英雄と言われても目立ちたくない①
王国の方達から話を聞くと、どうやら国王が死去したそうだ。
それも何者かによる暗殺。
灰しか残っておらず犯人は魔導師である事は間違いない。
トップが倒れれば国が傾く。
それに亜人排他の考えは国王が主導であったらしい。
最強と呼ばれていた雷天もこの場におらず、残っていた2人の四天のうち黒天は死亡。
水天に至っては姿をくらましたそうで、王国にはもう戦う力は残っていないと、白旗を上げる覚悟をしたそうだ。
ただ白旗を上げればいいというものでもない。
敗戦国は大抵碌な未来がないのだ。
今まで亜人を毛嫌いしていた国民も受け入れなければならなくなる。
でなければ国が滅ぶことになる。
王国が出した条件は一つ。
民と共存できる環境にして欲しいとの事だった。
言わずもがなマゼラン王はそれを飲んだ。
ただ今までいがみ合っていた者同士なので諍いは絶えないだろう。
「マゼラン王、寛大な処遇感謝いたします。」
「構わぬ。こちらとしても広い土地が欲しかったのでな。表向きは連合国家として新しく建国する。王国のまま残しておき実質権力を持つのは8割が我ら亜人国。残りの2割が君達王国側の椅子だ、それで構わないかね?」
正直王国にとっては頷きたくはないはずだ。
しかし戦争に負けた以上断る選択肢はなかった。
万が一断れば、力付くで王都を占領し完全な支配下に置けばいいだけの話だ。
宰相は苦虫を噛み潰したような顔をするが何も言わなかった。
シルビアは譲歩をと頼んだが、マゼラン王は首を縦には振らなかった。
フィンブルの力があれば、王国など更地になってしまう。
そもそもシルビアは唯一直接戦闘を行った王国民だ。
その力をその目で見てしまっていれば嫌でも相手の指示に従わなければならなかった。
「これからは人間と亜人が共存していく国に変えていくつもりだ。そこは安心してくれて構わん。どのみち人間と亜人が争えばそれこそ血を見る事になりかねんからな。」
筋力や脚力が違うせいでもしもケンカなんて起きようものなら、人間が主に死ぬ。
かなり厳しく取り締まる必要が出てくるだろうな。
話は一旦区切りがつき、マゼラン王は一部の者を王国に残して帰ることになった。
残った者の代表はレオンが務めることになる。
シルビアさんやミカさんと別れ、帰路につこうと言うタイミングでマゼラン王から話がしたいと呼び止められた。
王城の一室を借り、マゼラン王、レオン、僕とフィンブル、それにミモレットさんのみが集まる。
「まずは礼を言おうマリス殿。君がいなければ我々の勝利はなかっただろう。」
君じゃなくて殿になってしまった。
別に今まで通りでも良かったのに。
「いえ、僕なんて死にかけたくらいですしあまり役に立てたかどうか。」
「謙遜する必要はない。もはや君は我々亜人国の英雄なのだよ。」
英雄……か。
まあ実際に僕の素顔を知っているのはここにいる面子とエルフ達、後は一部の人だけだ。
殆どの亜人達は狐面を着けた英雄として認識しているだろうし、街を歩く事は出来そうだ。
「それとフィンブル様、貴方の力がなければそれこそ死にもの狂いで戦わなければならなかった所です。我々に力を貸してくださりありがとうございます。」
「フン、マリスに感謝しておけ。我はマリスが手を貸すと言ったから手伝っただけだ。」
確かにフィンブルの戦力がなければ勝てなかったかもしれない。
王国の精鋭、黒騎士隊が相当な強さを持っていたから獣人らと対等に戦えただけで並の兵士なら歯牙にも掛けなかったはずだ。
「ミモレット殿も感謝する。エルフ達の支援魔法は大変助かった。」
「まあ丁度よいタイミングでもあったからの。そろそろエルフの里も手狭になってきたところだったんじゃ。王国の奴らにも腹が立っていたしの。」
エルフ達の支援魔法はやはり、恩恵が大きかった。
回復魔法もお手の物で、エルフ達がいなければ魔法を使える者が少ない亜人は回復手段に乏しく長期戦は出来なかっただろう。
「マリス殿、君が連れてきた人間達にも感謝を伝えておいてくれ。それとルーザー殿とはこの後話すが帝国との同盟も結ぶつもりだ。これからは隣人同士、共に繁栄していこうではないか。」
亜人達と同盟を組むということは結果的に連合国となった王国とも同盟を結ぶ形になる。
強国と呼ばれた二国が同盟関係となれば今の時代では不動の地位を確立するだろう。
マゼラン王から慰労の言葉を貰い、部屋を出ると何故かシルビアさんが立っていた。
どうやら僕が出てくるのを待っていたようだ。
「む、終わったかマリス。」
「シルビアさん、大怪我がなくて良かったです。」
「ふん、そこの女が手加減してくれたお陰でな。それより、やはりお前の影響力というのは馬鹿にできんな。」
影響力?
なんだそれは。
別に誰かに影響を与えるほど崇高な人間ではないけど。
「もしもお前がいなければ、我が国が負ける事はなかったはずだ。大方お前に付き添ってきたんだろうそこの神獣も。」
よくご存知で。
フィンブルに関しては完全に僕のせいともいえる。
常に僕の側にいるから、そりゃあ僕が手を貸すと言えば着いてくるに決まっている。
「亜人国の英雄か……余もまだまだ精進せねばならんな。」
いやもうこれ以上強くならなくていいよ。
相手が悪かっただけで、普通の人間相手なら負け知らずだよ。
「シルビア……と言ったか。人間にしては見込みがあるぞ。その調子で更に強くなれば我に一撃くらいは入れられるようになるかもしれん。」
珍しいな、フィンブルが褒めるなんて。
人間なんて下等生物だとか言ってたくせに。
「神獣に認めてもらえるとは……待っていろ、余がいつかお前を跪かせてやるぞ。」
「ククク、楽しみにしているぞシルビア。虹色魔導師でもなくただの人間が極限まで鍛えただけで我に一撃入れられるのは今までにも一人しかおらん。二人目になるのを期待しているぞ。」
「……ちなみにその一人目はどんな者だったか教えてもらえるか。」
「名前までは知らん。力試しとか抜かして我に剣を向けよったから吹き飛ばしてやったからな。確か勇者がどうのとか言っていた気がする。」
それ勇者だね。
世界にはたった一人だけ特殊な力を持つ人間が生まれるそうだがその一人と戦った事があったんだ。
「勇者か……ふむ、余がそれに近しい力を手に入れれば……。」
なんかまたシルビアさんのやる気が増したように見えたのは気の所為だろうか。
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