法国でも目立ちたくない⑩
法国領を出ようとすると法王様から話があると全員でお伺いする事となった。
僕からは何も話すことはないのだが、何か大事な話でもあるのだろう。
ステンドグラスから日が射し込む教会のような部屋へ入ると一番奥の机に向かう法王様がいた。
帝城でいうところの謁見の間のような扱いの部屋らしい。
「来てくれましたか皆様。この度は魔神討伐に協力して頂き感謝致します。」
法王様は僕らが入ってきたことを確認するとすぐに立ち上がり頭を下げた。
一国の王が簡単に頭を下げるべきではないと思うがこの場には僕らと法王様、そして聖女しかおらず他者の目が少ないこともあり気が緩んだのだろう。
「いえ、我々は当然の事をしたまでです猊下。」
キリッとした表情でそう答えたのはシルビアさんだ。
あくまで僕らは偶然魔神が襲撃してきたタイミングで滞在していただけというのを貫くつもりだ。
僕らが原因です、などとは口が裂けても言えない。
「流石はシルビア殿下。貴方様のお噂は法国にも届いておりますよ。堂々たる振る舞いが王族らしいと。正直申しますと貴方がたがおられなければこの国は滅ぼされていた事でしょう。」
「五聖剣の方々も活躍されていたのをこの目で見ています。決して我々だけの力だけではありません。」
「そうだとしても私は貴方がたに感謝を。」
「余もあまり活躍したとは言いづらく。こちらのマリスがいなければ勝ち目は薄かったでしょう。」
いきなり振らないで欲しい。
心の準備が出来ていないのだ。
こっちは法王様より気になることがあって集中出来ていない。
僕の目線の先は聖女がいる。
もちろん聖女も僕を見ている。
いや、正確には僕の頭上をだ。
どう考えてもテスタロッサの事が見えている。
僕はそれが気が気でない。
「マリス殿?」
僕があまりにもボーッとしていたからか法王様が訝しげに名前を呼ぶ。
ハッとしてすぐに目線を法王様に移した。
「失礼しました。先の戦闘で少々疲れが残っているみたいでして……。」
「なんと!それは大変申し訳ございません!すぐに神聖魔法を……!」
おっと、それはまずいぞ。
今僕に神聖魔法を掛ければ頭上で眠っている透明のテスタロッサが大ダメージを負うことになる。
あれ?そう言えば癒やしの間に入った時は何もなかったな。
あれも神聖魔法だと思うが、テスタロッサに問題はなかった。
「いえ!大丈夫です!今治りました!」
「??そ、そうですか。それならば良かったです……本当によろしいのですか?私自ら治癒魔法を行使しようと思ったのですが。」
それは余計に不味い。
その辺にいる神聖騎士団が魔法を使うのとわけが違う。
ビストリオ法王様の魔法なら確実にテスタロッサはヤバいことになる。
「そ、そう言えば何か僕達に話があると聞いたのですが。」
僕は咄嗟に話を逸らした。
このまま続けていても怪しまれるしね。
「そうでした、その事なのですが実は今国民は騒いでいるのを知っていますか?」
そうなのだ、魔神を撃退したせいか国民が歓喜に包まれているせいで街はちょっとしたお祭り騒ぎになっている。
「はい、知っていますがそれがどうかされたのですか?」
「私も今回の魔神撃退に関しては、国を挙げて祝おうという気持ちなのです。そこで、今回の立役者であるマリス殿の事を国民にも知ってほしいと考えたのですが……。」
「それは……えっと……。」
ついどもってしまった。
それはどう考えても宜しくない。
僕の名前が法王国内で広がるともうこの国には来れなくなるぞ。
「マリス殿が目立ちたくないと仰っていたのは理解しています。ですが立役者もいないのに魔神撃退を祝うなど到底難しく……。」
難しそうな表情で俯く法王様には申し訳無いがそれだけは勘弁してもらいたい。
せめて名前は伏せて、いや待てよ?
偽名で良いのでは?
「あの、それでは提案なのですが僕がたまに使う偽名がありまして、そちらであれば公表して頂いて構いません。」
「偽名……ですか?」
「ガイン、と。狐面を被って魔法を行使する際はこちらの名前を名乗っています。ですのでそちらであれば……。」
「なるほど、ガイン殿……ですか。ではその案を頂いてもよろしいですか?」
ふぅ、何とかなったな。
危ない所だった。
マリス・レオンハートが魔神撃退!なんて記事が出回ればもう僕は外を出歩けないぞ。
それこそ魔界にでも逃げなくちゃならなくなる。
「狐面を着けた虹色魔導師のガイン、か。ククク、いつかは足がつきそうであるがな。」
フィンブルが横でクツクツと笑う。
悪くないだろこの案。
正体がバレそうになれば他国に逃げるから問題ないのだ。
「ありがとうございます。ではそのように国民には説明致します。出来れば民の前に出て頂きたかったのですが流石にそれは難しいですか?」
「……まあ……顔を隠していれば……。」
法王様の顔がなかなかズルい。
申し訳無さそうに俯きながら悲しそうに呟くもんだから、つい妥協してしまうのだ。
それはそうとずっと黙って見ている聖女の目が怖い。
一時も離さず僕の頭上だけを見つめている。
「ではすぐに支度をしますので後1日だけ滞在して頂けますでしょうか?」
レオンやシルビアさんに顔を向けると小さく頷いている。
ナターシャさんもそれで構わないと頷いた。
ということで法国滞在延長戦が始まった。
話も一段落つきいざ部屋を出ようとすると待ったがかかった。
声を上げたのは聖女ティアだった。
「……少々お待ち下さい。少し気になる事が……あります。」
僕の心臓が跳ねた。
どう考えても頭の上で呑気に寝ている少女の事だろう。
動悸が激しくなる心臓を抑えながら小さく返答する。
「な、なんで……しょうか。」
「……マリス様の頭の上にいる少女は一体誰……でしょうか?」
いきなり直球をぶつけてきた。
これは困ったことになったぞ。
こんな所で実は魔神でして、なんて言おうものならどう考えても今回の魔神騒動は僕が原因と思われてしまう。
チラッと横を見ればニヤニヤするフィンブルの顔が目に入った。
これはなかなかにムカつく。
そこで今度は反対側に顔を向けるとシルビアさんとレオンと目が合ったが逸らされた。
ナターシャさんにも目線を向けたが、スッと横に顔を逸らした。
なるほど、ここはあくまで自分でなんとかしろと言うことか。
僕は考えに考え抜いて答えた。
「頭の上にいるのは、ローザという妖精です。」
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