遠征軍でも目立ちたくない⑩
「疾走れ、銀色の一閃。」
聞き覚えのある声と共に銀色の光線が魔物の群れを薙ぎ払った。
久しぶりというのもあってつい僕も笑顔を溢す。
「フィンブル!!!来てくれたのか!」
フィンブルの姿を目視したが、その隣にはまた見覚えのある女性がいる。
ロゼだ、なぜ一緒に?という疑問が沸いたがとりあえずスルーしておく事にした。
「あ、また変な仮面被ってるー。なんだっけガインって言わないとだめなんだっけ?」
「そうだ、くれぐれも本名は言わないように。」
危ない所だ。
ロゼの事だから先に忠告しておかないとポロっと言いかねない。
「いや、そんな事よりも救援に駆け付けてくれたのか?」
「ああ、まあ救援と言えばそうだな。これをよく見ろ。」
そう言って差し出した手に握られていたのは紫色の水晶玉。
僕はそれを見た事があった。
「魔神の核……。」
「そうだ、ディオスが不死身でどう倒せばいいかと悩んでいたんじゃないか?何をやっても致命傷にはならない、魔物は無限に召喚する、だろ?」
フィンブルはこれでもかという程に胸を張りどや顔を晒す。
なかなかに腹が立つが現状を打開できる唯一の方法を持ってきてくれたのであれば全て許せる。
そんな僕らを見て震えていたのはディオスだった。
隠していたはずの核がなぜその手にあるのかと言わんばかりの表情だ。
「なぜ……貴方はまさか神獣?」
「そういう事だ。アリステラ様が見ていないとでも思ったか?」
「クッあの女神か……まさか核を見つけ出しそれを持ち出すとは。」
アリステラ様って確か創造神じゃなかったっけ?
なんか壮大な話になってきてるけど、フィンブルはなにか関係してるんだろうか。
気にはなるが今は口を挟める雰囲気ではないので、黙っておく。
「奴の手先であるお前が動けば当然アリステラ様も動く。」
「ならばなぜテスタロッサがそちら側にいるのですか?何故平然とした顔で神の尖兵と共にいるのです。」
「それは我も知らん。」
なんか良くわからないけど、テスタロッサは謎の立ち位置みたいだな。
相変わらず読めない魔神だ。
「ボクはもうアイツに命令されるのはウンザリなんだよねー。」
「なっ!あの御方をアイツ呼ばわり……落ちぶれたものですねテスタロッサ。」
「いやいや、正直さこっちの陣営には勝てないと思うよ?今代の虹色魔導師は化け物だし、それ以外にも優秀な戦力が揃ってる。どうやってもアレが勝てるとは思えないけどなぁ。」
ちょっと全然話が入ってこないよ。
なに、何の話?
あの御方とか陣営とか。
それに途中で虹色魔導師とか聞こえてきたから気になるし。
「貴方は知らないだけですよ。あの御方の手先は私だけではありませんからね。無知というのは本当に厄介です……。」
後でロゼから詳しく話を聞くとして、今はディオスの処遇だが、核はフィンブルが持っているしここからどう巻き返してもディオスが勝利する未来はない。
「核を返して頂けるのなら教えてあげてもよろしいですよ。あの御方の戦力を。」
「いや、いらん。お前はここで死ぬ。」
「よろしいのですか?私を殺せば確実にあの御方へと敵対したと同意ですが。」
「構わん。我々アリステラ様陣営に敗北はない。」
そう言うとフィンブルは核を握る手に力を込めた。
ミシリと嫌な音が響くとディオスの表情も焦りが見えた。
「ま、待って頂きたい。本気であの御方と事を構えるつもりですか?」
「さっきから言っているだろう。我はアリステラ様の遣い。これは神と神の代理戦争だ。ここで手を引いてやる気は毛ほどもない。」
「貴方達はあの御方の恐ろしさを知らないからさんな簡単に言えるのですよ!!この大陸が滅びてもいいのですか!?」
「いや、滅びるのは奴の手先共だ。死ね、器の魔神ディオス。」
「神の尖兵ごときがァァァ!!!」
いよいよ本性を露わにしたディオスが召喚した魔物をフィンブルへと差し向ける。
しかしフィンブルが核を破壊する方が早かった。
バキンッ
フィンブルが手を握り締めると同時に核は砕け散った。
その瞬間ディオスは胸を抑えて蹲る。
怨嗟の声を響かせながら身体は徐々に塵となり消えていく。
「後悔するがいい……あの御方に弓を引いた貴様らの判断を……超大陸から押し寄せる化け物共に滅ぼされるのをあの世で見ていてやろう。」
フィンブルを睨みつけながら、ディオスの身体は完全に塵となり消えた。
ディオスが消えると召喚していた魔物も全て消え去った。
戦場には呆然と立ち尽くす騎士や兵士だけが残った。
僕やクレイさんのような主力となる者達はディオスの近くにいた為、先程のフィンブルとディオスのやり取りも聞こえている。
ただ誰も理解は出来ていない。
フィンブルに関しては神獣である事は周知の事実であり、自分達が信仰するアリステラ様の使徒であるのはなんとなく理解している。
しかしあの御方と言われる者の存在や超大陸なんて言葉を聞いたとて、僕らには何のことかさっぱりであった。
「ふん、これであと一柱だけだな魔神も。」
フィンブルは鼻で笑いながら、砕けた核をその場に放り捨てた。
「ありがとうフィンブル。来てくれていなかったら僕らは全滅していた。」
疑問はあれど、感謝は忘れない。
実際フィンブルが魔神の核を持ってきていなければ、死ぬまで戦い続けなければならない所だった。
「ボクも手伝ったんだからねー!!」
「ああ、ロゼもありがとう。っていいのか?さっきのディオスの会話を聞いてると元々はロゼもそっち側に属してたみたいだけど。」
「いいのいいの!とりあえず詳しい話は街に戻ってからにしようよ。急いで来たから疲れたんだよね。」
相変わらずマイペースな所は変わっていないが、ロゼも色々と手伝ってくれたらしい。
会話に置いてけぼりになっているクレイさん達にも、後で話を聞かせて欲しいと言われ街まで撤収する運びとなった。
ただ帝国軍から来た援軍に関しては、全員が街に入る訳にいかない為、街の外に天幕を張り一泊過ごすことになった。
僕らは一旦連合国の城まで案内され、大会議室のような広い部屋へと通された。
そこには既にシルビアさんの姉であるミカ王女殿下もいた。
この場に集まったのは、先の戦場で共に戦った面子ばかりだ。
クレイさん、ハルシオンさん、ルキウスさん、ルーズさん、シルビアさん、レオン、そしてフィンブルとロゼだ。
ミカ王女殿下と宰相、そしてグラン隊長もいる。
まあ主要なメンバーと言えば分かりやすい。
「じゃあみんないるね?先に言っておくけどここで話す内容は突飛な内容だと思うから、信じなくてもいいけど後で後悔しないようにね。……じゃあ何処から話そうかな。」
そうしてロゼはゆっくり全てを話し始めた。
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