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虹色魔導師は目立ちたくない  作者: プリン伯爵


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帝国に帰っても目立ちたくない⑩

帝国への援軍要請から4日が経った。

依然魔神の軍勢は勢いを弱める気配がなかった。

エマの部隊が援軍に駆け付けたとはいえ彼女らも生き物である以上疲弊する。


もはやどこの部隊もいつ崩れてしまってもおかしくはない状況であった。


「こちらの被害状況はどうだ?」

「はい、三万の兵力は既になくまともに戦える兵だけでいえば後半分程かと……。」

報告に来た騎士も顔を顰めながら答えるが、シルビアもそれについては何も言う事はなかった。

帝国の遠征軍が到着するまで後1日ある。

それを耐えられるかと問われればかなり厳しい状況が続いている。

連合国の街を背に戦っている為物資に困る事はないが、兵力の替えはない。

シルビア達が持ちこたえなければ住民の死を意味するのだった。



レオンの軍はというとシルビア率いる軍に比べればまだ被害は少ない。

しかし少ないとはいえ数千の命が散っているせいで、軍全体の士気は下がってきている。


「残り一万の戦力で耐えきれるのか……?これだけ戦っても奴らは減る気配がないぞ。一体どこから連れてきているのだ。こうも終わりが見えんと流石に厳しいな……。」

1日耐えきれるかと言われれば正直な所、難しいと答えるだろう。

一万の兵力が残っていても万全の状態ではない兵士ばかりだ。

最初期と比べればとてもではないが全力で戦うのは難しく疲労は蓄積しており満身創痍といった状態であった。




レオンとシルビアが苦戦するのは当然である。

相手は魔神の中でも一際厄介な能力を持つディオスと呼ばれる魔神。

器の魔神とも言われるディオスは、その特異な力を存分に発揮できる広い戦場はもはや独壇場であった。



「レオン様!!前衛を務めていた第三部隊が壊滅、これにより魔物の大群が押し寄せて来ます!!」

「来たか……すぐに増援を送れ!押し込まれれば全滅するぞ。」


遂にその時は訪れた。

ギリギリで拮抗している前衛部隊の一つが、度重なる魔物の攻撃に耐えきれず全滅した。

一つの部隊が崩れれば前衛は瞬く間に崩壊していく。


「レオン様!第七と第八部隊もこれ以上は耐えきれないとの事です!!」

「後方支援部隊の一つが矢が尽きました!」

「前線の第十二部隊の隊長が戦死!増援を送って欲しいと連絡が!!」

レオンの元にはひっきりなしに悲報が流れ込んで来る。

こうなってくるともう前線は崩壊したに等しい。


「全部隊に告げよ!最終防衛圏まで下がると!!」

レオンは最後の手段に出た。

街の門があるギリギリまで下がるのは、苦渋の決断であった。

門まで下がれば街の警備や防衛隊の者が待機している。

それに街の門には固定砲台やバリスタがあり、大群を迎え撃つには最高の環境だった。

しかしレオンがそこを最終防衛圏と呼んでいたのは理由がある。


答えは単純、それ以上下がる事が出来ないからである。

退くことが出来ない状況というのは、兵士にとって重圧になり負担を強いることになるからだ。


だが今の前線が崩れてしまった状況では、その手段を取らざるを得なかった。

支援用の矢も無くなり前線は崩壊。

これ以上その場で戦い続ければ近い内に全滅するだろう事は容易に想像できる。



「シルビア殿に伝えよ、我々は最終防衛圏までさがると。」

伝令の者は敬礼をすると即座にシルビアの下へと走り始めた。

人間のように馬を使わずにすむ点に置いては、亜人の利点でもあった。




「何だと?レオン殿が……しかし他人事ではないな。我々も近い内に前線が崩れるだろう。数刻後には我々の軍も退くと伝えておいてくれ。」

シルビアの下に駆け込んだ亜人はまた新たな伝言を受け自軍の下へと駆けた。

近くにいた騎士もその話を聞き、顔を顰める。

亜人の屈強な肉体を持ってしても魔物の軍勢を押し留める事は出来なかったという絶望感。

それは彼ら人間にとって信じられない内容であった。


「レオン殿が下がったのなら我々も同様下がった方が良いだろう。すぐに全部隊に通達、殿(しんがり)は一番戦力を保有する部隊に任せ後退せよ。」

近くにいた騎士はその指示を受けて礼をすると、天幕から出て行った。



戦場には砲の音が鳴り響き怒声が飛び交っている。

シルビア率いる軍も既に街を背にして戦っていた。

レオンとお互い退く事の出来ない状況に顔を歪ませるが、未だ帝国からの援軍は到着していなかった。



日が真上に昇った頃、レオンの軍が悲報をもたらした。


「レオン様……砲弾及び矢が尽きました。」

「無くなったか……。敵の勢力はどれほどまで削れた?」

「最初と変わらず……。レオン様進言致します。弓手も共に突撃を敢行するしかないかと……。」

現状を伝えに来た亜人の顔色は悪い。

絶望的な状況の中、自身が仕える皇子にこのような内容を伝えなければならない事が悔しかった。

どれだけ魔物を殺しても無限に何処からともなく湧いてきては、もうどうする事も出来なかった。


「駄目だ、突撃すれば全滅する。」

「しかしレオン様、もはやそれしか手はないかと。」

「……シルビア殿からは何か伝言があったか?」

「はい……我々元王国軍は突貫すると先程伝令が飛ばされてきました。」


突貫とは文字通り突撃する事を意味する。

シルビアは最後の望みに賭けるつもりだった。

無限に湧いて出て来る魔物も、トップを潰せば止まるのは分かっている。

それを成し遂げるつもりであると気づいたレオンも腕を組み目瞑った。


「そうか。シルビア殿の軍と足並みを合わせよ。我らも突撃するぞ。全軍にお前達の命は無駄にしないと伝えておけ。」

「はっ!レオン様と共に戦場に立てた事……誇りに思います。」

綺麗な礼を見せるとその亜人は天幕から出て行った。

とても堂々としており、覚悟は決まっているのだろう。


そんな彼らにここで死ねと伝えなければならない現状は、ハルマスク王国と合併したばかりでまだ国が落ち着いていなかったというのもある。

せめて後数か月魔神が攻めて来るのが遅ければと考えないはずがなかった。



拳を握りしめいざ出陣と天幕を出たその時、レオンの目に有り得ない光景が飛び込んで来た。



それは空に浮かぶ一人の少年の姿だった。

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