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虹色魔導師は目立ちたくない  作者: プリン伯爵


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負傷しても目立ちたくない⑥

負傷しても目立ちたくない⑥

黒騎士。

王国では精鋭の兵士達がそう呼ばれる。

帝国ほど魔法に精通しておらず、剣技や白兵戦に特化した国らしく、騎士が国を守る最高峰の戦力であった。


黒騎士隊の一番前に立つのはどこか見たことがある女性であった。


大剣を担ぎ好戦的な目をしたその女性は僕の記憶にある女性に似ている。


「あれって……シルビア王女じゃない?」

ロゼッタも気付いたらしい。

顔見知りの方と戦うのはどうも気が引けてしまう。


「本当だ……あれはシルビア王女だね。あの大剣、マリスを救出しに行った時に見たものだ。」

ルーザーもそう言うくらいだし、間違いはないだろう。



「聞けぇ!!亜人共!!!余の剣の錆となりたくなければ踵を返し元の場所へと戻るがいい!!!」

ああ、間違いない。

シルビアさんの声だ。


大剣をこちらに向けそう叫んだシルビアさんは警告しているようだ。

しかし、そんな事言われてはいそうですかと下がる奴はいない。


「俺の名はレオン!!亜人国の王子だ、どうせなら一対一で堂々と戦ってみようではないか王国の騎士よ!!」

レオンが何か言い出したぞ。

そんな提案に乗ってはこないだろ。


王国は亜人国に比べて数倍の戦力があるんだし、物量で押せるんだから提案に乗るほど馬鹿ではない。



「いいだろう!!レオンと言ったな?逃げずに余の前に立つ度胸は認めてやるぞ!!!」

ああ、そうだった。

シルビアさんって脳筋だったね。

強者を求めて旅するくらいだ、こんな機会是非にでも乗ってくるのを忘れていた。



そんなわけで一旦休戦となってしまった。

シルビアさんが前に出てくると同じようにレオンも気合十分に出て行く。


他の兵士は勝敗の行方を眺めることしか出来ず手に汗握る。


「獣人は好戦的だと聞いていたがその通りであったな。度胸も十分、しかし勝てん戦いに挑むのは勇敢ではなく無謀というものだぞ?」

「それはそちらにも言えることだぞ。俺は亜人国においては最強だ、無敗の獣王と言えば俺の事よ。」

「くくく、無敗か。ならば今日でその二つ名は捨てると良い。……おっと忘れていたな、余の名前はシルビア、この国の第二王女だ。」

「王女が大剣を担いで戦場に出てくるとは……世も末だな。」

お互い言いたい事を言い終えると構えた。


しばしの沈黙が戦場を包み込む。


誰かが少し動いたのか、砂を踏みしめる音が聞こえるとそれを皮切りにお互いが動いた。


大剣を担ぎ上げ上段から振り下ろしたシルビアを躱し、回り込むようにしてレオンが鋭利な爪を振るう。

しかしシルビアも横っ飛びで躱すとさっきと立ち位置が変わった。


どちらも寸での所で躱し再度構え直した。


「速さもほぼ同じ……なるほど、無敗の獣王の名は伊達ではないらしい。」

「そちらも大剣を持っている割には素早いな。これほどの強者と戦えるとは……腕が鳴るなッ!!!」

お喋りも程々に今度はレオンから仕掛けた。


「ニ連双牙斬!!」

両腕をクロスし一気に振り下ろすと真空の刃がシルビアに向かって飛ぶ。

シルビアはそれを大剣の腹で受け止めたが、威力があったせいかそのまま後ろへと吹き飛ばされた。


上手く着地すると、次はシルビアの大剣が赤色の光を放つ。

「咲き誇れ!桜花剣!!!」


大剣を大きく振り下ろすと地面が割れ、衝撃波がレオンを襲った。


「ウオオオオオオ!!」

腕で顔を庇い後ろへと吹き飛ばされたレオンだったが表情は明るかった。


「何だその技は。カッコいいではないか!!」

「くくく、余のオリジナルだ。そういうお前こそなかなか殺意の高い技を持っておるではないか。」

お互い決め手に欠けるが、技自体は確実に致死率の高いものであった。


「そろそろ良いか……レオンと言ったな、余の奥義受け止めてみせよ。」

「ほう?ならば俺も相応の技をお返ししようではないか。」


遂に二人が必殺とも言える技を放つらしい。

見ているマゼラン王やマリスは気が気ではなかった。


「おいおい、あの2人の闘気ヤバすぎだろ。近づいただけでチビるぞ俺なら。」

ジンに至っては、あまりの迫力に若干気圧されてしまっていた。

それは僕も同じだ。


あんなとんでもない戦いを繰り広げる2人の中に入っていけと言われても断るだろう。



「秘技!四爪連牙斬!!」

「奥義!破断!!!!」


2人の技がぶつかり合い、火花を散らす。

風圧も凄まじいもので、近づけば吹き飛ばされてもおかしくはない。


ほんの少しだけ、シルビアの方が強かったのかレオンの爪にヒビが入る。

お互いの武器がぶつかり合う中、押されて後ずさったのはレオンだった。


「ぬぅぅ……貴殿、ただの騎士ではないな……。」

「余の破断が断てぬとは……。」


これは引き分けと見ていいのではなかろうか。

うん、それがいい。

血を見なくていいしね。



「本当であれば死ぬまでやり合いたかったが、立場上そうもいかん。今頃王城では余の父が冷や汗を垂らしておるだろうからなぁ。」

「それは俺も同じ事よ。王子たる者が簡単に死ぬわけにもいかんのでな。」

なんかいい感じにまとまりそうな気配だ。

戦闘狂にも多少の知性が残っていたらしい。


「お前との死合いはまたいずれやろうではないか。……よし、次が本命だ。おい!!マリス!!いるのだろう!?さあ余と死合おうではないか!!!」

何てことだ。

最初から僕と戦う事が目的だったのか。

なんとなく力をセーブして戦っているなとは思ったが、この為に温存していたな。


さあ、どうするべきか。

名指しで呼ばれた以上出て行かない訳にもいかないが、まだ怪我が完治していない。

傷が開くのも勘弁して欲しいし、どうしたものか。



「よい、ここで待っておけ。我が代わりに相手をしてきてやる。」

「えっ………あー、じゃあお願いするよ。でも殺すのは辞めてくれよ?あんな人でも顔見知りだし僕の両親を助けてくれた恩人でもあるんだ。」

「む、そうなのか。ならば半殺しだ。おい!マリスは療養中だ、代わりに我が相手をしてやる。」


ズンズンと前へと進むフィンブルは頼もしくもあるが、勢い余って殺してしまわないかが心配だ。



「シルビアと言ったか?マリスは貴様らの良く分からん長距離魔法のせいで療養中だ。しかしそれでは気が治まらんだろう。故に我が相手をしてやる、光栄に思うがいい。」


尊大な態度で出て来た僕の代理人を見てシルビアは顔を顰めた。

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