エルフといても目立ちたくない⑩
エルフのお姉さん達から精霊魔法を是非教えさせてくれと囲まれた後、嫌というほど精霊魔法について覚えさせられた。
部屋の中では実演が出来ないせいで、ああやってこうやって、と手振り身振りで説明されたせいで6割くらいしか覚えきれなかったのは内緒だ。
自室に戻る頃には既に外は暗くなっていた。
「ククク、長かったな。」
「ホントだよ……精霊魔法の事で頭がいっぱいだ。」
先にベッドで横になっていたフィンブルが笑いながらそんな言葉を投げ掛けてきた。
ミモレットに呼ばれた時点でなんとなく想像は出来ていたらしい。
知っていたなら先に教えてほしかったよ。
「どうだ?精霊との契約は……聞くまでもないな。」
フィンブルは僕の周りに目を向けるとフンッと鼻で笑う。
フヨフヨと浮かぶ精霊を見たのだろう。
「全属性の精霊と契約したのは僕が初めてだからって凄かったよ。色んなエルフの人達にこれを覚えろあれを覚えてってさ。」
「人間で精霊と契約できる時点でかなり珍しいからな。ま、お前は我すらも相棒にするような奴だ。誇って良いぞ。」
それはそうだろうけどね。
でも出来るだけ目立たずに生きようとしているのに、最近の注目度が高すぎて正直困る。
神獣に魔神に精霊と人外よくばりセットを手に入れてしまったし、目立たずに生きるのも難しくなってきた。
「1度エルフに気に入られるとしつこいぞ。奴らは基本エルフだけで固まっているせいか、人間で気に入った者を見つけると付き纏うフシがある。」
なにそれこわい。
その中でも珍しい人間を見つけたエルフらは特に僕への興味が尽きないそうだ。
それに殆どのエルフが僕より歳上であり、歳下の人間だと余計に構いたくなってしまうそうだ。
いい迷惑でしかない。
「それで?精霊魔法は使えそうか?」
「多分ね。使い方とか概念を教えてもらっただけだから実際に試してはないけど、それは戦場で試してみようかなって思ってるよ。」
「本当に我とマリスだけで戦争を終わらせられるかもしれんなぁ。」
そんな簡単にいけばいいけどね。
王国だって何らかの切り札は持っていると思うし、王都まで攻め込まれるような事態になれば必ず切り札を切ってくるはずだ。
夜が明けると、城内は騒がしかった。
鎧に身を包み武器を複数抱えて何処かへと向かって走る兵士や自身の爪を研ぎ目付きをギラつかせている亜人がそこかしこに見える。
殆どの大部隊は既に国境付近に集結しつつあるようで、僕らはエマさんの案内の下その場所へと向かった。
魔導研究会のみんなと別れフィンブルと2人で前線部隊の方へと足を運ぶ。
今の僕の身なりは黒いコートに狐のお面をつけたガインとなっている。
表向きは亜人国に味方する謎の魔導師という設定である。
「その格好……なかなかよいではないか。我は割と気に入ったぞ。」
「謎の仮面をつけた男と絶世の美女のコンビか。とても目を引くだろうね。」
「見惚れていればそれすなわち死だ。死ぬ間際に我の姿を見れるとは……光栄に思うがいい。」
いつもよりかフィンブルは気持ちが昂っているのか、尊大な態度を崩さない。
周りの目も気にしているのだろう。
少しでもカッコいい所を見せたいのか声も心なしか大きい。
王国の方へと目をやると、あちらも相応の軍隊を配置したのかズラッと兵士が並んでいた。
手には剣を持ちその後ろには魔導師と思われる者達が見える。
剣や槍を持つ者が多いのは王国ならでは、だ。
魔法大国といえる帝国とは違い力こそ正義の王国は剣の腕が立つ者や白兵戦に特化した兵士が多い。
剣で魔法に対抗するには少し厳しいと思うが、達人クラスにもなると魔法すら斬って捨てるのだ。
どんな技術かは知らないが、対魔法用装具などで魔法反射効果を高めて剣を振るっているとアスラさんから聞いた。
ただやはり数に差があるせいか亜人国の軍隊は見劣りする。
亜人国の軍勢は多く見積もって5万人程だが、王国軍は明らかに10万人を超えていた。
アスラさん曰く、王国全土にいる軍を合わせれば100万人はいるらしい。
流石にこの場にそれだけの兵士を配置はしていないが、倍以上の兵士がいると思うとなかなか勝てそうには思えない。
それこそ僕とフィンブルの初撃に掛かっているだろう。
合わせ技など試したことはないが、個々に最大威力の魔法を放つつもりだ。
僕だったら七色魔法を使うがフィンブルは何を使うのだろうか。
「これだけ人間が集まるのも面白いものだな。これから大量の命を散らすことになるが覚悟は出来ているのだろうな?」
「もちろん出来ているよ。王国は各方面に喧嘩を売りすぎた。これはその報復なんだよ、それにエルフ達からも話を聞いたけど、王国は弱者を食い物にしている。」
昨日精霊魔法を教わる際に王国に対する想いを聞いたが、なかなか壮絶な内容だった。
ある者は親を誘拐され歯向かった兄弟は殺された。
またある者は奴隷として働かされやっとの思いで逃げ出したが、その時に受けた心の傷は未だ癒えていないとか。
エルフを物として扱う王国にはここで滅んでもらう。
人間以外の命を軽く扱いすぎた報いだ。
「我々の魔法で何万人が死ぬか……お前はまだ幼い。もし覚悟が決まっておらんのなら後ろで控えておいてよいぞ。」
フィンブルがそんな事言うとは思わなかった。
僕を気遣ったのだろうか。
「大丈夫だ。彼らに、亜人達に力を貸すって決めたんだ。だから僕の人生で最大級の魔法を最初に放つ。」
「楽しみだな、マリスの本気が見られるとは。」
嬉しそうにクツクツと笑うフィンブルも準備が出来たようで、強い光を放ち神獣の姿に戻った。
今か今かと待ち構えていると、やっと開戦の合図が聞こえてきた。
「聞け王国の民よ!!貴様らの悪逆非道な行い、到底許せるものではない!!!よってここにハルマスク王国滅亡を宣言する!!!我ら亜人国の力を思い知るといい!!!」
マゼラン王の大声量が戦場に響き渡る。
これは僕とフィンブルへの指示でもあった。
「よし、きたな。やるぞマリス。」
「ああ、全力でいく。」
僕らは各々魔力を最大限まで練り、魔法陣を浮かび上がらせた。
王国対亜人国の戦いが僕らの攻撃によって開始される。
何万人も並ぶ王国軍に向かって僕は詠唱を始めたら、
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