負傷しても目立ちたくない④
会議の場に戻って来た国王の手には何やら謎の黒い長物の箱があった。
みなそれが何なのかは分からなかったが先の話では切り札と思われた。
「陛下、それは一体何でしょうか?」
好奇心に駆られ1人の武官が問うと、待ってましたと言わんばかりに国王は目を輝かせていた。
「これが、この戦争を終わらせる切り札だ。この部屋にいるのだろう、出てこい黒天。」
天井付近に声を掛けるとジワリと空間が歪み、黒装束の恰好をした男が現れた。
「気付いていたか、王よ。それで?その良く分からん物を使って奴らに反撃せよとでも言うのか?」
「貴様無礼だぞ!!!」
国王の近くに居た1人の武官が叫ぶ。
慣れ慣れしい態度が気に食わなかったのか武官は剣の柄に手を掛けていた。
「辞めておけ。その男は態度はアレだが黒天の名を授かる四天の1人だぞ。」
「しかし陛下!あまりに無礼すぎるのでは!」
「構わんと言っている。」
黒天と呼ばれた男はニヤニヤとした笑いを浮かべ黙って見ていた。
国王が庇うのを分かっていたからだろうが、他の武官は苛立ちを隠せなかった。
「話を戻すが、黒天ジャミル・ハート。この切り札を持って奴らに目に物見せてやるがいい。」
「仰せのままに。」
ニヤついた表情で恭しく礼をするその様が他の武官を逆なでする。
「じゃあ使い方教えてくれるか?流石に知らないまま使うわけにいかないんでな。」
王都を一望できる展望台へとジャミルを連れて来た国王は簡単に使い方を説明し例の武器を渡す。
「"アクセス・ガンブレイカー"。おお、すげぇ!おいおいこんなの男の浪漫じゃねぇか!!」
変形する銃を見てジャミルは笑顔を浮かべた。
黒い艷やかなボディを纏う黒い銃。
黒天の名を持つジャミルにピッタリの武器でもあった。
「ほぉ、この水晶板みたいなやつで遠くを見るのか。すげぇなこれ。一体どっから仕入れたんだ?」
「それは言えん。とにかくそれを使って奴らの足を止めよ。」
ワクワクした表情でずっと武器を眺めるジャミルにそれだけ伝えると国王は少し下がって様子を見ることにした。
「おおお、よく見えるぜ。あーなんか結界みたいなの張ってんな。あの狐のお面着けたやつを撃てばいいんだな?」
「そうだ、そやつが奴らにとって切り札のようなもの。そいつを殺せばこの侵攻は止められるはずだ。」
「へいへい。じゃあいくぜー?威力はどんなもんかね!超長距離狙撃魔導銃ジオストーム、発射ぁ!!!」
別に名前を言う必要はないが、魔法名を叫ぶが如く口にしなければ気がすまないのだろう。
銃口に濃密な魔力が集まり、次第に小さく球体状へと変化していく。
辺りの空気が若干薄く感じる程に、圧を感じた国王はその威力は凄まじいものになるだろうと想像する。
ジャミルが引き金を引くと、圧縮された魔弾は音速で飛び出し狙いを付けた方向へと射出された。
撃った瞬間、侵攻してくる亜人国の軍隊を覆っていた結界が砕ける音が響く。
水晶板を覗いていたジャミルには見えた。
仮面の男の胸を貫いた一撃が。
「……なんつー威力だこれ……確実に死んだぞあれは。」
あまりの速さで魔弾が射出されたせいか、国王も何が起きたかいまいち理解できていなかった。
ジャミルも撃った張本人にも関わらず呆気に取られてしまっていた。
しかし呆然としている時間もほんの少しだけであった。
「陛下!!あれを!!!」
武官が指差す方に目を向けると空を覆うほどの魔法陣が見える。
大魔法を放とうとしているまさに瞬間であった。
「水天はどこだ!!!」
「ここにいますよぉ〜、既に手は打ちましたぁ〜。」
間延びした声が聞こえた方向に目をやると、気怠そうに杖を掲げた女性が立っていた。
最後の四天の1人、水天ミスティ・ヴァミリオン。
四天の紅一点、とも呼ばれているその女性もまた王国が誇る四色魔導師であった。
「あっ……無理かもぉ……。」
「な!何が無理なのだ!!ミスティ殿!!」
近くにいた武官がそう叫ぶが、国王はその意味が分かった。
四色魔導師であるミスティですら守りきれる自身がないほどの大魔法。
魔法陣の精密さといい、見るからに暴力的な威力を齎すだろうと分かってしまったのだ。
王都を囲う門前には1000人以上の魔導師が合同魔法を展開し結界を張ってはいたが、神獣と思われる者の咆哮が聞こえたかと思うと死を思わせる一撃が結界に触れた。
少しは拮抗したが、やはり人の身で防げるものではなかったのか大きな音を立てて砕け散り、銀色のレーザーは王都の街を直撃した。
「すぐに全軍を門前へ送れ!!!今突撃されれば甚大な被害が出るぞ!!」
「いや、国王陛下。その必要はないぜ。あいつら撤退を選んだらしい。」
未だに水晶板を覗き込み見ていたらしいジャミルが小さく溢す。
ジャミルが見たのは、胸から血を流しながら後方へと吹き飛んだ仮面の男。
そしてすぐに報復の為か神獣が大魔法を発動したとの事。
しかしそれは神獣にとっても最後の切り札と言わんばかりの魔法だったようでその後すぐに倒れ込んだらしい。
攻撃の主軸が折れたせいで、亜人国の軍隊は一時撤退を選んだのか、少しばかり魔法を王都に向けて放った後、逃げるようにして退いたようであった。
「ふぅ〜一気に来られてたら危なかったですねぇ〜。」
「……お前のその喋り方なんとかなんねぇのか。緊張感の欠片もねぇ。」
ミスティはどうか知らないが、ジャミルはそれなりに危機感を味わったようだ。
「すぐに部隊を編成し、次の攻撃に備えよ。ジャミル、ミスティはこのままここで監視を頼むぞ。万が一動きがあればすぐに行動を開始せよ。」
「それは、俺達の判断で動けってことだな?」
「そういう事だ。今王国にある戦力はお前達しかおらん。」
四天最強と呼ばれる雷天ジェイドがこの場にいない事が何よりも残念であった。
しかし、展望台から降りようとした国王は何故か逆に上がってきた者を見て目を見開いた。
「待たせたな父よ。余も戦力に数えてくれて構わぬ。」
展望台を上がってきたのは、大剣を担ぎニッと口角を上げるシルビア第二王女の姿であった。
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