亜人国でも目立ちたくない⑩
どういう事だ?
さっきまで目の前にフィンブルはいたはず。
どこからともなく現れた銀髪の女性に僕とアスカは戸惑いを隠せない。
反応に困っている所を見てかその銀髪の女性は話し掛けてきた。
「おい、何黙っているのだ。望み通り小さくなってやっただろう。」
まさかフィンブルだとでも言うつもりか?
神獣が人間に変化できるなんて聞いたこともないぞ。
「我は高位の神獣である。故に人間の姿を真似るなど朝飯前よ。……あまり好かんがな。」
「はぁ……なるほど。ありがとうございます。」
まあとりあえず人の姿になれるのなら、マシだ。
あんなデカい図体で連れ添って歩くのは勘弁して欲しかったし。
しばらくすると僕の魔法の音と光で戦闘が行われていると気付いたらしい待機組のみんなが駆け付けてきた。
「大丈夫か!……ん?誰だその女は。」
レオンが目聡く僕の目の前に佇むフィンブルに気が付いた。
ただその声の掛け方はよろしくはないな。
「彼女はフィンブルさんです。」
「フィ?なんだ?まさかこの街の生き残りか?」
「いやそうじゃなくて。この人が神獣フィンブルさんです。」
「何を言っているのだマリス?」
まあそうなるよね。
レオンは異常者を見る様な目付きで見てくる。
信じないよなー、僕だって目を疑ったし。
「おい、この獣人がこの国の者か?」
「あ、はい。この人はレオン、亜人国の皇子ですよ。」
「皇子……ほう?貴様が我に力を貸せと言っておるのか。」
フィンブルはゆっくり歩を進めレオンのもとまで行くと、下から上へとじっくり舐めるように観察した。
レオンは不気味がっているのか、顔を顰めている。
「魔力は殆ど感じん。力任せの獣人らしいな。」
「おい、マリス。この無礼な女性はなんなのだ。」
なんと説明したら信じてくれるだろうか。
待てよ?
人間に変化できるのだから元の姿に戻るのも簡単なのではないだろうか。
そう思った僕はフィンブルに提案した。
「すみません、多分みんな信じてないと思うんでもう一度元の姿を見せられませんか?」
「……面倒な事この上ないな。……まあよい、お前の指揮下に入ると宣言したしな。」
あ、それは言わなくても良かったよ。
また眩い光を発すると、最初に見た白銀の神狼の姿を取り戻した。
「うおおおお!!神獣だと!?いきなり現れたぞマリス!!」
「じゃあ再度人間の姿にお願いします。」
騒がしいレオンは無視して話を進める。
フィンブルはまたも眩い光を発し銀髪の女性の姿に戻った。
「おおお!?ど、どういう事なのだマリス!!」
「言ったじゃないか、この人があの神獣だって。」
「言葉だけで信じられるか!!」
レオン以外も驚いたのかみんな目を見開いていた。
キリカに至っては尻もちまでついている。
随分と脅かせたようで申し訳ない。
「で?もうよいかマリス。」
「大丈夫です。流石にまだフィンブルさんをただの人間として見る人はここにはいないと思いますから。」
「ならばよい。この変化の術もそれなりに魔力を使うのでな。出来ればあまり使いたくはない。」
そうだったのか。
確かに、あんなバカでかい狼から人間サイズになるんだ、莫大な魔力を消費するのだろう。
「それで我は何をすれば良いのだ。そこの獣人、要件を言え。」
「あ、レオン。もちろん分かってると思うけど……。」
「大丈夫だマリス。それくらいは弁えている。……ではフィンブル殿、手を貸して頂けるという認識でよろしいのですか?」
おお、レオンが敬語使ってるよ。
ちゃんとやれば出来るじゃん。
「手を貸すというのはマリスに聞いた。何をすればよいのかさっさと答えよ。」
「単刀直入に言わせて頂く。王国との戦争に力を貸して頂きたいのだ。聞けば王国は神獣を軽く屠れる程の魔導師がいるらしく、我々では戦力不足。そこで貴方の力を借りたいのです。」
そういう事か。
いや、レオン。
申し訳ないけどそれは僕だ。
倒した神獣ってあれだろ?
スプリガン家の指示通り戦わされた時に出会った神獣だろ?
でもここは言わないほうが良さそうに思える。
言えばまたややこしい事になりそうだし。
「ほお?我ほどではないとはいえ神獣を軽く屠るだと?ただの人間ではなさそうだな。それこそここにいるマリスのような魔導師がいるということか。」
チラッと見てこないでくれ。
どっちも僕だよ。
口にはしないけど。
「もちろん聖域や食料、その他望むものは我々亜人国が用意できる物に限り用意させて頂く。」
「よいぞ、ほれ、さっさと案内せよ。たかが人間の国一つ滅ぼすなど片手間で出来るわ。」
えらく好戦的なんだなフィンブルって。
あれか?
人間なんて羽虫程度の認識か?
というか二つ返事なのがびっくりした。
もっと渋るかと思っていたのに。
フィンブルは片手間なんていうけど王国は決して弱くはない。
どちらかというと強国である。
フィンブルはそれを理解しているのだろうか。
レオンもそれが気にかかったのかフィンブルに説明しだした。
「既に5体の神獣が倒されております。ハルマスク王国には優秀な魔導師が複数おり、弱小国家ではありません。」
「人間程度の魔導師がどうしたと言うのだ。やれ三色だやれ五色だなどと使える属性も限られておるのだろう?高位の神獣にはそんな制限などない。」
えっ、じゃあフィンブルって七色の属性を扱えるのか?
やっと理解したぞ、僕の魔法を受けてかすり傷しか付けられなかった事が。
七色の属性魔法を相殺するには同色の魔法が必須だ。
僕の七色魔法を見てフィンブルは合わせてきたのだろう。
「フィンブル殿の強さは十分理解しております。ですが王国は広い。たった1人では滅ぼすのにどれだけかかるか……。」
「ん?誰が一人だと言った?ここにおるだろう我の相棒が。」
フィンブルが僕を指差しそう言った。
もちろん全員の目線が僕に向く。
僕は別に相棒なんて言っていないが?
なぜこの男と?なんて目線を送らないでくれレオン。
僕の意思ではない。
勝手に言ってるだけだ。
「待ってくださいよフィンブルさん。僕は一緒に王国滅ぼそうね、なんて言ってませんが。」
「しかしこの獣人の願いであろうが。マリス、貴様は言ったであろう?この国の力になってくれと。」
確かに言ったけども。
でも2人だけで王国を滅ぼすなんて無茶が過ぎるよ。
フィンブルは簡単に死なないかもしれないが僕は人間なんだ。
いつか魔力は尽きるしその時は死が待っている。
「フッ、貴様ほどの男に勝てる者などそうおらんよ。」
王国に攻めるのは亜人国だけでやって欲しい所だがフィンブルはレオンに僕が参加しないというのなら協力はしないとまで言い出した。
また面倒な事になりそうだ。
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