法国でも目立ちたくない④
「あら?貴方……何やら面白いモノを飼ってるのね?」
ヘラは僕の頭上に目線を移す。
テスタロッサは透明化しているはずだが、見えているのだろうか。
「見えていないはずなのにって思ってるのかしら?私はこれでも魔神の一柱よ?同じ魔力を纏った存在なんて感知できるに決まってるじゃない。」
魔神特有の魔力を感じ取ったのか疑惑は確信に変わっている。
「貴方魔神を飼ってるのに何故敵対するのかしら?私と共に来るならここらで引いてあげるけど?」
「……飼ってる訳じゃない。それに僕は人間側だ、魔神に屈した覚えはない。」
「ふぅん、つまんないわねぇ。じゃあいいわ、かかってらっしゃい。貴方程度なら片手間で捻り潰してあげるわ。」
手招きして煽ってくるが、ここは冷静に対処するべきだ。
何しろ今フィンブルはナターシャさんの治療に専念しているし、一対一で勝てるとは思えない。
「マリス君、僕も手を貸そう。」
ふと後ろから声を掛けられ振り向くとそこにはルーズさんとミランダさんが立っていた。
魔物の掃討は他の仲間に任せてこちらに急いで来たらしい。
五聖剣のリーダーとルーズさんが手を貸してくれるというのなら百人力だ。
戦力は申し分ない。
「お願いします!炎雷水王牙!!」
三属性魔法の刃を飛ばすと、またもヘラは魔法陣一つで弾いた。
相当威力がなければヘラの守りは突破できないようだ。
「僕に任せたまえ!!光剣乱舞!!!」
ルーズが光を纏った剣を縦横無尽に振り回す。
しかしヘラの魔法陣が砕ける様子はなかった。
「くっ、化け物か!ミランダ頼む!」
「ワタシの一撃を喰らえぇぇぇ!!!光の天空剣!」
ミランダは上段に構えた両刃の剣を勢いよく振り下ろした。
目を眩ませる程の光が空を覆うと、一本の光線がヘラへと降り注ぐ。
ヘラは咄嗟に魔法陣を頭上へと展開するが威力は相当なものなのか苦しそうな表情に変わる。
「人間……風情がぁぁぁ!!!!」
ヘラの叫びは怒りを含んでいた。
ミランダの攻撃はかなり有効だったのか光の柱が消えてもまだヘラは肩で息をしていた。
「どうだ!魔神には神聖魔法は痛かろう!!!」
「流石はリーダー、なかなか消耗させられたんじゃないかい?」
「当たり前だ!ワタシを誰だと思っている!」
二人が作ってくれた時間は魔力を練り込むのに十分だった。
この魔法で死んでくれと祈りを込めて僕は魔法陣を浮かび上がらせた。
「皆さん下がって下さい!!加減は出来ません!!」
「!!分かった!全員退却せよ!彼の必殺魔法が飛んでくるぞ!!」
ルーズは近くにいた神聖騎士達に声を掛けその場から離れた。
ミランダも何も言わなかったが濃密な魔力を感じ取ったのかすぐ後ろへと飛んだ。
魔神を屠るには生半可な魔法では無理だろう。
故に僕の魔力を全て込めた最高の一撃をお見舞いする必要があった。
「なんなのよその魔力は……ほんと虹色魔導師というのは人間を辞めているわね……。」
ヘラの呆れ声が聞こえてくるが、聞こえないフリをした。
僕はまだ人間だ。
人間を辞めるつもりなんてないが、魔神にそう言われてしまうとなかなか心にくるものがある。
「七の柱は大地へいざなわれ虚空へ伸びる光を放つ。
終焉の焔は大地を溶かし、神に祝福されし水星は岩をも穿つ。
頬を伝う風神のため息は神域へと辿り着き、神をも蝕む死の闇が世界を包む。
雷鳴轟く神滅の光が大陸を滅ぼし、嘆きの雨が再生する。
大地の核は無限の彼方へ消え去りて、後に残るは無の虚空。
来たれ七つの終局!」
僕の持つ最大級の一撃。
広範囲殲滅魔法であり地形が変わる程の威力を誇るが今更地形がどうのなんて言ってられない。
魔神を屠る為ならば法国も許してくれるだろう。
「なっ!全属性の神級魔法だと!?バカな事を!全員もっと下がれ!!巻き込まれるぞ!!!」
ミランダは焦った顔で周囲に注意喚起する。
威力は相当である事を理解したのだろう。
「は……は……やはり虹色魔導師というのは規格外……僕らとは根本的に違うね。」
「ルーズ……あの馬鹿野郎に後で説教しておけ、こんな所で神級魔法を放つなんて。」
神級魔法は魔神ヘラを消し飛ばさんと空から降り注ぎ直撃した。
ヘラも複数の魔法陣を展開し防御に全力を注ぐが地形を変えるほどの威力を防ぐのは至難の業だ。
「ぐぅぅぅぅあぁぁぁぁ!!!」
ヘラの慟哭は周囲に響き渡った。
それと同じくして爆音と爆風が僕らへと襲い掛かる。
騎士たちは吹き飛ばされないよう剣を地面に突き立て辛うじて耐えている。
ルーズやミランダは障壁を張り衝撃に飲み込まれないよう防いでいた。
土埃が辺りを包む。
ヘラの姿が見えないがどうなったのか。
固唾をのみ皆が見守る中徐々に土埃が晴れていくとその姿は顕になった。
血だらけになりながらも片膝をつき肩で息をするヘラの姿があった。
かなりのダメージを負ったのか立てないようだった。
「や、やってくれたわね……人間。でもそれが貴方の全力なのでしょう?残念ね、私はまだ生きているわよ。」
思いの外頑丈らしい魔神ヘラはゆっくりと立ち上がる。
僕の方はというと、本当に全力を尽くした一撃だったせいでもう初級魔法を放つ余裕すらない。
僕の全力で倒し切れなかったのは誤算だが、こちらにはまだフィンブルや五聖剣がいる。
万が一にも負ける事はないだろう。
「ふふふ……今代の虹色魔導師は歴代でも最高峰の魔力を持っているのかしら?まだ若いのにこれだけの威力を出せるなんて……将来が恐ろしいわ。」
「魔神ヘラ!我らビストリオ法国に攻めてきた事を後悔するがいい!!!」
弱ってみえるせいか勢い付いた数人の神聖騎士がヘラに歩み寄る。
危険だと声を大にして言いたかったがその気力すらない。
「お前達何をしている!!そいつから離れろ!!」
「ミランダ様!我々がこやつを討ち取ります!!その暁には我らを神聖騎士団の隊長へと推薦して頂きたい!!」
何を言うのかと思えば、功績が欲しいからと弱ったヘラへと近付いたらしい。
馬鹿なことをと思ったがそれはミランダとて同じであった。
「貴様ら其奴をそこまで弱らせたのはここにいる虹色魔導師だぞ!今更いいとこ取りしたとて推薦など出来るはずもない!!いいからさっさと下がれ!其奴はまだ生きているのだぞ!」
「残念ですが、ミランダ様。もはやこの魔神は虫の息。我らの剣で屠って見せましょう!」
聞く耳を持たない彼らは抜き身の剣を片手に魔神ヘラへと走り出した。
黙って見ていたヘラは薄ら笑いを浮かべると両手を彼らに向けた。
「くっ!君達避けろ!!」
ルーズの叫び虚しく、ヘラの両手から放たれたどす黒い光線は彼らの心臓を貫いた。
「ガハッ……バカな……まだそれだけの力を残していたのか……。」
「ふふふ、バカは貴方がたの方よ?これでも私は魔神なのだから。」
心臓を貫かれた神聖騎士達はその場に倒れ込みピクリとも動かなくなった。
「さぁ2回戦を始めましょうか?」
魔神ヘラの呟きは僕らを絶望へと突き落とした。
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