帝城でも目立ちたくない⑧
応接間に集まった僕らはクレイさんの用意してくれた紅茶を啜る。
クレイさんは紅茶に目がないらしく世界各国の有名な紅茶を集めているそうだ。
「どうかな?これはビストリオ法国で有名な紅茶なんだ。せっかく聖女様がおられるならと思ってね。」
「とても美味しいですわ。香りといい深みのあるこの味がなかなか癖になりますね。」
そういえばロゼッタも紅茶好きだったな。
僕も好きだけど。
紅茶を飲み一息つくと最初に僕が頭を下げた。
もちろんローバー姉弟とシャーリーさんにだ。
「やり過ぎました、申し訳ございません。」
「気にしなくていいですよ、我々の力不足だったというだけです。」
シャーリーさんはそう言って何ともないような態度を見せる。
どうやらストイックな方のようだ。
「それにしてもあれがマリスの本気なんだろう?魔導大会なんてお遊びにしか思えなかったんじゃないか?」
「そうでもないよ。公には三色魔導師ってことにしてるし使える魔法に制限がかかる。」
フェイルの言う通り、全力で戦っていいのであれば魔導大会は圧倒的な勝利で終わっていた。
しかしそんな事すれば目立つことこの上ない。
ただでさえ人目を引く戦いを見せてしまったのだ。
雑談を続けていると真剣な顔つきでマリアさんが話し掛けてきた。
「マリス殿、折行って相談があるのだが……。」
あーこの感じは嫌な予感しかしないな。
師匠になってくれとでも言うつもりか?
「私の師になってくれないか?」
ほら来た。
でも僕が教えられる事なんてない。
既にマリアさんは十二神序列6位なんだ。
帝国魔導師の頂点にいるのにこれ以上何を教えろと言うのだ。
「私はクレイ殿に師事していたが、それも十二神になる為だった。しかし今は更に強くなりたい。」
「十分強いじゃないですか。何を目指してるんですか?」
「神獣を1人で討伐できるようになりたい。」
なかなか無茶な要求だな。
クレイさんであれば可能だと思うが本来神獣は1人で討伐するものではない。
四色魔導師でも可能だろうが、相当腕を磨かないと勝てないだろう。
「そもそもマリアさんはシャイアと2人で一つですよね?それで良くないですか?」
「良くない!!!1人で討伐できるようになりたいのだ!!!」
わがままだなぁ。
そこまで神獣の1人討伐にこだわる理由は何だろうか。
「私は過去に領地に現れた神獣と戦ったことがある。その時は今ほど力もなかったのだ、だから歯が立たず生き残った家族はシャイアだけ。家族はみんな殺されたのだよ。」
あ、結構壮絶な人生送って来たんだ。
悪い事聞いたな。
「その後クレイ殿と出会い今がある。ちなみにその時の神獣は未だ生存している。亜人国からやってきたと思われるが詳細は分からない。」
最近ちょこちょこ亜人国の名前を聞くな。
神獣と言えば亜人国なのか?
「亜人国……王国とはずっと昔から争っている国ですね。最近になって動きが活発化しているようですが。」
シャーリーさんも気には留めているらしいが帝国には実害が少なくあまり問題視はされていないようだった。
神獣を操る技術を持つのは亜人国だけらしく、どういう原理かは未だ分かっていないらしい。
そもそも亜人国は亜人のみで作られた国家であり、人間が介入する事は今まで一度もなかったそうだ。
故に神獣を操る技術と言うのが謎のままである。
「あ、そういえば陛下は何処に行ったんでしょうか。」
陛下?
何?さっきまでいたの?
「マリスは気づいていなかったの?観客席で一緒に見てたわよ。」
「遅いよ言うのが。挨拶すらしていない無礼な奴になっちゃったじゃないか。」
「んーでも陛下だったら別に気にしないと思うわよ。アタシ達だってあんたがどうやって勝つか賭けてたくらいだし。」
何、賭けって。
僕抜きで面白そうな事やってんな。
混ぜて欲しかった。
「陛下が勝ったから、仕事を手伝わされるのよアタシ達は。」
「勝った?何を賭けてたんだ。」
「陛下が勝ったら書類の整理を手伝う。負けたら何でも願いを叶えてやるって言われてたのよ。」
羨ましい。
まあ結果的にロゼッタ達は負けているから羨ましくはないか。
ドンマイ。
そんな話をしていると応接間の扉が開いた。
姿を現したのは噂の人物であった。
僕らはすぐに椅子から立ち上がり片膝を付く。
しれって入って来ないでくれ、心臓に悪い。
「む、歓談中失礼するぞ。よい、みな頭を上げたまえ。」
ガイウス皇帝とナターシャさんだ。
あれ、でもナターシャさんって前にパーティで見た時はガイン辺境伯と一緒にいたと思うけどな。
やっぱいろんな人の従者として仕事してるのかな。
なんかナターシャさんって有能そうだし。
「此度の賭けは余が勝ったな?ということは君達には仕事をして貰う事になる。ああ、マリスはよい。いや、友達を手伝うと言うのであれば好きにしてくれればよいがな。」
汚いな聞き方が。
それって手伝わなければ冷たいやつだって思われるって事だろ。
「陛下、彼らに何の仕事をしてもらうつもりですか?」
「書類整理……と言いたいところだがせっかくだ、先ほど話に出ていた亜人国へと赴いてもらおうと思ってな。」
クレイさんが険しそうな表情を見せる。
なんだろう、面倒くさそうな匂いしかしないな。
「陛下、お言葉ですが彼らはまだ子供です。亜人国への使者を務めるにはいささか分相応かと。」
「まあ学生のちょっとした遠征みたいなものだと考えてくれればよい。それに今回はナターシャともう1人十二神を付ける。」
「父上、私達も参加してよいと?」
「此度の目的はあくまで使者だ。この封書を届けて欲しい。だからルーザーとエリザもいた方が都合がいい。」
そう言ってガイウス皇帝は懐から丸められた封書を取り出した。
配達みたいなものかな?
ルーザーとエリザさんがいれば確かに信頼性は上がる。
相手からしても皇族が来たとなれば無下には出来ないはずだ。
でも危険はないのかな、クレイさんが険しい顔をしたのがすっごい気になるけど。
「陛下、マリス君にあの話は……。」
「む、そうだった。マリス、君の力は実際に見させてもらった。虹色魔導師と呼ぶに相応しい実力であったな。そこで一つ提案がある、宮廷魔導師として働かんか?待遇は保証しよう。」
皇帝からその話振るのはずるくない?
めっちゃ断りずらいなぁ。
嫌そうな顔をしてしまったからか、皇帝は焦りながら話を付け足す。
「いや!すぐに答えが欲しい訳ではない!じっくり考えてくれたまえ。」
「……分かりました。」
ガイウス皇帝はほっと安心したような表情を見せるとまたキリっとした顔に戻り話を続けた。
「話は戻すが亜人国への遠征は3日後だ。それまでに準備を進めていてくれたまえ。ああ、もちろん費用は国が出す、そのつもりで食料や装備を買いそろえるといい。」
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