負傷しても目立ちたくない⑩
城門を守る兵士の数は暴力的な数であった。
亜人がいくら精強だといえ、倍以上の兵力差を覆すにはなかなか骨が折れる。
ただ一つだけ気がかりな事があった。
それは王国軍の兵士が何故か分からないが心ここにあらず、といった感じで戦っていた事だ。
目の前の戦いに集中出来ていなければ、待つのは死だ。
しかし数の暴力というのは簡単ではない。
前衛を張る亜人達が奮戦しているが、なかなか思うように王都へと入り込むことが出来ないでいた。
「なんか苦戦してるね。フィンブル、手を貸してあげたら?」
「ダメだ、またお前が狙われればどうする。我は側から離れんぞ。」
僕が狙撃されてからと言うもののずっとこうだ。
可愛らしい少女に言われるのなら、ほっこりするかもしれないが相手がフィンブルだとどうにも気恥ずかしい。
「ミモレットさんもいるんだし、エルフの人達だって近くにいるんだ。ここは大丈夫だから行ってきなよ。暴れ足りないって言ってたじゃないか。」
「むむ、しかしな……。」
「ワシが責任を持って守っておいてやる。これ以上亜人達を無為に死なせるな。」
ミモレットさんもそう言っているのになかなか動こうとしない。
「レオン達も無尽蔵の体力があるわけじゃない。個々の戦闘力は高いかもしれないけど、それでも一生物なんだ。いずれ体力が尽きればそれこそ一気に押し返される。」
「むむむ、そこまで言うなら仕方あるまい。言っておくがマリスがそれだけ言うから行くのだぞ。決して亜人達の命が惜しいからではないぞ。」
良くわからない言い訳をした後、フィンブルは前衛の下へと向かった。
人間より亜人の方がまだフィンブルにとって取っ付きやすい生き物だろうし、助ければ恩も売れる。
将来的な事を考えれば、今ここで手を貸すのが1番理想的だ。
「ふぅ、やっと行ったか。それにしてもマリス、アヤツに気に入られたものだな。」
「そうですね、虹色魔導師ってのがやっぱり昔を思い出すからじゃないですかね。」
「いやそうではない。長らく人間と触れ合う機会などなくそこに現れたのが自分と対等でいられる人間。気に入らないはずがない。」
確かに長く人間と触れ合う機会はなかったかもしれないけど、それが気に入る理由になるのか良くわからないな。
まあ仲間でいてくれるならこれほど頼もしい味方はいない。
既にフィンブルは前衛と合流したのか、激しい戦闘音が後方まで聞こえてきた。
魔法を辺りに散らばせながら暴れているのだろう。
次第に王国軍の数は減っていき、いよいよ王都へと足を踏み入れられる、といった所で王城の方で白旗が上がった。
どこの国でも共通して同じルールがある。
それが白旗だ。
負けを認めた時に必要以上に攻撃をされないよう相手に伝える手段だ。
その旗が王城で上がった。
勝ち目がなくなったと判断したのか、いやそれにしても判断が早すぎるのではないだろうか。
まだ王国軍の兵力は減ったとは言え10万以上いるはず。
対して亜人国の軍は5万人を切っている。
なのにも関わらず勝ちを捨てたのはなぜだろうか。
敗戦国は大抵めちゃくちゃにされる。
特に今回に至っては王国への恨みが発端となった戦争だ。
それこそ亜人の住みやすい国に作り変えられハルマスク王国という名前は消えてなくなるだろう。
「判断が早い……?すぐに使者を送ってください。何か意図があるのかも知れませんし、兵士の皆様はそのまま待機を。」
アスラも白旗を疑っているのか、兵を下げるような真似はしない。
本来白旗を上げた際は、撤回不可能と聞く。
しかし追い込まれた国は何をしてでも勝ちを取りに行きたい。
その為、稀にだが白旗を上げ油断しきった所に一斉攻撃をかける、なんて汚い真似をする国も過去には存在したらしい。
王国がそんな手段を取ることはないだろうと、思いつつも疑惑を拭い切れなかったのかアスラは警戒を解こうとはしなかった。
使者を送り、帰って来るまで待機する兵達は暇そうにその場にしゃがみ込み雑談を交わしている。
1時間もすると、使者はマゼラン王の元へと帰って来た。
驚愕の事実と共に。
聞けば、王城で何者かの手によって国王が殺されたのだという。
次点で王位を継ぐ者がそんな状態で戦っても意味はないと判断し、負けを認めたそうだ。
アスラも流石にそれは予想していなかったのか、目を見開いていた。
「1度王城で話を聞いたほうが良さそうです。」
アスラはマゼラン王にそう提案し、数名の精鋭とレオンを引き連れ王城へと足を運ぶ事にした。
もちろんその際に僕とフィンブルも共に来てほしいと頼まれたので一緒に着いていく事に。
僕らが王都を駆け抜けると、住民はみな建物の窓から顔だけだし悲壮な表情を見せていた。
自分達の国が負けを認めた事は皆理解しているからだ。
敗戦国がどういった扱いを受けるのか、これからの事を考えているのか誰もが絶望した表情であった。
「ふむ、街は綺麗ではないか。これならそのまま住めるな。早めに負けを認めたお陰で復興なども必要ない、ククク最後に良い判断をしたな王国め。」
フィンブルはそんな街に目を向けながら、そんな事を口走る。
確かに早々に白旗を上げてくれたお陰で、フィンブルが暴れずに済んだ。
門を突破し王都へと入り込んでいたのであれば、王都も瓦礫の山であっただろう。
王城の前まで辿り着くと僕ら一行は出迎えた人を見てまた一つ驚かされた。
見たこともない王女らしき女性とその横に居たのが、フィンブルに投げ飛ばされ凡そ無傷ではいられないだろうと考えていたシルビアだった。
「ようこそ亜人国の皆様。我が国の敗北を認めて下さり感謝しています。」
宰相らしき人物がそう口にする。
王女らしき女性は黙ったままで、シルビアに至ってはムスッとした顔をしている。
「まずは皆様こちらへどうぞ。」
案内されるがまま着いていくと、謁見の間であろう広い部屋へと通された。
玉座には誰も座っていない。
本当であればその玉座に腰を掛けていたのは、ハルマスク国王だ。
しかし今は王妃すら部屋にいなかった。
「改めまして、私はハルマスク王国第一王女ミカと申します。」
最初に小さな声で頭を下げたのは王女であろう女性だった。
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