りこぼした敵を排除するのが中衛のフィンブル。
僕は一番後ろで二人に支援魔法を掛け続けている。
深部に足を踏み入れて早々僕らはアビスウルフと呼ばれる魔物の群れに襲われた。
図体はデカく、それでいて素早い。
時には魔法まで使ってくるのだからタチが悪い魔物と言える。
ロンさんはせわしなく動き回り魔道具を振り回していた。
魔道具と言っていいのか分からない形ではあるが、一応ロンさん曰く魔道具の枠組みだそうだ。
ロンさんが扱う魔導武器は魔導銃のように元から小さくはなく、最初から既に完成された形の武器である。
確か名前はテンタクルウィップとか言っていたな。
ウィップという名の通り、鞭である。
魔力を纏った鞭である。
ほんのりと鞭が赤く光っており、魔力が流れている事が見て取れた。
普通の鞭と違うのは威力だ。
魔力を流した鞭の切れ味は剣と同じである。
ただただ扱うのが難しいリーチの長い剣みたいなものだ。
それを手足のように振り回しながら魔物と対峙している様は、まさに一級冒険者というに相応しいだろう。
数メートルにもなる長い鞭を振り回しているのを見ているとこっちに当たらないかなと不安になるが、中衛にいるフィンブルにかすりもしない。
かなり訓練を積んだのだと動きが証明していた。
最後の一体がロンさんの鞭により身体を真っ二つにされると遂に休める瞬間が訪れた。
ロンさんは肩で息をしているしフィンブルは腕を組んだまま辺りを見回している。
僕も多少は疲れたフリくらいしておこうとわざとらしく地面に座り込んだ。
「なかなかハードでしたね……。」
「ああ、ハードすぎた……な。俺が前に訪れた時はここまでの数の魔物が襲ってくる事などなかったんだがな……。」
「何か心当たりとかありませんか?」
「どうも先に入ったであろうグループが暴れているらしい。騒ぎが大きくなればなるほど魔物は活発化するからな。俺達はその後に続いている形だ。恐らく活発化した魔物は全部こっちに流れてきているように思える。」
何と迷惑な話なのだ。
先を行くグループとやらがどんな奴か知らないがもう少し静かに進んでもらえないだろうか。
その後ろに僕らがいる事を気づいていないのかな。
「気付いているかもしれないが、もしかするとわざとかもしれんな。例えば冒険者と傭兵は仲が悪いというのがある。冒険者の仕事を傭兵が奪い、そのまた逆も然り。前を行くのが傭兵でかつこちらが冒険者だと分かっていればワザと魔物を惹きつけている可能性はなくはないだろう。」
「傍迷惑な話ですね。まあ分からない事もないですが、それで人の生死が変わって来るのならやり過ぎですよ。」
「こればかりは仕方のない事だ。そもそも傭兵などという職業を国が認めている以上我々冒険者が声を上げた所でどうにもならん。」
国が認めているのなら仕方がないか。
でもそれが原因で、最悪のタイミングで仲間割れなどになれば笑い話では済まなくなると思うけど。
ま、僕らからすれば敵国の話だからどうでもいいけども。
仲間割れしてくれるに越したことはないからね。
「む……この匂いは……。」
「どうしたフィンブ、師匠?」
「いや、気のせいか?我もこの森ではあまり鼻が利かんからな。気のせいという事にしておく。」
フィンブルが何か意味深な事を呟いていたが自分の中で納得したのか教えてくれる事はなかった。
危ない危ない、ロンさんが近くに居るのについついフィンブルと呼んでしまいそうになった。
一応ロンさんには師弟の関係で伝わっているし、ボロを出すわけにもいかない。
僕がガインとして活動している時に、みんなが言い間違えそうになる気持ちがなんだか分かった気がする。
「ふむ、みんなこれを見てくれ。」
ロンさんが近くの木陰にしゃがみ込みある場所を指差した。
そこには砕けた魔石の欠片が落ちていた。
前を行くグループは戦闘後、激しい攻撃により砕けてしまった魔石をここに捨てて行ったようだ。
「砕けた魔石は一日二日で消えてしまう。こうやって残っているという事は前のグループとは一日程度の距離が離れているようだな。」
「なるほど……だから戦闘後の騒ぎで活発化した魔物が僕らに襲い掛かってきているんですね。」
「多分な。ここに生息する魔物の魔石を完全に砕いているという事はかなり高火力の魔法を使ったに違いない。だがこの森は鬱蒼としているからな……音があまり響かないんだ。だから俺達の所まで戦闘音が聞こえてこなかったのだろう。」
ロンさん意外と論理的に考える人なんだ。
鞭を振り回していたからてっきり脳筋かと思っていたよ。
そのテンタクルウィップも今ではくるくるっと巻かれてロンさんの背中に装備されている。
鞭を使って戦う人は今までいなかったからとても新鮮だ。
魔導師を相手にしたらどうな風に戦うのだろうか。
「ロンさん、ちょっと疑問に思ったんですが魔導師とか魔法をメインで扱う人を相手にした時、どうやって戦うんですか?」
「ん?そうだな……本当なら冒険者である以上手の内を晒す事は危険だと言われているんだが君達には協力してもらっている事もあるし特別教えてあげよう。いいか、よく見ておけよ?」
そう言うとロンさんは背中のテンタクルウィップを手に取り僕らの前へと数歩進んだ。
「絶対に俺の前には出て来るなよ?」
ロンさんは背中でそう語り少し腰を落とす。
特別に見せてくれると言うくらいだから何か必殺技的なやつだろうか。
そう思うと少しワクワクしてきた。
「秘技!反魔法大車輪!!!」
掛け声と共にロンさんは手首を高速で動かすと鞭が空中で弧を描く様にして静止する。
そう言う事か、槍の使い手で例えると槍を目の前で回転させるのと一緒だ。
それを手首の動きだけで鞭を弧を描く様にして回し丸い大きな盾を生み出していた。
「おおー!!」
なかなかの大技に僕は声を漏らした。
「ふむ、なかなか修練を積んでいるようだな。」
フィンブルも珍しく褒めている。
簡単そうに見えるが簡単ではない。
そもそも扱いが難しい鞭を最小の動きで鞭の利点を最大限に活かすのは至難の業だろう。
僕がやれば身体に当たりズタズタ二切り刻まれるビジョンが見えた。
それだけの修練を積んで会得したというのに、ひけらかさず秘密にしているというのもカッコいい。
「ま、こんなところだな。他の冒険者には内緒にしておいてくれよ?」
振り返って二カッと笑うロンさんであった。
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