神獣と一緒にいても目立ちたくない②
「あの子はとても強く美しかった。だから我が人間の姿になる時あの子の姿を真似ている。」
「相当綺麗な方ですよそれなら。普通なら引く手数多だったでしょうね。」
「だろうな、惜しい人材だった。」
フィンブルの速度が少し落ちた気がする。
やはり思い出に浸っているようだ。
「我はそれ以降人間と関わる事は辞めた。そして出会ったのが、マリス。お前だ。まさかまた虹色の魔力を見ることが出来るとは思わなかったぞ。」
「僕の住んでいる帝国の初代皇帝が虹色魔導師だったそうですよ。」
「存在は知っている、だが会った事はない……その頃には既に我は人里から離れておった。」
じゃあ何故今になって山を下りてきたんだろう。
何か理由があるに違いない。
「なんとなくだ。山を出なければならないと直感で思った。そのお陰で虹色魔導師と会えたのだから直感も馬鹿にはできんな。」
「まあ力を貸してくれることに関しては感謝していますよ。これが上手くいかなければ帝国と亜人国の同盟は実現できませんでしたから。」
そもそも交渉に失敗していたらフィンブルと本気で戦わなければならないところだった。
虹色魔導師で助かった。
「む、そろそろ着くぞ。一旦降りろ。我も人間の姿をとる。」
会話に夢中になっているといつの間にか亜人国の国境が見えていた。
速さは圧倒的だったらしく何処を見渡しても乗って来た馬車はまだ到着していないみたいだった。
それに僕が目立ちたくないだろうと気にかけてくれたようだ。
気が利くなぁ。
人の姿に戻ったフィンブルだがやはりそれはそれで目立つ。
銀髪の時点でも珍しいのに加えて背も高く絶世の美女ときたもんだから、これで目立つなという方が難しい。
こんな人を連れて歩いているのが僕だと言うのがとても申し訳なくなるな。
「どうした、行かんのか?」
「あー、とりあえず後続組を待ちましょう。一緒に入らないと国境警備の人に止められそうですし。」
レオンがいないとすんなり通れなさそうだしここは待つのが正解だろう。
というより僕がフィンブルの事を上手く説明できる自信がないからだ。
近くにあった岩に腰かけるとフィンブルも僕の近くで地べたに座り込んだ。
座ってるだけでも絵になる美しさだ。
病気で命を落とした本人と同じだと言うがこれほどの美女だったら、僕なら追い出したりしないね。
昔の人は見る目がなかったようだ。
「なんだ、ジッと見つめて。我に何か用か?」
「いや、綺麗なので見とれてました。」
「フッ、そうだろう?あの子は本当に美しかったのだ。細かい所まで全てそっくりにしてあるぞ。髪の毛の本数やほくろの位置まで全てな。」
芸が細かいな。
別にそこまで似せなくても。
まあ見る分には目の保養になるしいいんだけどね。
「そういえば今のうちに伝えておいてやろう。」
「何をですか?」
ふと思い出したかのようにフィンブルが話し掛けてきた。
表情を見るに真面目な話のようだ。
「虹色魔導師が生まれた時代には必ず何か大きな出来事がある。」
大きな出来事?
一体何の話だろうか。
「我の相棒でもあったフィンブル本人がいた時代には我が暴れたせいで人間の街という街は滅ぼされた。そして初代皇帝が存命だった時代には魔王が生まれ人間と魔族の大きな戦いがあった。」
「じゃあ今の時代は僕がいるから……。」
「何が起きてもおかしくはない。用心しておけ。もしかすると今度は魔神かもな、フハハ!!」
いや、笑えねぇよ。
魔神って帝城の地下に幽閉されているよ。
既に声まで聞こえてしまったけど?
これもしかして災厄の前兆ってやつか?
「あの……魔神って僕何処にいるか知ってしまったんですけど……。」
「何?どういう事だ?詳しく話せ、後その堅苦しい話し方はしなくてよい。お前は虹色魔導師なのだから我を殺す事ができる存在なのだ。敬う必要はない。」
「あ、そう?じゃあ普通に話すけどさ、僕魔神が帝城の地下に封印されてるのを見ちゃって……その時に頭の中に声が聞こえてきたんだけど、何かの前兆だったりする?」
「いきなりくだけたな……まあ良いが。その時の声はどんな声色だった?性別は?何を言われた?」
いや、多いな注文が。
でもそれだけ重要な事なのかもしれない。
僕はフィンブルに全てを話した。
「女の魔神か、それに封印を解いてくれだと?……ううむ、どっちの魔神かは分からんが少なくとも何か悪事を働いて封印されているのだろう。解けば大変なことになることは間違いない。」
「だよね、だから僕も聞こえなかったフリをしたんだよ。でもどっちの魔神って何?フィンブルは会ったことあるの?」
フィンブルは確かにどっちの、と言った。
ということは少なくとも魔神を2体知っているはずだ。
「全部で4体の魔神が存在する事は知っているな?その内の2体が女の魔神だ。その2体に関しては見たことがある。遠目でだがな。」
「遠目ってのは近付くと攻撃されるから?」
「いや、そうではない。万が一戦闘になれば勝ち目はないからだ。我が高位の神獣とはいえ魔神は格が違う。戦闘になれば深手を負わせれば御の字だろうな。」
それでも深手は負わせられるんだ。
十分凄いと思うけど。
「言っておくが、魔神は我とは比較にならんぞ?並の人間であれば魔神が魔力を垂れ流しながら近付いただけで死ぬ。」
なにそれ怖い。
歩く厄災じゃんそんなの。
「魔神か……何もなければ良いが……その魔神は簡単に封印が解けんようになっておるんだろうな?」
「多分ね。帝国最強のクレイさんって人が守ってるし余程の事がない限り封印が解かれることはないと思う。」
「余程……な。魔神に従う神獣もいるというのを忘れてくれるなよ。」
「ちなみに聞くけど、その女の魔神っていうのは何ていう名前?」
まだ何も無いかもしれないが一応名前くらいは知っておいた方がいいかもしれないとフィンブルに聞く。
「恐らく封印されているのはテスタロッサだと思われる。というよりそうであって欲しい。」
テスタロッサ……聞いたことがないな。
今度調べてみるか。
そうであって欲しいってなんだ?
もう一人の魔神だと困るのだろうか。
「テスタロッサは魔神の中でも一番慈悲深い魔神だ。」
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