第五章 プロローグ
苦戦すると思われたハルマスク王国と亜人国の戦争は、蓋を開ければ呆気ないものであった。
ただ領土が大きい為一戦二戦したところで戦争は終わらない。
しかし3日ほどで複数の街は陥落した。
最初の戦いで殆ど消耗しなかったのが大きな勝因だろう。
順調に王都へ向けて進む亜人国だったが、マリスもある程度落ち着いたのかたまに後方から魔法を放ち支援していた。
ただ最初のインパクトが大きすぎたせいか、他の亜人達と喜びを分かち合う事はせずマリスとフィンブルは本隊とは少し離れた場所を歩く。
亜人達はマリスとフィンブルが近づくとどうしても喜びより先に畏れが顔に出る。
その為彼らを必要以上に怖がらせない為離れて歩くことにしていた。
開戦と同時に放った全属性神級魔法はあまりにも威力が大きすぎた。
フィンブルの魔法もかなりのものであったが、インパクトで言えば七色のレーザーはあまりに非現実的であった。
これのせいで、狐のお面を着けた謎の人物は虹色魔導師であり国家戦力と同等の力をただ一人の個人が保有していると認識されてしまった。
畏れるなという方が難しいだろう。
王国軍の被害は甚大であり、最初にぶつかった数十万の兵士は一瞬にして消え去った。
生き残った兵士もなんとか戦いはしたがまともな戦闘になる訳がなく、亜人国の被害は最小で終わった。
元々亜人個々の戦闘力は人間の数倍はある。
ほぼダメージのない亜人国の軍隊は次々に街を落としていった。
ただマリスには一つ懸念があった。
四天が未だ姿を現していないのだ。
王国の最高戦力である四天が出てこないという事は王都に戦力を集中させている可能性が高かった。
それにマリスは、王国の切り札は他にもあると考えていた。
何もなければそれに越したことはないが、マリスはどうしても不安が拭いきれなかった。
――開戦から1週間――
王都を目指す亜人国の軍隊は進行方向に点在するいくつもの街を陥落させていった。
その数は10以上。
後は王都さえ落とせば亜人国の勝利が確定する。
そんな勝利を目前にしていたからか、誰もが油断していた。
王都が見えたと同時に突如亜人国の軍勢にイレギュラーが発生した。
爆発が起こり隊列を組んで進む亜人達はその足を止めた。
「被害を報告せよ!!!」
マゼラン王が叫び救援部隊が爆発が起きた一番外側にいた部隊に駆け付ける。
まさかいきなり攻撃を受けるなんて想定しておらず現場は大混乱に陥っていた。
「何があった!」
「突如外側にいた部隊の辺りで爆発が起こり死傷者多数!」
「すぐに防御陣形に切り替えろ!!!」
レオンの元に直轄の部下であろう亜人が駆け寄りそう報告する。
誰もが何処からか魔法による攻撃を受けたのだと理解した。
「なぜだ?なぜ事前に察知できなかった!!索敵部隊は何をしてやがったんだ!!!」
グランも想定外の事に焦りが生じ、周りにいた兵士に怒鳴り散らす。
今までが順調すぎたせいか、想定外の事態に対応が遅れたからだ。
「ワシらの隊が救援に向かう!!貴様らはそのまま防御陣形に移行しろ!!」
レオンの持つ魔道具から聞こえてきたのはエルフ隊率いるミモレットの声であった。
元々亜人国の軍隊に組み込まれていないエルフ隊が向かうのは一番都合がいい。
それを理解してか救援をミモレットに任せレオンはマゼラン王と共に防御陣形の指揮をとった。
結局、その後追撃のようなものはなくただ1度爆発が起きただけであったが、警戒度は最大限まで引き上げられた。
王都を目前にして足を止めざるを得なくなりマゼラン王は歯ぎしりをする。
現在は足を止めて索敵に戦力を割いている。
故に突撃することは憚られた。
「報告!!!周囲数キロ圏内に敵影らしきものは見当たりませんでした!!」
ヒョウの顔をした亜人が素早く駆け寄りマゼラン王に伝える。
索敵班の斥候であろうことは誰もが予想できた。
「ミモレット殿、魔法はどれだけの距離が離れていたらあれ程の火力が出せるのだ?」
「あれだけの爆発を生ませるのであれば1キロが限界じゃろう。込める魔力量によっても変わってくるが何キロも離れてあれだけの火力を出すのであればそれこそ数十人規模の魔導師が全力を出す必要がある。」
「……ならばマリスのような者がおればどうなる?」
「分かりきった事を聞くなマゼラン。もし虹色魔導師が王国にもいるのであれば、開戦時に放たれた魔法が飛んできておるだろうな。」
隊を代表する者が集まり突撃タイミングを決める為話し合いを続けるが、マゼランは先の爆発がどうやって行われた攻撃なのかが気になって仕方がなかった。
「面倒な事はよい、我が単独魔法をぶっ放してやる。その方が早いであろうが。」
「それは危険すぎるぞ、フィンブル。ここまで1度たりとも王国の最高戦力と呼ばれる魔導師共が出てきていないというのは不気味すぎる。」
「我は神獣だぞ、お前達のような魔法に特化しただけの種族ではないぞミモレット。」
マリスも仮面をつけて話し合いに参加はしているが、1度も発言はしていなかった。
一つだけ作戦を思い付き、手を挙げると全員の視線が向いた。
虹色魔導師が何か思い付いたようだ、といった目線だった。
「突撃して下さい。僕が空から大規模の結界を張ります。万が一攻撃されても防げますし、貴方がたは安全に王都に辿り着く。」
「大規模の結界か……マリス、それは開戦時のような大魔法か?」
「未だ破られた事はないオリジナル魔法です。もしもこれが突破されるというのであれば、王国の切り札と考えてもいいんじゃないかと。」
「ふむ、それが一番確実か。……異論はあるか?」
マゼランが周囲に目を向け、全員の意思を確認する。
誰も反論はなかった。
というよりそれより確実な作戦が思い付かなかっただけであった。
すぐに作戦を開始することになり僕とフィンブルは全部隊の最前線へと移動した。
「フィンブル、魔力の供給を頼む。最大出力で結界を張り続けると本隊が王都に辿り着くより先に僕の魔力が先に尽きる。」
「良いぞ、存分に守るといい。」
「テスタロッサ、君も手伝ってくれる?」
「良いよ〜、ボクは魔力の供給は出来ないから魔法の効果を増幅させてあげるよ。」
僕は前線に出ると浮遊の魔法を使い空へと浮かび上がった。
視線が高くなったせいか王都まではそう距離がないように思えた。
「夢幻の創造!!」
僕の持てる最硬の防御魔法を展開し、軍全体へと張り巡らせる。
供給されている魔力が膨大なせいか今までで最高と思える頑丈さだ。
「結界は張られた!!ゆくぞ、全軍突撃ぃ!!!!」
結界が張られたことを合図に軍全体が動き始める。
僕もそれに習ってゆっくりと浮遊しながら前進した。
このまま進めば王都に辿り着く事は容易だ。
そう、考えていた僕の視線の先が少し光ったように見えた。
凄まじい速度で近付いた光が結界に当たると同時に強烈な発光が目を眩ませる。
「ッッ!!マリス!!!避けよ!!!!」
フィンブルの叫びが耳に入ってきたが、視線を外す暇もなく、最硬の結界は音を立てて割れ、遥か遠くから音速で飛来した光は僕の身体を貫き後方へと吹き飛ばした。
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